第40話 殺しの分散和音2
君子危うきに近寄らずと言うが
大抵、本人は気付いていないものだ
周囲が助けてくれるからこそ君子なのかも知れない
「なんだ?!」
「どうしたのだ?」
探索者達に動揺が走った。
それはそうだろう。“龍の腕”を取り囲むスケルトン達が振り返り、一斉に槍の穂先をバルブレアに向けたのだ。
「“同志”殿、落ちつけと言うておるに!」
慌てたプルトニーが諫めようとするが、激昂したスキャパは止まらない。次には骨の檻でバルブレアを捉えようとしている。
GRRRRRRRR!
一方で“龍の腕”は敵のごたごたなど気にする様子もなく、その剛腕を振るう。幾体ものスケルトンが吹き飛ばされ、周囲に骨が飛び散った。
「…………邪魔をするな! 蘇生!!」
スキャパの瞳が深紅の輝きを放った。一瞬の後に巨大な手が“龍の腕”に伸び、その屈強な身体を抑えつけた。スキャパの魔法で一時的に蘇った“霜の巨人”だ。自我はないが、生前の能力を思う存分に振るうことができる。
さらには、最初に倒された戦士、燃やされた格闘家2人も蘇り、“龍の腕”へと襲いかかった。その目に感情はなく、ただ目の前の敵だけを見詰めて黙々と攻撃を繰り返している。つまりは、スキャパの意志に沿って動く人形のような状態だ。
あまりの異様な光景に、探索者達は圧倒された。それはそうだろう。強力な悪魔と骸骨に加え、死者が蘇って戦っいるのだ。まるで地獄絵図のようなものだろう。
「いかん!」
プルトニーは骨の檻に包まれたバルブレアにその短い腕を伸ばし、短距離転移させる。その瞬間、骨の檻に何本もの槍が突き立った。
「おお! 女魔法使い殿、見事な腕前だ! しかしどうしたのだ? せっかく死霊使い殿が守ってくれているのに?」
「どこまでも能天気な女じゃな。あの様子が目に入らんのか?」
スキャパは黒い霧のような魔力を噴出させ、死体とスケルトンを操っていた。スケルトンはあきらかに強化されており、“龍の腕”すら数で圧倒できるようになっていた。バルブレアに危害が及ぶと感じたプルトニーは、牽制のため横一文字に炎の壁を張った。
「あの姿は……」
「まるで魔王じゃないか」
スキャパの様子を見た魔法使い達から呟きが漏れる。怒りに燃えるスキャパを揺らめく炎がライトアップし、悪魔“長老”以上のラスボス感を演出していた。
「さらに不味かったのう。これはどうしたものか……」
プルトニーは“虚無の掌”とスキャパにおののく探索者達を見やり、ため息をついた。
事態は刻一刻と悪化している。“虚無の掌”は周囲のスケルトン達を空間ごと千切り倒し、小煩い攻撃魔法を飛ばす魔法使い達に近付こうとしていた。
◇
楽園で佇む秋は、先に進むべきか、戻ってバルブレア達を支援すべきか考えていた。
そこに、ミルトン(バジリスク)とイシアンが現れる。
「秋様!」
「どうしたんだお前達?!」
自分に駆け寄ってくるミルトン(バジリスク)に驚く秋。イシアンはゆっくりと秋を見上げる。
「この先 イシアンと同じ力を感じる」
「時を操る力のことか?」
イシアンは白い瞳を秋に向けて語りだす。
「この地は 吸う力と保つ力」
「時代を超えて吸い寄せられているということか?」
「目的は不明 結論は同意」
ふむ。到達者は“吸う力”が真理の一つと言った。ということは他にも“真理”と言われる力がある。それが時を操る力なのだろうか。秋は“楽園”を見詰めて考えこんだ。
「それとも空間を操る力なのか」
「下層にイシアンの力 そして他の力」
秋は座ってイシアンに目線をあわせ頭を撫でる。
「悪いが、また君の力を借りるかもしれない。見かけは子供なんで、できれば巻き込みたくなかったが」
「あ、秋様、私も! 私も!」
「お前は完全に子供だしダメだ」
「ええ!? せっかく来たのになんで~」
秋は不満気なミルトン(バジリスク)の頭をポンポンした。
バルブレア達に何かあれば、最悪、時間を戻して対応することもできる。だが、その力を持ってしても“到達者”には通用しないかも知れない。
『(今は、戻らない方がいいわ)』
ふいに女神が念話を送ってきた。
「(なんでだ?)」
『(対決に集中しているし、邪魔しない方がいいわ)』
勿論、魔王然としたスキャパが暴れているなどとは思いもよらない。長老との対戦に気合が入っているのだと秋は受け取った。
「では、層を目指そう」
女神は眉間に皺を寄せつつ、スキャパ達の様子を女神の力で見守っていた。
◇
物陰から弓を引き絞る蓮華。その先には“虚無の掌”の姿がある。スケルトンを消しながら魔法使いたちに向かっているところだ。
危険を感じた魔法使いたちは、雷撃や炎撃などの攻撃魔法を飛ばし対抗している。
RRRRRRRRR
“虚無の掌”には全く魔法が通じてないようで、その歩みは止まらない。
「魔法耐性が高いようだな。となるとやはり物理攻撃でいくのが正解だろう」
シュン・・・!!
蓮華から狙いすました矢が放たれる。攻撃魔法に隠れるようにしつつ、一直線に矢が“虚無の掌”に吸い込まれていく。
RRRRRRR!!
だが“虚無の掌”は、矢を正確に見極め、その腕で空間ごと消し去った。なかなかに鋭い察知能力をしている。
「・・・上手い!」
矢を消される様子に何故か蓮華は笑みを浮かべていた。“虚無の掌”が降られた瞬間、無防備になった顔面に上空から矢が突き立った。躱されることを予測し、事前に矢を放っていたのだ。
GGGGGGGGG!
驚いた“虚無の掌”が声をあげる。矢は眼窩を上から貫いていた。さすがに目の内側は外皮ほど頑丈ではないらしく、蓮華の矢でも十分に通じるものだった。
シュン!! シュン! シュン!! シュン! シュン!! シュン!!!
続けざまに矢を放つ蓮華。どれをかき消されても当たるように、角度を変えて放たれた矢は、時間差で“虚無の掌”に降り注いだ。
目をやられてこたえたのか、流石の“虚無の掌”も苦しんでいる。無暗に腕を振り、辺りの空間を削っていた。だがその攻撃もむなしく、両眼を貫かれ視界を失うこととなった。
優勢となりながら蓮華の表情は曇っていた。一時的に圧倒できても倒しきれないからだ。
「これは手強い。奥まで突き立てる刃が必要だ」
蓮華は弓を放り投げ腰の刀を抜いた。そして“虚無の掌”の後ろに音もなく回り込んだ。
その様子に気付いた魔法使い達が、正面から援護攻撃を放つ。意識を自分達に向けるためだ。
「もらった!!」
ザクッ!!
後方から狙いすました蓮華の刀が“虚無の掌”の横腹に突き立たせる。角度をつけ、そのまま心臓まで通す技だ。
RRRRR!
蓮華に気付いた“虚無の掌”が唸り声をあげる。懐に飛び込んだ蓮華の方が早いだろう。
「馬鹿な??」
刀を刺した瞬間、蓮華の顔は蒼ざめた。刀の先がないのだ。
“虚無の掌”は自分の身ごと刀を消し、心臓まで突かれるのを阻止したのだった。脇腹から血飛沫をあげながら、“虚無の掌”は振り返り、逆の手で蓮華に襲いかかる。
「・・・これは抜かった。悪魔とばかり思っていたが、貴様も武人なのだな」
蓮華は相手を見据え、中途まで消された刀を構えていた。その刀も腕もかき消される。
「馬鹿! 何、覚悟を決めてんの」
その瞬間、蓮華は後ろから伸ばされた腕に抱きかかえられていた。いつの間にか女暗殺者が自分を助けている。
「これは一体?!」
「あの子供達からお願いされた。あんたに危機が迫ってるってな」
GGGGGG!!
女暗殺者の存在に気付いた“虚無の掌”が一歩を踏み出す。
その瞬間、に足元で爆発が起こった。罠を得意とする女暗殺者の小技だ。その間に、素早く安全圏へと退避するのだ。もっとも、安全な場所があればだが。
「そうか・・・。あの子達が・・・」
「ちと遅かったようだが、どうにか約束は果たせそうだ。まずは止血をしよう」
女暗殺者ヘーゼルは、両手を消されてしまった蓮華を見詰める。
「“虚無の掌”も“龍の腕”も相当ダメージを受けている。上手くやれば倒せるだろう。だが、無傷なのは盗賊3名と魔物使い、そして自分だけ。魔法使い達は頑張ってくれているが、もうマナ切れが近そうだ。蓮華も老戦士も戦闘不能だろう。だがこの戦力で長老2体を追い込まなければならない。それにしてもあの死霊使いはやっかいだな」
ヘーゼルは死霊使いが聖騎士と女魔法使いを攻撃する様子を一瞥し、恨めしそうに呟いた。
※誤字修正




