表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/54

第39話 殺しの分散和音

昨日の敵は今日の友、昨日の友は今日の敵

立場により関係が変わることを指している

これが恋敵の場合は、気付いていることが前提だろう


悪魔“長老”に飛び掛かった5人の戦士が、その長老ごと千切れられる凄惨な光景は、歴戦の探索者達にも少なからず動揺を与えていた。長老“虚無の掌”が腕を振った瞬間、何の抵抗もなく戦士達はバラバラと崩れてしまったのだ。


「あれは・・・」


「空間を裂いている」


ミルトン(バジリスク)の言葉にイシアンが返答した。

その言葉に反応したのは、弓使いの蓮華であった。


「お前たち子供を巻き込まぬためにここに来たつもりだったが、あれを見る限り我らの犠牲はさらに大きくなるだろう。全滅を避けるため、加勢せざるを得ない。すまぬが荷物運び(ポーター)達と逃げてくれぬか」


「虚無は強い。生存率は同じ」


「イシアンの言う通りだわ。ここで逃げたところで多分、生死に影響はないわ。蓮華さん、気にせず戦って下さい。あいつを倒さないと、きっと誰も生き残れないんでしょう」


「逃げぬと言うのか。これは肝の座った子供達だな!」


目を開いて蓮華は子供達を見詰める。蒼ざめていた顔に元気が戻ったかのようだ。


「うむ。うむ。子供達が頑張っておるのに、これは不甲斐なかったな。では子供達よ、そこで見ておるがよい」


「はい」


武士的思考の蓮華は、感涙しながら前線に向かって走った。弓使いとして敵に近付くのはどうかと思うが、その場の雰囲気に押されたのだ。こうした点はバルブレアの聖騎士的思考と非常に似通っている。


「まあ、近付くのも良かろう。多少、危険は増すが、使える技に幅も出る」


子供達に負けないよう腹をくくろうと考える蓮華であった。

一方、子供達はそうした殊勝な考えをしている訳ではない。お荷物になる気はさらさらないのだ。


「蓮華さん行ったね。今なら秋様を追えるわ」


「そんなこと考えてたの?」


「ほっとけないの! 私達、今は能力が使えないけど、きっと何か手助けが出来ると思う」


「ぼ、ぼくはここで待ってるよ。…怖いわけじゃないけど」


「そうね。プーカ…アードベックはここにいて。私は門に行ってみる」


「門の向こう イシアンの力に繋がっている」


「あら! イシアンも行ってくれるのね! じゃ行きましょう」


言うが早いか2人は蓮華に見つからないよう遮蔽物をつたって門をめざす。アードベックはドキドキしながらその様子を見守っていた。





GRRRRRR!


“虚無の掌”の低い唸りが戦場に響く。体格は他の長老よりずっと小さいぐらいだが、あまりにも危険な技を持っていた。


「盾も鎧も関係なく無くなっている。千切られたように見えたが、全く無くなってしまっているみたいだ!」


老戦士オーバンは大きな声を張り上げ見たままを全員に伝えた。情報共有が重要だ。


「前衛はとにかく距離をとれ! 魔法使いは“虚無の掌”に援護攻撃を! 残る後衛は“龍の腕”への攻撃をお願いする!」


悪魔“龍の腕”を正面に見据えながらバルブレアは指示を飛ばした。秋が離れているいま、自分がこの集団を守らねばならない。その声を受けて魔法使いは攻撃魔法を飛ばし、盗賊や魔物使い達はスリングショットで石を飛ばした。

バルブレアは前衛と言ったが、戦士・格闘家は既に討たれており、オーバンも利き腕をやられた状態だ。残るは重装騎士1名と魔物使いが操るタイタンスライムが1体あるだけだ。


「重装騎士殿! 来るぞ!」


ガガガガ!!


“龍の腕”の剛腕と重装騎士の盾がぶつかる。そして音をたてて、重装騎士は転がっていった。返す腕でバルブレアの盾を抑え込む。


天の裁き(ヘブンズ)!」


超至近距離でバルブレアは“龍の腕”に落雷を落とした。バランスを崩した“龍の腕”は前のめりに倒れ、かえってバルブレアに覆いかぶさるようになってしまう。


その瞬間、巨大なあばら骨が出現して“龍の腕”をバルブレアから引き剥がしその場に固定する。

ゴオオっと音を立ててそのあばら骨が燃え上がる。これは炎の壁を応用しているらしい。


「こ、この骨と炎はまさか?!」


「いいところで登場かの?」


プルトニーはさらに火力を強め、“龍の腕”を焼いていく。以前とは段違いの魔力の強さだ。一方で“虚無の掌”は、長槍を持ったスケルトンが十重二十重に取り囲んでいた。


「……前衛はまかせろ」


バルブレアは重装騎士を助けおこしながら癒し(プレイヤー)のオーラを放った。そのオーラの暖かさと援軍の到来が探索者集団を元気づけていた。


死霊使い(ネクロマンサー)殿! 女魔法使い(ソーサレス)殿! よく生きておられた!」


「いや、それはおぬしじゃろうて。よくこんなごつい悪魔を相手に頑張っておったもんじゃな。さすが“変態”じゃ」


どうやら突然現れた死霊使い(ネクロマンサー)女魔法使い(ソーサレス)はバルブレアの知己らしい。強力な戦力の到来に驚きつつも探索者達は、バルブレアが“変態”と呼ばれていることに驚いた。


「変態?」


「変態ですって?」


「…あのバルブレア殿が変態」


口々に“変態”の言葉が伝播していく。結果的に、凶悪な敵への怯えが払われ、士気を高めることにつながっていた。


「いや、“変態”はやめてくれぬか。指揮しにくいのだ」


バルブレアは複雑な表情を浮かべ、スキャパとプルトニーに懇願した。




「これは凄いことになっているな」


黒髪の暗殺者アサシンヘーゼルは戦いの様子を見降ろしてぽつりと言った。

長老“虚無の掌”と“龍の腕”は、何十ものスケルトンが取り囲み、魔法による攻撃が行われていた。時折、一際大きな炎の魔法が炸裂し大地が揺れる。見れば、死霊使い(ネクロマンサー)女魔法使い(ソーサレス)が戦線に加わっていた。


暗殺者アサシンさん!」


ヘーゼルは思いもかけぬ方向から声をかけられ驚いた。何故、ここに子供達がいるのだろう。あの弓使いは何をしているのか。


「どうしたんだ?」


暗殺者アサシンさんこそ門に入らないんですか?」


痛いところを突かれヘーゼルは苦笑いを浮かべる。入りたくても入れないのだ。


「まあ、戦況を見定め、ここぞという時に敵を討つのが私の仕事だからな」


「なるほど! そうなんですね」


無邪気に応えながらミルトン(バジリスク)とイシアンは門に向かう。


「ちょ、ちょっと待った! どこに行くんだい?」


「門の中です。秋様を助けないと」


「いや、その門は・・・」


ヘーゼルはどう伝えたものか言い淀んでしまう。その間に2人は門へと行ってしまった。


「門よ・・ ΑΒΓΔ  ΤΥΦΧ」


イシアンは門に何かを告げた。何を言っているのかは分からない。だがミルトン(バジリスク)は気にする様子もなく、さっさと門へと入ってしまった。


「え?!」


「イシアンは行く 弓使いに危機 暗殺者が支援」


あっけにとられるヘーゼルを置いてイシアンも門に入ってしまった。自分は門に入ることが出来ないのに、これはどういうことか。ただ、こうしていても仕方がない。どうやら弓使いのサポートを任されたようだ。


「まいったな・・・」


ヘーゼルは音もなく戦場へと戻っていった。





GRRRRRRRR!


“虚無の掌”の腕がまた振られる。その瞬間、スキャパが召喚したスケルトン達は、胴部分が掻き消え、崩れ落ちてしまう。


ズカ! ドカ!


だが、すぐさま後衛のスケルトン達が長槍を“虚無の掌”に突き刺した。大してダメージはないようだが、削っても削っても次のスケルトンが現れ、四方から突かれることに苛立っている様子だった。


「おお! 死霊使い(ネクロマンサー)殿! 腕をあげられたな!」


「・・・いいからオーラ支援。足をひっぱれ」


「そうだったな! まかせておけ!」


バルブレアは聖なる零域(ホーリーフリーズ)を展開し、長老達の動きを阻害する。これまでは防御力を高めるオーラ“反抗(ディファイアンス)”が主体だったがスケルトン達の耐久力を上昇させても意味がない。“虚無の掌”に一瞬で消されるからだ。


あからさまに“龍の腕”は動きが鈍くなり、集中砲火を浴びている。そこにバルブレアも天の裁き(ヘブンズ)を叩き落した。


「……なんだ、少しは賢くなったのだな」


「愛が私を成長させたのだ!」


その言葉にスキャパとプルトニーが凍り付いた。


「……愛、だ、と?」


「そう愛だ! 私は遂に王子の愛を射止めたのだ! 嗚呼! 世界は素晴らしい!」


オーラを全開にして輝くバルブレアは満面の笑顔だった。反対にスキャパの表情には陰惨な影が差している。


「ま、まさかあの朴念仁を篭絡したのか? これは“変態”をみくびっておったわ」


「……おい まさかとは思うが」


スキャパの瞳が赤く燃えていた。その視界には長老は入っておらず、バルブレアだけを睨みつけていた。


「“同志”殿! さすがに今はまずいぞ! もし? 聞いておるのか、おい!!」


必死で呼びかけるプルトニーの声は届いてないようだ。スキャパには凶悪な魔力が集まり、まるで別の生き物のようになろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ