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第19話 神殿突破武技

“感動が人を動かす”とは良く言われる言葉だ

事業・教育などビジネスを中心に広く使われている

だが感動や信頼がなくとも人は動くときがあるのだ

この“終わりのダンジョン”に入ってからは、不思議なほど感覚が冴えていた。握る槍は自分の手のように感じたし、相手の力の動き、そして自分がそれに干渉することによってどう変化するかという理合(りあい)も“見え”るようだった。


だが、その感覚は吸われるように無くなり、経験した技の多くも失ってしまった。

それが強敵を倒すごとに、少しずつその感覚が戻ってくる。いや戻るだけでなく、新たな経験を積んだことで視野の広がりを感じるぐらいだ。


元の力には遠く及ばない。だが、また違った力を発揮できる。

秋は、新たな手応えに興奮しながら、名前付きの悪魔…“悪しき手”の長老を睨んでいた。


GRRRRRR・・・・


“悪しき手”は唸りながら残る右手を上げる。そこから白い(もや)が噴き出したかと思うと、長老の死体が起き上がった。


「……蘇生か」


「恐るべき敵だな!」


スキャパとバルブレアが目を見張る。“悪しき手”は長老ばかりか周辺で死体となっていた神官達まで次々と蘇らせていくのだ。

やっかいなのは長老より神官だ。次々と魔法で凍結攻撃をかけてくる。バルブレアは狙いうちしようにも、蘇生された神官達に囲まれ逃げ道を塞がれていた。


「くっオーラ…」


「違うよバルブレアさん。冷気や電気に耐えるオーラじゃない。

 それより“悪しき手”を倒す支援をしてくれ。手下は復活したが、やつが回復した訳じゃなさそうだ」


2体の長老の攻撃を受けながら秋は呼びかけた。

秋は冷静に“悪しき手”を観察していた。傷ついた体はそのままだ。すぐ自分で攻撃してこないところを見ると、回復する余裕が欲しいのだろう。


「……だが、レンバもダメージを食らうぞ。冷気は範囲攻撃だ」


スキャパは復活した長老に呪いをかけながら確認する。もう魔力がほとんどないため、スケルトンの支援ができない。


「なんとかなる・・・と思う。

 バルブレアさんは神官をお願いします」


秋は右の長老の攻撃を(かわ)しつつ2体の足がからむよう稽古槍を突き入れ、バランスを崩させる。狙うは“悪しき手”だ。


「了解したぞレンバ殿!

 天の裁き(ヘブンズ)! 天の裁き(ヘブンズ)!」


バルブレアは雷を神官に落としつつ剣を抜き、長老に切りつけた。

秋を“悪しき手”のところに行かせるというのだろう。





スキャパは歯噛みしながら戦況を見ていた。

もう魔力はなく死霊使い(ネクロマンサー)として支援をすることは出来ない。

長老どころか神官にさえ歯がたたないであろう。

それでもスキャパは骨の槍を持ち前に進む。


「……(まと)はそこにあるだけでいい」


いつから自分はこんなに献身的になったのだろう。

計算高く生きていこうと思っていたのに。

リーダーぶった大口の責任をとろうと言うのだろうか。

それとも2人にこの姿を見せることで後の立場を築こうという打算だろうか。


自分でも理由が分からないまま身体は前に出ていた。

ある種の感動は人を動かすという。

全く感動していないのに、何故、こうなっているのだろう。


自問自答しつつも、スキャパの頭を占めていたのは、

秋との槍の稽古の情景だった。


まあ、「習う」というのも特殊な環境。

吊り橋効果とかいうのが働くというしな。


笑みを浮かべつつスキャパは、バルブレアの後ろからもう一体の長老に骨の槍を突き入れる。

大してダメージはないだろう。だが、秋を追いかけようとしていた長老の動きを止めることは出来た。


「……どうした悪魔よ。

 お前の前には敵がいるではないか」


スキャパはカスカスの魔力を絞り、その腕を発光してみせた。





2体の長老をすり抜けた秋は“悪しき手”に迫る。さらにその槍は冴えを増し、三度(みたび)突いてから放電を(かわ)せるようになっていた。

秋はもう一本の剛腕も折ってのけ、“悪しき手”の攻撃力を奪う。ひょっとしたら蘇生も封じたかも知れない。


「っえええええいっ!!」


いけると感じた秋は“悪しき手”の腹に深い一撃を入れ、そのまま畳越しの要領で“悪しき手”を宙に飛ばした。


「おおお?!」


バルブレアの驚きの声があがるなか、宙を舞った“悪しき手”は、復活した神官の群に落下する。


バリバリバリバリ‥‥!


これまでにない雷光が地上で輝く。巻き添えを食って発光する神官達。“悪しき手”の叫び声とともに、辺り一面が黒焦げとなった。

あまりの光景に長老達の攻撃の手も止まる。


「えええええええぇぇい!!」


雷光が収まるか収まらないかの内に、秋は一直線に“悪しき手”を目掛け滑り込む。


「レンバ殿!?」


「……レンバ!」


その声がかき消されるかのような轟音が響いた。


GYAAAAARR・・・・


叫び声をあげる“悪しき手”。その身は雷光で焦げていくかのようだ。

やがて、神官だった消し炭の塊に溶け込むように倒れていった。


「くっ! レンバ殿!!!」


バルブレアは動きの止まっている長老2体の首を()ね秋に駆け寄っていく。

既にオーラは癒し(プレイヤー)に切り替えていた。


「……馬鹿な。

 ……レンバ」


倒れて動かない秋を見てスキャパは呆然としていた。

せっかく犠牲になるつもりだったのに秋が特攻するとは。

言い知れぬものが胸を走り視界が歪んでいく。


「レンバ殿!!」


秋はバルブレアに抱き起される。道着は雷光で黒焦げになり白い肌が露出していた。

ひどい火傷だが癒し(プレイヤー)が回復していく効果が見られた。


「おお! 生きている!」


思わず焦げた道着を脱がそうとするバルブレア。

その顔を大きな手が抑えた。秋の手だ。


「ストップ。ストップ

 大丈夫だって。危なかったけど」


「いや、こういう時は着物を脱がし、患部を確認して手当をせんとな」


「なんかその手つきが“いやらしい”んだってば」


「こ、これは騎士としての(たしなみ)だぞ。

 その肌の安全を確認せんわけには」


スキャパの瞳からは涙が溢れていた。

いつもの光景に安心したかどうかは分からない。何も分からないまま涙を流していた。

ただ言い得ぬ悔しさから、秋の道着を脱がすバルブレアにスキャパは呪いをかけた。


「あう! これは何も見えんぞ?!

 せっかくなのに何も見えん!!!」


視界だけでなくお前が呪われよ。

スキャパはレベルアップと魔力の回復を感じつつ笑みを浮かべていた。


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