第21話 砂嵐の回顧
“年の差婚”には本邦で48歳というものがあるそうだ
種族すら異なる異世界なら年の差など無意味になるだろう
極端な趣味を持つ者にとっては楽園となるのやも知れない
石段を降りるとそこは砂だらけだった。ダンジョンが石造りなのは変わらない。だが苔やシダの生えていた熱帯のような上階と異なり、ここは砂だらけの乾いた世界だった。
「まるでここは砂漠の下で眠る墳墓のようだな」
「…‥墓は眠らない
眠っているのは、埋葬された何かだ」
バルブレアとスキャパのやりとりは相変わらずウェットだ。乾いているようでいて、絡むような何かがある。
「何かって…。ミイラとかですか?」
「……こうか?」
「ぎゃー!!!」
スキャパは召喚したスケルトンに布をまいてみせる。
まるで墳墓を守護するミイラのようだ。暗がりで見るのは心臓に悪い。
「……砂漠には砂漠の呪いというのが」
「なんでそこで怪談になるんですか?!
大体、スキャパさん呪いや死霊を仕事にしてるんでしょう!」
「……そうだった」
「おっと! おでましのようだ」
通路の向こうから、幾つもの影が近づいてくる。
布を被った砂の民のような衣装で松明を手にしている。
「貴様らは何者じゃ?」
問い詰めるような声が奥から発せられた。声は若い。いや幼いと言ってもいい。
「どうやら人間のようだな。
敵かと思って警戒したぞ」
バルブレアが返答する。
そうすると、人垣が左右に分かれ、奥から小さい砂漠の民が現れた。
「貴様は聖騎士か。砂漠の聖域を踏み荒らす愚か者共よ、早々に立ち去るがいい」
十字軍とイスラム教徒のような関係だろうか。秋は、争いを避けようと間に入った。
「待ってください。危害を加えるつもりはありません。
立ち去りますので、出口を教えてくれませんか?」
小さい砂漠の民が首を傾げる。
「んー。てっきりエルフの集団かと思っておったのじゃが、汝は人間ではないか。
何故ここに人間などが入り込んでおるのじゃ」
「確かにバルブレアさんはエルフですけど、私ももう一人も人間なんです。
ここは人間が立ち入ってはいけないエリアなんですか?」
秋の返答に目を見張る小さい砂漠の民。そして笑い転げる。
「これは愉快な! 面白いことを言うのう。
汝の連れに人間などおらんぞ。エルフともう一人は……」
「……そこまでだ魔の存在よ」
スキャパが小さい砂漠の民の言葉を遮る。
え? 今のどういうこと?
混乱する秋を他所にスキャパが声を荒げる。
「……惑わされるなレンバ。
こいつは人の心を惑わす魔の存在」
「いかにも。妾は魔を操るプルトニー。
女魔法使いじゃ」
フードを外すプルトニー。そこから現れたのは12歳ぐらいの少女だ。切れ長の吊り上がった瞳は挑戦的に燃え上がり、白い肌にはルーンのタトゥーが刻まれている。そして、長い黒髪からは2本の角が出ていた。
「貴様らは魔族か!」
バルブレアは驚きの声をあげた。
「面白いぞ聖騎士。魔族の聖域に踏み込んだ汝らにこそふさわしい言葉じゃのう」
プルトニーは右手の杖をバルブレアに向ける。そこには凶悪な魔力が迸っていた。
「汝らは我らが敵じゃ。魔獣の業火に焼かれるのが相応しい」
バルブレアの右手にも聖なる力が集まっていく。
「貴様こそ、神の裁きに撃たれるが良い」
2人の腕が掲げられる。
「多頭炎竜!!」
「天の裁き!!」
「まったー!!!!!!」
秋の稽古槍が間に割って入る。その穂先は、プルトニーから発せられる紅蓮の魔力をかき消し、その頭上に落ちるスキャパの落雷を跳ねのけた。
「これは!?」
バルブレアは秋の行動にも、自慢の天の裁きを破られたことにも驚かされた。
思わず、プルトニーに二撃目を放つことも忘れてしまう。
「ほほう! 発動中の魔法をかき消すとは、長年生きておるがこれは初めての体験じゃのう。人間ごとき、と思っておったが只者ではないらしい」
プルトニーも追撃することなく秋の技に感心していた。
「汝らを焼き払おうと思うておったが、やめじゃやめじゃ。
これは面白い、汝、名はなんと申す?」
プルトニーは秋に近寄り、じっと見詰める。
言葉は年寄りのようだが、身体はどう見ても女子小学生だ。スキャパも大概だったが、これをその上を行く。
大きな違和感を感じつつも秋は、一応、年長者として扱うことにした。
「僕は連場秋と言います。どういう訳かここにたどり着きましたが、無暗に争うつもりはありません。そもそもここは、どこなんでしょう?」
「ほほう! レンバーキと申すか。中々奥ゆかしい名前じゃ。
知っておるか、バーキとは我々の言葉で“淫乱”という意味を持っておる。
よくよく見れば憂い顔をしておるし、これは中々、楽しませてくれそうじゃな」
プルトニーは中年親爺のような表情を浮かべて秋を見る。真っ赤になる秋をバルブレアが怒ったような表情で庇う。
「貴様、言うにことかいて“淫乱”とは何だ!?
確かに、レンバ殿を見ると何やらモヤモヤした思いになるが、侮蔑するとは許せんぞ!」
「なんだ汝はレンバーキに惚れておるのじゃな。まあ、男子はそれぐらい魅力がある方がいいじゃろう。それに聖騎士よ。妾は侮蔑などしておらんぞ。魔族の言葉を説明しただけじゃ」
しれっとプルトニーはバルブレアに返す。どうも長命のバルブレアよりさらに年上のように感じる。
「プルトニーさんは一体、幾つなんですか?」
「女子に年を尋ねるとは。それも魔族にじゃぞ? これはなかなかの羞恥プレイじゃな。さすが“淫乱”じゃな」
「……まあレンバが“淫乱”というのは面白い。
真面目なようでギャップがある」
何故かスキャパまで参戦し、秋は顔をしかめる。
「おう。汝は同じ価値観のようじゃな。
まあこれ以上は言わんでやるから、妾をパーティーに加えるがよい」
バルブレアは周囲の砂漠の民を見渡す。15人ぐらいはいそうだ。
「むう? 人数的に加えてもらうのは我々の方ではないのか?」
「ああ! あれは数には入らんのじゃ」
プルトニーが右手をあげると、一斉にその姿が床に崩れた。そこには布と砂しかない。
「……念動力か。
これだけの数を動かすとは凄い」
「さすがよく分かるのう。妾は炎の魔法に特化しておるが、他の系統の小技も幾つか使うのじゃ。
それで申し出の方はどうじゃ?」
秋はスキャパとバルブレアを見た。
「……相当の戦力増になるだろう」
「レンバ殿に悪さをしたり、侮蔑したら、ただではおかんぞ!」
要は2人とも賛成ということか。
秋は、この砂だらけの世界に不安を覚えつつも、強力な味方を得たようで少しほっとしていた。
「分かりました。では一緒に行きましょう。
それはいいんですが、ここはどこなんです?」
プルトニーは愉快そううに笑いながら秋を見る。
「やはり汝は面白いな。ここがどこか分かっておらんで言っておるのじゃな」
プルトニーが杖を振るうと、炎が床を一直線に奥へと伸びる。高く炎が上がり闇を照らすと、そこはまるで玄室のような空間だった。そこには、巨大な禍々しい姿が浮かんでいる。
「こ、これは?!」
巨大な爪を持った昆虫のような威容。7mはあろうかという巨体を見上げ、秋、バルブレア、スキャパの3人は息を飲んだ。
「聖域と言ったであろう。ここは砂漠に眠る“苦痛の帝王”の墓所じゃ。
魔王の一人と言った方が分かり良いか? 訳あってヤツを倒さねばらなぬのじゃ」
プルトニーは杖を持つ右腕を高く掲げた。




