第2話 少女の行進曲1
見た目に騙されてはいけない。
可愛い女ほど実は性格が良かったりするものだ。
もっと素直になれよ。
「これは旨い!! 東方にはこんな飲み物があるのか!」
バルブレアは喉をならして、勢いよく“綾鷹”を飲む。
秋が想像していたエルフと異なり、バルブレアは豪快だった。
妖精的な要素は皆無で、むしろドワーフの戦士のような振る舞いだ。
「しかも冷やしてくれるとは、サムライの魔法とは噂以上に凄いものだな」
無言でバルブレアを見つめ、ため息をつく秋。
サムライが魔法? それなんてゲーム?
世界観がつかめず、どこから話をすべきか分からなくなった秋だったが、
ともあれ自己紹介をすることを思い立った。
「僕の名前は連場秋。
道着姿なので勘違いしたのかも知れないけど、サムライじゃないよ」
「そうであったか。異境にはサムライというマスターに使える戦士がいるそうでな。
聞いていた風体と貴公が似ていたのだ」
「まあ、僕は公務員なんで、宮仕えしているという点では同じかな
サムライみたに武装はしてないけど」
「ほう! ということはサムライの上級職という訳だな!
刃がない槍なので不思議に思っていたが、合点がいったぞ」
余計、誤解させてしまったようだ。
秋は説明することを諦め、話を切り上げることにした。
急いで道場を掃除しないといけなかったのだ。
「バルブレアさん、私はそろそろお暇しないといけません」
大きな目をさらに見開いて驚くバルブレア。
すがるように秋の肩を掴む。
「いや、しばし待って欲しい。
情けない話ではあるが、この恐るべきダンジョンに一人残されるのは非常に困る」
「え? バルブレアさんは一人でここに来たんじゃないんですか?」
「いやいや、5人パーティーで挑んだのだ。しかし、あまりのモンスターの強さに撤退を決意し、私が殿をかって出たのだ。ところが気付けば、先に行った4人の方が打ち倒されていたのだ」
バルブレアの視線を追うと、死体が幾つもあるのが見えた。
「念のために聞きますが、ゴブリンって弱いモンスターの代表ではないですか?」
「その通りなのだレンバ殿!」
ばんっと膝を打つとバルブレアは、声のトーンを上げる。
“よくぞ言ってくれた”という雰囲気だ。
「森で遭遇するゴブリンなど何匹集まろうと物の数ではない。
100体いたところで全て切り伏せられるだろう。
ところがこのダンジョンのモンスターは桁外れに強かったのだ」
バルブレアは恐ろしそうに身を震わせる。
「あっという間だったよ。
まさに“終わりのダンジョン”なのだと、生を諦めかけていたところだった」
いや、ゴブリン、簡単に突き転がせたけど・・・。
思わず口を突きそうになった言葉を引っ込め、秋はバルブレアに声をかけた。
「地の利があったんでしょう。
それより、聞き捨てならないことを言いましたね。
“終わりのダンジョン”ですって?」
「魔王を倒した後に現れるという究極の迷宮だよ。
誰言うともなく“終わりのダンジョン”と呼ばれている」
「えーと・・・魔王?
念のために聞きますが、そこで死んでるのは・・・?」
「勇者、女格闘家、女魔法使い、聖女、
魔王を倒した私のパーティー達だ」
魔王に勇者? 勘弁して下さい。