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第35話 老兵達の舞踊曲

心の声というものがある

伝えられない本音をさすのではなく

察してくれない人に届けたいものを意味している


少し時は遡る。女神が秋、バルブレア、イシアンの前に現れた直後だ。


『イシアンと貴方達が呼んでいるその子は、エルフや人間が台頭する前に星を治めていた旧支配者の一人ね。我々神々以前からの存在よ』


バジリスクの質問に女神が答えた。最初はおっかなびっくりだったが、少しずつ会話するうちに好奇心が沸いてきたらしい。女神の方もバジリスクが尊敬の態度を崩さないので、丁寧に説明している。秋もイシアンも“様”付けの特別扱いをしてくれないので不満を感じているようだ。


「じゃ女神様、イシアンも神様なんですか?」


『いいえ。時を操る術は持っているけど、貴方達リザードマンと変わらない普通の生物よ。でも神話以前の世界にいた、とてもとても古い種族なの。こうしたあり得ない邂逅があるのも、世界の終焉の集合体である“終わりのダンジョン”ならではね』


「あり得ないのは、お前のダメさ加減だけどな」


『それだけ女神に辛辣なのもあり得ないわね。でも、なんだかゾクゾクしてくる自分が怖いわ』


女神は少し頬を染めて身を震わせる。ある面、バルブレアと通じる属性を持っているらしい。ただ、ゆったりとした貫頭衣とはいえ薄衣なので身悶えするとメリハリのあるボディーラインがよく目立つ。


「ただでさえ面倒な状態なんだからダークサイドに堕ちるのはやめてくれ。今、お前が女神でなくなったら困るんだ」


「女神様のお力で時間を戻すのですか? 凄いです」


「時を操るのはイシアン。神の加護で力を引き上げる。女神の祝福で引き戻す」


「なんだ、アクセルとブレーキみたいなもんか。壊れたブレーキなら無い方がいいんじゃないのか?」


『要るに決まってんでしょ!』


女神は秋の身体をずいっと押す。抗議はしているものの、まんざらでもないらしい。罵られ、さっきより喜んでいるように見える。

一方、イシアンは条件が揃ったとばかりに両手を鍾乳石にかざした。じゃれ合いには興味がないらしい。フルートのような高い声で詠唱を始める。


「ΑΒδΔ  ΤΥΦΧ αγψζ ・・・・」


「綺麗な歌声です。イシアン、歌も上手なんですね」


『太古の詠唱よ。唱に乗せて術式をくみ上げていくの』


女神の目には、魔法陣が組みあがっていくのが見える。複雑かつ大きな魔法陣が幾重にも重なり、それが鍾乳石を包んでいく。

秋の手の稽古槍も振動していた。仕組みは分からないが、神の加護がアクセル役を果たしているのだろうと秋は思った。


『我が大地の子らを時の檻から放ちたまえ。我が名はバランタイン。女神の一柱を成す者なり』


女神の声とともに、イシアンの術が発動した。地面は震え、水面は波打ち、風が頬を打つ。秋はイシアンの周囲に表示される“時間操作 逆行開始”の文字を確認し、石化したバルブレアを見詰めていた。





『いつまでそうしているつもり? 何か腹が立つわね』


女神の声で我に返る秋。周囲のことなど頭から飛んでいた。見れば、周囲の鍾乳石もステータス表示が出ている。それは“石化80%”“石化45%”など様々だ。どうやらイシアンの魔法は継続中で、全部の鍾乳石に向けられているらしい。時間はかかるが、やがて戦士も魔法使いも元に戻るのだろう。


「なんか、戻ったら戻ったで、説明が面倒そうだな」


『石化の恐怖で記憶は止まっているでしょうしね』


「ここは女神(おまえ)が悪者を調伏したということで、皆に説明するといのはどうだ?」


『いやあよ! またあの吸う奴に目をつけられるかも知れないじゃない。・・・面倒だし』


ぼそっと最後に言った方が本音だろう。どうしてこいつはニート気質が強いのか。


「まあ、どうするにしろ“到達者”はどうにかしなければならないけどな」


秋は目をそらしたままの女神を見詰めながら言った。どうも苦手意識があるようだ。しかし女神としての存在価値とか意義とか役目とかいうのは一体、どうなっているんだろう?


「ところでレンバ殿。これは一体どうしたことだ? 随分、親しいようだがこちらの女人はどなただ? そして子供達は?」


「ほら、これを全員に説明することになるんだぞ。女神の振りすりゃ一回で済むぞ」


『振りって言った! 私、女神なのに振りって言った!』


気易い態度の秋と女神にバルブレアが膨れる。どうも誤解されているようだ。


「いや、今から説明するから・・・」


「説明が面倒なら別にいいぞ。また口を塞いでくれるのならな」


「うわー三角関係かな? 大人の世界ですね」


バジリスクは女神とバルブレアを見やり、何故か興奮していた。





『大地の子よ奇跡が起きたのです・・・』


石化前の状態に復活した探索者達で、女神が“女神の役”を演じている。結局、秋の案が押し通されたのだ。だが内心、秋はひどく後悔していた。女神の演技が胡散臭すぎて信仰宗教にしか見えないからだ。しばらくすると、女神の足元にバジリスクとプーカが跪き、調伏された演技をしてみせていた。信仰宗教のイベントから学芸会へとランクダウンしたようだ。


『汝、バジリスクと呼ばれし者よ。今、汝のその力を取り払い、罪を取り払おう』


きらっと閃光が起こるとバジリスクとプーカはその場に倒れる(演技)。


『この者の名はミルトン。以後、穢れた名で呼んではならぬ』


ミルトンとはバジリスクの本名だ。オラドリムでの呼称は全てコードネームだそうだ。


『そしてこの者の名はアードベッグ。もはや特別な力のない“ただの子供”に過ぎん』


実際に、2人は能力が発動しないようプーカ自身に暗示をかけさせたていた。従前の通り、秋は戦いに子供達を巻き込むことを避ける考えだ。だが、能力があるとなれば誰かが利用しようとするだろうし、そもそも子供の成長に良い影響があるとは思えない。ここで“リセット”させるのが一番だ。


シャーン・・・!


女神は聴衆を睥睨(へいげい)し飾りのついた杖を大きく鳴らした。何が起きるのかと、聴衆は固唾を飲んで見守っている。


『ここでの聖戦は終わった。何人も“問”を発することはまかりならぬ。全てを受け入れる者に救済を与えん』


あ、質問を封じやがった。説明責任を放棄するとはとんでもない悪党だ。ああ?上手くいったと思ってやがるだろ。口元が笑ってるぞ。


『(ちょっと笑かさないでよ、せっかく上手くいってるんだから)』


こいつ、聴衆の前で演説しながら人の思考に返事してきやがった。ニートの分際で生意気な。


『(誰がニートよ! 大体、女神様をつかまえて胡散臭いって何よ! キー!)』


ぎゃーぎゃー女神が煩いので秋は器用にそちらの思考を閉じた。そして、一連の出来事に思いを巡らせる。

神官のゲル、そしてその周囲にいた数人しか村人はいなかった。本来は50人規模らしいが誰も見当たらない。神官を問い詰めたが、何も知らないようだった。いずれ教皇が戻ってくれば大事になるだろう。


探索者達は互いに顔を見合わせている。質問を封じられ、どうしたものか話し合っているようだ。しばらくすると先頭にいる老戦士が探索者を代表することになった。


「ありがとうございます女神様。このたびは私共にご慈悲をお与え頂き言葉もございません。(やつがれ)はオーバンと申す。質問は許されないとのこと。その聖名(みな)をお呼びすることが叶わぬのをお許し下さい」


『(あ、しまった。名前ぐらい言っとけば良かった)』


「質問をすることは致しません。ただ、お導きを頂きたく存じます。女神様のご恩に報いるため、(やつがれ)は、いや我々皆はどうすれば良いでしょうか」


『(ちょ、ちょっと、どうしよう? あれ? あんた何、思考を閉じてんのよ? おーい! ちょっと聞いてってば!!)』


微笑みを浮かべる女神に一筋の冷や汗が流れる。だが、探索者にはそれが冷や汗には見えなかったようだ。


「おお! 女神様が泣いておられるぞ!」


「これはいかがしたことか?!」


秋が気付くと、何やら探索者達が騒めいているところだった。どうも女神が涙を流していると思っているらしい。悲しい運命が待ち受けていると思ったのか先程質問していた老戦士オーバンは沈鬱(ちんうつ)な表情を浮かべていた。まあ、実際のところ明るい未来は俺にも見えていないんだが。


「(お前、今度は何やらかしたんだ?)」


『(あんたが思考を閉じてるからでしょ! これどうしたらいい?! 導いて欲しいとか言ってるんだけど)』


「それなら話は早い」


バルブレアが嬉々としてオーラを輝かせ探索者達の前に立った。いかん、バルブレアに黙っているよう伝えるのを忘れていた。


「私は聖騎士(パラディン)のバルブレア。貴殿らと同様、石化されていた者だ」


おおと聴衆がどよめく。何やら自信満々な様子が頼もしく、いや神々しく見えるらしい。


「伝説以上の脅威がこのダンジョンには満ちている。だが、諦めることを女神は望んでおられない。涙を流すことにもきっとつながるだろう。だが、我らは苦難に打ち勝ち、この終わりのダンジョンを制覇し、栄光を勝ち得ようではないか!」


『(いやいや、無理無理、あんた達、バジリスクにも勝てなかったじゃない?! 私、そんな危険なことしたくない)』


「「「「「おおおお!!!!」」」」」」


割れんばかりの声援と武器を鳴らす音が地下空洞に響いた。何やらオーバンは涙を流しながら声をあげている。そして女神も涙を流し、どうしたらいいかオロオロとしていた。


騒々しい場所から離れ、秋は再び思考の渦に身を置いていた。

正面から“到達者”に対すればひとたまりもない。一刻も早く自分達も最下層へ到達する必要があるだろう。全ての鍵はそこにある。では、攻略部隊をどうするか。このなかに有効な能力を持った者はいるのだろうか。子供達もいるのでどこか拠点を得ることも必要だろう。秋は課題を思い浮かべつつ、平行してスキャパやプルトニーが表示されないかステータス検索をかける。


「あれ?」


残念ながら、検索できる範囲には上にも下にも2人の名前はなかったが、少し下層に都市があるのを見つけた。リザードマンの集落にいては、いつ到達者が現れるか分からない。秋はこの地下都市をめざすことに決め、女神へと念話を送った。



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