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第36話 氷河都市

“信じる者は救われる”とは日本で良く耳にする言葉だ

実はそのものずばりの原典はないらしい

意訳はときに宗教を超えた観念として広がりをみせる


オーバンはじめとする石化していた探索者の多くが、秋たちと行動をともにすることになった。もっとも探索者にとっては“バルブレア”がこの集団の中心であり、秋は単なる補佐役との認識だ。秋も面倒だから、それでいいとバルブレアに任せていた。


女神はといえば、結局のところ稽古槍の中に引き篭っている。『時々、皆に天啓を与えるから』との交換条件に秋が同意したためだ。神々しい光の中に包まれながら探索者の前から姿を消した後、ドヤ顔で悦に入るのが鬱陶しかったが、思考を閉じてればいいので良しとした。


「秋様、都市が見えます」


ミルトン(バジリスク)が秋を振り返り何やらはしゃいでいる。すっかり懐いてしまったようだ。何やらパーティーの一員気取りである。この都市に子供達は置いていくと言っているのだが分かっているのだろうか。


「こらこら身を乗り出すでない。危ないであろう? 誰が狙っておるか分かったものではないぞ」


弓を背負った和風鎧の女“蓮華”がミルトンを諫める。気付けば蓮華が子供達の保護役におさまっていた。後衛という職種上、子供を守るのに都合がいいのか、子供が好きなのかは分からない。


石化からの解放をやってのけた後、一度、リザードマンの集落を調べてみたのだが、神官も戦士の姿もなく無人となっていた。子供もまだいた筈なのにどこに行ったのだろうか。


「それにしても大人数になったものだな」


バルブレアは何やら嬉しそうにしているが、人をまとめるというのは大変なことだ。この30人にもなった集団をどうまとめていくのか。


「秋様! 氷です!街が氷になってます!」


「これ! だから危ないというに」


ミルトン(バジリスク)の言うように街は氷で覆われていた。リザードマン神官も氷の魔法を使うが、これはその比ではない。とてつもない力だ。一体、誰がこのような技をなすのか。


ステータス検索をする秋。“  ”、“  ”、“  ”、“  ”、“  ”。


「なんてこった」


「どうしたのだレンバ殿?」


表示されない大物が何人もいる。今の俺よりレベルが随分と高いらしい。


『霜の巨人だわ。危ないことに巻き込まないでよね』


「引き篭りが“霜の巨人”って言ってるぞ。分かるかイシアン?」


「古い種族。大自然の精霊。神族とも戦う」


「そうか。役に立つ情報をありがとう」


うんざりしながら秋はステータス表示を修正する。読み取れないものを“霜の巨人”に置き換えた。少なくとも近辺に7体いるらしい。やがて2体が姿を現すと、探索者達は大きくどよめいた。突き刺すような殺気にあてられたのだろう。


「身を凍らせるような迫力だな。さすがは“霜の巨人”と呼ばれるだけはある」


バルブレアはさっそくオーラを展開し、“霜の巨人”が発する吹雪のような圧力を相殺する。「さすがは聖騎士様だ!」との声があがるなど、動揺はおさまってきているようだ。


身の丈は3mほどで、手には剣と盾か。鎧は薄そうだが意外と防御力は高そうだ。何より、大型モンスターを見てきたせいか“巨人”というには微妙に感じる。


特に圧力を感じていない秋は、冷静に“霜の巨人”を分析していた。その視線に気づいたのか、一人の“霜の巨人”が声をあげた。


『何者だ。ここに立ち入ることは許さぬ。早々に立ち去るがいい』


思ったより知的な声が発せられ、秋はなんとなく安心していた。これは交渉が出来そうだ。


「(おい、通過するだけだと伝えてくれ)」


『(いやあよ。何か嫌な予感がするもの。あ、ちょっと、ガンガンするから振らないで! もう、分かったってば・・)』


秋が機嫌悪そうに鎌部分を岩にぶつけ出すと、仕方なく女神は“霜の巨人”の前に姿を見せた。


「おお! 女神様が降臨したぞ!」


「また助けてくれるんだ!!」


何やら盛り上がる探索者達を他所に、俺は細かい指示を女神に送った。ちゃんと理解してくれるといいのだが。


『“霜の巨人”よ。私は女神“バランタイン”。故あって、ダンジョンの深淵をめざす大地の子らを通してあげて欲しい』


突然の女神の登場に“霜の巨人”達は大きく反応した。どういう訳か前の2体は剣を抜き放ち、奥に控えていた“霜の巨人”達は矢を弓につがえだした。


『(あ、あれ? なんかおかしいわよ?!)』


『女神“バランタイン”よ。その小さき者どもを通す訳にはいかぬ』


「(いいから天啓だと言え)」


『(わ、分かったわよ) “霜の巨人”よこの子らを止めることは能わぬ。 天啓に導かれし者なのだ 』


また動揺が走った。今度は探索者の方にである。「お、俺ら“導かれし者”だったんだ!」「俺らすげー。マジやべー」とか雑音が聞こえる。


『何故、ダンジョンの深淵をめざす。危機が高まるのを見逃す訳にはいかぬ』


「(止められぬ危機などない。そのために来た、で押し切れ)」


『(何それ、ちょーヤバイじゃない) “止められぬ危機などない。その危機から救うために天が遣わしたのだ”』


ドヤ顔で自分に酔う女神。後光が燦然と輝いている。もちろん後光を足しているのはバルブレアだ。その言葉に反応したオーバン達は女神の後ろに立ち並び、一斉に剣を抜き構える。そして恍惚とした表情で涙を流していた。

何やら絶頂を迎えるかのような探索者達の様子にこめかみを抑えつつ、秋は次の指令を送った。


「(自分にうっとりしてないで、畳み掛けろ。もう一息だ)」


『(うっとりなんてしてないですー。元からですー)』


「(いいから早くやれ)」


『(もう!) “霜の巨人”よ。この子らが次々と倒れ、それが一人になったとて、必ずや悪を討ち滅ぼすでしょう』


『女神“バランタイン”よ。そこまで分かっているなら止めはしない。門はこの奥にある。だが“霜の巨人”が憂いていることを忘れるな。』


そういい残すと“霜の巨人”達は剣・弓をおさめ、いずこかへと姿を消して行った。


『(やったわよ! どう? 門があるんだって!!)』


褒めてと言わんばかりの女神を無視し、秋は“霜の巨人”の言葉を考えていた。

次々と倒れる? 一人になる? 何故、分かっていると言ったのか・・・。


「おお! 巨人共を退けたぞ! 我々の女神に剣を掲げん! どうか我ら導かれし子らに祝福を!」


絶好調の盛り上がりのなか、秋は腕組みをして氷に閉ざされた街を眺めていた。





流れる川を逆行し細い山道を進む死霊使い(ネクロマンサー)女魔法使い(ソーサレス)の姿があった。


「しかしムチムチ。行けども行けどもなかなか追いつかんのう」


死呪士(ブードゥー)の言い方が気に入ったのか、プルトニーは先行するスキャパのヒップを見ながら言った。実際、スキャパは死霊使い(ネクロマンサー)とは思えないほど健康的なボディーをしている。


「……いい加減にしろ。誰がムチムチか」


スキャパは振り返ってプルトニーの襟首を掴み上げた。少女のようなプルトニーは簡単に持ち上げられる。だが、本人は一向に気にしていないらしい。


「いや、羨ましいぐらいムチムチじゃろうて。それを使えばあの男も楽に堕とせるのではないか」


「……胸騒ぎがする」


スキャパは視線を遠くにやり腕の力を抜いた。川沿いの道には、大量のモンスターの死骸が続いている。あれから一体、どれだけのモンスターを屠ってきたのか。2人とも各段にレベルを上げており、既に上級呪文を幾つも使いこなせるようになっていた。


「あの“変態”めが篭絡しておるかも知れんからの。相手にしていないようで積極的なのが好きと見たぞ」


「……そ、そうなのか?」


真剣なスキャパの表情を見て笑い転げるプルトニー。


「……性格が悪いぞ」


「そりゃ魔族じゃからな。おっと、前を見んか」


スキャパに襲いかかろうとしているゴーレムに、ぼっと炎の魔法を飛ばす。だが、炎が着弾する前にゴーレムの身体はスケルトン達の槍に串刺しにされていた。


「ほんと惚れておるのじゃな。上級魔法を身につけても尚、(それ)を鍛えるか」


「……さぼっていたと思われたくない」


やれやれ、といった表情でプルトニーは前をみやる。そこには、氷に閉ざされた都市が見えていた。


「はて、もう一息じゃろう。そんな予感がするのじゃ。もっとも再会がどのようになるかは想像つかんがの」


プルトニーははやるスキャパを見ながらそう呟いた。


※参考


<前衛>

秋:槍

バルブレア:聖騎士

オーバン:老戦士

戦士×6

重装騎士×1

格闘家×2


<後衛>

蓮華:弓

魔法使い×4

魔物使い×1


<支援その他>

盗賊×3

暗殺者×1

荷物持ち×5

子供×3

※ミルトン(バジリスク)、アードベッグ(プーカ)、イシアン


※本文、人名ミス、ミスタイプを修正

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