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第1話 襲撃の前奏曲

常識は変わっていくものだ

転がった先が“異世界”というより

トラックに轢かれる方が落ち着くんじゃないか?

マイ稽古槍を抱えて道場の門をくぐると、どうも景色がおかしい。

何故か幅3mほどの通路となっており、見通せないぐらい遠くまで石畳が続いている。

そう、目の前にあるのはダンジョンだった。


「涼しい・・・。」


驚いてはいたが、連場秋(レンバアキ)の口から漏れたのはそんな言葉だ。

クーラーなどという文明の利器が導入されている道場は少ない。夏の日差しで汗ばんだ肌に、冷気はとても心地良かった。


「道場の掃除、どうしよう・・・。」


道場の掃除は若手の担当だ。入門して日の浅い秋は、誰よりも早く出て掃除をしている。こんな異様な事態にも関わらず、秋の心は掃除のことでいっぱいだった。

不安になって振り返ると、元の景色がすぐ前に見えていた。別に戻れない訳じゃないらしい。


「・・・あああぁっ!!」


そうしたところ、威勢のいい女の声と金属がぶつかる音が響いた。

近くで何かあったらしい。

掃除の心配をしつつも秋は、反射的に駆け出していた。


少し走ると右手に角が見える。角を曲がると信じられない光景が秋を待ち受けていた。


「GUGAAAAA!」


「GYAA!!」


錆びた剣や斧を手にした集団が、騎士姿の女に襲い掛かっている。

小柄で緑色をした肌。牙が生え、細い吊り上がった目には知性が感じられない。

その姿はまるで、ファンタジー小説に登場するゴブリンだった。


「そこの方! 助力をっ!」


盾で攻撃を防ぎながら、女騎士が必死で呼びかける。

それがスキとなったのか、振り下ろした斧が兜をかすめた。


「ええいっ!」


秋は腹から声をあげるとゴブリンを稽古槍で突く。

おっと・・・勝手に身体が動いてしまった。

秋は自分の行動に驚きつつも、腰を落としたまま次々とゴブリン達を突いた。


「GUEEE!」


突き飛ばされたゴブリンが声をあげて次々と石畳を転がっていく。

稽古槍は穂先まで木で出来ていて、何かに刺さるようなシロモノではない。しかも先端は怪我防止のため鹿革で保護されている。


だが、石畳を転がるのは痛いのだろう。ゴブリン達はうめき声を上げ、目をしばたかせている。

やがて、フラフラしながら立ち上がると、鋭い視線を秋に向けてきた。


これって、ヤバイ感じ?


秋は焦りつつも水平に稽古槍を水平に構え、ゴブリン達を牽制する。

通常、槍は突く軌道を読ませないため、穂先を下げて構えるものだが、そうも言ってられない。

秋はリーチを活かして距離をとることにつとめた。


稽古槍の全長は9尺・・・およそ270㎝で、ゴブリン達が持つ剣は60㎝ほどだ。加えて秋の身長は180㎝でその身長差は60㎝ほどある。


「GURRRRR」


首を少し傾げながら、唸りをあげる5匹のゴブリン。

だが、近づこうとはしてこない。秋の戦闘力を推し量っているようだ。


刃のない安全な槍だとバレてない・・・のかな?

内心の動揺と裏腹に秋は、“お前らなんていつでも殺れる”といった余裕ある視線でゴブリン達を見下ろすことにした。


「GURRRR…」


秋の態度に気圧されたのか、リーダー格らしいゴブリンが諦めたように後ろに下がりはじめた。他のゴブリンも下がりはじめ、やがて姿を消してしまった。


行ったか・・・。良かった。

秋は当面の危機が去ったことに胸を撫でおろす。


「助力に感謝するぞサムライ殿! 実に危ないところであった!」


サムライ? 誰それ?

首を傾げる秋。道着姿ではあるが侍などではない。普通の会社員だ。


女騎士は秋に近づくと兜をとって礼をとった。

そこに現れたのは、長い金髪に綺麗な西欧人の顔立ち。年の頃は15~16といったところか。

緑色の大きな瞳に見つめられ、秋は思わず赤面してしまった。


「私の名はバルブレア。聖騎士(パラディン)をしている。

 恩人の御名をお聞かせ願いたい」


バルブレアが髪をかきあげると、尖った長い耳が現れた。

これがエルフというやつなのだろうか。

秋は長い耳を見てようやく“異世界にいるんだ”との実感を得ていた。

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