閑話 バルブレア2
「俺たちといかないか?」
輝くような表情で若者は自分に手を差し伸べていた。そこには溢れる自身、太陽のような魔力、そして人懐こい笑顔があった。十人中十人がその手を握るであろうと思われる。ましては若い女ならウットリとしても無理はない。何故なら彼は、皆の心の希望たる勇者であるからだ。
「いや、何か違う」
「は?!」
勇者は想像外の答えに驚いた。今まで自分の意見が通らなかったことはない。ましてや自分の容貌を意識するようになってからは、女の反応もよく理解していた。容姿・名誉・富・将来性、全てにスキなどないだろう。女性の喜ぶ態度さえ勇者の力で把握するくらいなのだ。
「誘ってくれるのを断るのは心苦しい次第だ。だが、貴君は私が考える殿御と異なる。他をあたってくれたまえ」
何の躊躇もなくスタスタと去る聖騎士の様子に、しばし勇者は呆然とした。自分の誘いを断る女がいるのか。いや、ひょっとしたらこの女は自分が勇者だということを知らないのではないか。
「ま、待ってくれ聖騎士殿。私は、今代の勇者だ。是非、魔王討伐に協力してもらいたい」
「おう勇者殿か。かねがね貴君の噂は聞いている。魔王討伐に協力するのもやぶさかではない。だが、それは貴君とではない」
「な、何故だ? 私は勇者だぞ?」
後ろで聖女の笑い声が聞こえた。それは、勇者をよく知らない聖騎士に対するものなのか、勇者の威光が通じない自分に対するものなのか。
「魔王討伐は聖騎士としての使命だ。それには異論はない。だが、貴君は私が剣を捧げる相手ではない」
「何故、そう言い切れるのんだ? 勇者はそうたびたび顕現するもんではないぞ」
「ふむ。私が剣を捧げるのは勇者でも皇帝でもないからだ。では失礼する」
「いや、待て、待ってくれってば・・・」
再び、スタスタと去っていく聖騎士を勇者は慌てて追いかける。何故、追いかけるのか。それはプライドだけのものだろう。
「では、誰に剣を捧げるというのだ」
「決まっている。まだ見ぬ私の王子様にだ」
満面の笑みで答えるステナブレア。既に成人したその姿は若武者のごとき美々しさと女としての美しさに輝いていた。その大きな瞳が見つめる先に勇者の姿はない。
それを見てとったのか、笑い転げる聖女の姿が目に入ったのか、勇者は敗北した気になっていた。
「分かったよ、じゃ、君の王子を探す手伝いをさせてくれ」
勇者17歳、聖女16歳、そしてステナブレア170歳(人間年齢17歳)のことであった。




