第23話 砂嵐の回顧3
理解はできなくても納得のいく言葉がある
当然と思いつつも納得できない言葉がある
考えと思いの違いを感じる瞬間でもある
“苦痛”を倒したことで、レベルが上がったのか、秋は身体が充実する感覚を味わっていた。試しに槍を振るってみると軽い。槍自体の重量は変わらないが、自分の手足のように感じられる。身に着けた技の感覚は残念ながら戻っていないが、身体自体はもう一息といったところか。“さて”と一呼吸置いてから秋はプルトニーを振り返った。とても高揚しているが気分は全く晴れない。
「魔王は倒す。しかし理由は記憶にないと」
「うむ」
「そしてパーティーを組むと」
「そうじゃ。見たところ汝らは最下層をめざしておるのじゃろう?
ならば大物を倒し、レベルアップを続けるのが必定じゃ」
「記憶がないことはいいんですか?」
「うむ。記憶があろうとなかろうと、魔王をたいらげることに違いはなさそうじゃ。精々、狩りを楽しみたいと思うておる」
実際、その通りだった。バルブレアもスキャパも下層を目指している。秋は“終わりのダンジョン”から元の世界に戻るのが目的だったが、その方法が分からない。手がかりは真理に到達したとかいう自称“到達者”ぐらいだ。これがRPGの世界観で作られたダンジョンなら、どうせクエストをクリアしなければ脱出は叶わないだろう。秋はレベルアップの必要性を感じていた。
「……現状の最大火力は“同志”の魔法だ。
これなしに魔王クラスに対抗するには相当のレベルアップが必要」
スキャパは冷静に現状を分析する。ここは協戦するしかないのだろう。スキャパ自身はプルトニーの参加を気に入ってはいないらしいが、そこは大人なようで折り合いをつけることに苦はないようだ。だが、精神的に子供なバルブレアは気に入らないのを態度で現し、しきりにプルトニーが秋に近づかないよう阻止している。長命であるエルフであり、しかも成人しているにも関わらず、精神年齢はほとんど小中学生だ。
「“変態”は妾を“淫乱”に近づけたくなさそうじゃが、それは無駄な努力じゃぞ」
「な、何故だ?!」
「その男は妾に興味を持っておるようじゃ。これはかなりの年上好みと見たぞ。汝のようなお子様は眼中になさそうじゃ」
「そ、そうなのかレンバ殿~?!」
泣きそうな顔で秋を振り返るバルブレア。大きな瞳は涙でウルウルし“私がもっと年長であれば”と喚いている。お前より年上って一体、何歳だよと秋はうんざりしながら2人をじとっと見つめた。
「じゃ、魔族とエルフの年齢の話にしますけど、いいですか?」
「「それはよそう(よすのじゃ)」」
2人はハモりながら断言した。年齢の話を自分らで進めておいて“年齢を訊かれるのは嫌”とはどういうことか。1000歳が2000歳になったところで大差ないだろうに。二人の子供っぽさにため息をつく秋であった。
◇
「……それより役割分担だ。
“同志”の考えを聞かせてもらおう」
スキャパは不満を。滲ませつつ話題を変えた。実際、紹介するスケルトンが通用しなくなっているのを肌で感じている。せっかく身に着けた槍の技術だが、脆過ぎてどうしようもない。もっと頑丈な手下か別の手段が必要だった。
「汝らの今の能力を確認するべきじゃ。“淫乱”は槍で間合いがとれるとは言え、基本的には近接攻撃型じゃ。 攻撃役か盾役しか務まらん。逆に妾は遠距離攻撃型じゃ、攻撃力そのものは高いと自負しておるが、近接戦闘はできぬ。攻撃役でも 盾役でも良いが、前衛がおらんと即死じゃ。で“変態”は、遠距離攻撃役もできるが所詮は真似事じゃ。妾とは火力が比べようもない。盾役に徹した方が得策じゃろう。残るは“同志”は・・・これが難問じゃ」
スキャパは一息に持論を披露し、そこで顎に手をやり小首を傾げる。少女の仕草なら誰もがきゅんとしそうだ。推定1000歳を超えていそうだが。
「これまで“同志”はスケルトンを操ることで、疑似的に盾役を果たしておったが、もはや通用するレベルではない。“淫乱”を槍の盾と考えれば既に盾役は足りておる。ここは死霊使いの奥義を尽くして攻撃役になるべきじゃろう。あくまで盾役にこだわるなら、スケルトンを切り捨て他の頑強な何かを召喚せねばなるまいて」
「死霊使いの召喚術って他は何があるんですか?」
「……ゴーレムもしくは倒した死体だ。
だがいずれも美学に反する。骨こそ至上」
思わず秋とバルブレアは顔を見合わせた。スキャパの感性は独特だ。だが、プルトニーはこの答えを予想していたかのように、平然としていた。
「じゃろうな。では“同志”は引き続きスケルトンを使いつつ、ダメージの大きい死霊術を行使せねばならん」
「……理解している。
だが、レベルがあともう少し届かない」
「どんな術を使うんです?
「死体媒介爆破。神に背く大技じゃよ。なあ“同志”よ」
思わせぶりな視線をスキャパに送るプルトニー。習得の決意は決めているようだ。本来は骨だけでこの“終わりのダンジョン”を制覇したかったのだろう。スキャパは表情には出さないが、悔しさを手の震えに滲ませていた。
「む、死体媒介爆破? 聞くからに生を冒涜するかのような魔法名だな」
「……止めるか?」
「いや、相性のいいオーラを教えてくれ。冒涜より強敵に突破だ。このダンジョンを制覇してから幾らでも懺悔をしよう」
バルブレアはスキャパに決意の眼差しを向けた。これには3人とも意外な印象を受けるのだった。
「ではまずはスキャパさんのレベル上げですね。ゆっくりダンジョンを進み、フォーメーションを試しましょう」
秋自信、試したいことがあった。実は攻撃役とか盾役とか言われてもしっくりときていない。もっと自分なりの戦闘手法があるのではないかと感じていた。
「おお頼もしいぞレンバ殿」
「ほほう“淫乱”がリーダーシップを発揮するのか。それは楽しみじゃな」
「リーダーぶるつもりはありません。悪いのですがプルトニーさんの案に完全同意した訳ではないのです。皆さんの説明はしっくりくるのですが、自分は何か違うような気がしてなりません」
秋は槍を見詰めつつ3人に応える。秋の言葉に呼応するかのように稽古槍が輝いたようにも見える。
「……気付いてないところで吸われている。
そんな気がする」
スキャパは誰に言うともな不安になる言葉を口にした。秋は、スキャパの言葉の意味が分からなかったが、その言葉が腑に落ちるような気がしていた。
「僕もそんな気がします。気はするのですが答えはありません。戦いながら見つけましょう」
秋の言葉に頼もしさを感じつつ、バルブレア、スキャパ、プルトニーはダンジョンの奥を見詰め、歩を進めていった。




