第17話 遠い希望の子守歌
心が引けてしまうと見える攻撃も見えなくなる
分かる筈の気遣いも気付かなくなる
きっと愛情もそうなのだろう
「オーラ…信念」
まずは後方に陣取った。バルブレアが囮となってオーラを輝かせる。
釣られて出てきた神官達を屠るのだ。
ぞろぞろと10体ほどの神官がバルブレアにかけ寄ってくる。
それを十分に引き付けてから、秋が背後から稽古槍で突く。
「いぇえい!!」
切れのある動きで秋は槍を繰り出し神官達を倒していく。
バルブレアは目の前の神官達の処理を秋に任せ、駆け寄ってこなかった神官に目を向けた。何やら詠唱をはじめているようだ。
「では、先に攻撃をさせてもらおう。
天の裁き!」
ドーン!!
間髪入れず、バルブレアが指さした神官に天から雷が落ちた。
その周辺の神官達にもバルブレアは次々と指をさした。
ドーン!!
ドドーン!!
狙い過たず雷は、神官達を黒焦げにしていく。
「バルブレアさん、なんか激し過ぎやしないですかね」
「そうか?
まあ死霊使い殿が目だ立なくなって良いだろう」
今回、スキャパは敵陣の奥まで侵入し、宿坊の物陰から様子を伺っている。
敵の意識は、派手な戦闘を行う聖騎士に注がれているようだ。
「どうやら長老のお出ましのようだぞ。
天の裁き!」
長老が2体現れた。全身がオーラで輝き、とんでもない早さで近づいてくる。
バルブレアが落とした雷をものともせず平然と迫ってくる。
「気を付けろ! 敵もオーラを使うぞ」
「そんなの聞いてませんよ。
でも攻撃を食らっても放電してませんね」
「なら接近戦が可能だ!」
バルブレアの前に2体のスケルトンが現れる。
咄嗟に身構える秋。
「……オマ エハ」
「……ソゲキ シテロ」
スケルトンはゆっくりとバルブレアに向けて喋った。どうやらスキャパが操作しているらしい。
バルブレアが剣を納めると、スケルトンは前に向き直り長老に向かっていった。
「壁役はスキャパさんの役割だそうですよ」
「ちっ」
不満そうなバルブレアを残し秋はダッシュする。2体の長老はもう目前だ。
よくよく秋が見てみるとどうも長老の雰囲気が違う。あまり怖くない。バルブレアのオーラで弱まっているうえ、スケルトンが間で遮ってくれているからだろうか。
訝しみつつも秋は、スケルトンの後ろから、長老の頭部に槍を突き入れる。
ガンッ!!
十分な手応えがあったが長老は倒れない。
真っ赤な瞳で秋を睨みつけ、燃える手を伸ばす。
!
殺気を感じた秋は、その手を槍で跳ね上げる。手が触れたことで前衛のスケルトンは身体が燃え出した。
秋の腕にも熱気が飛び、軽く火傷を負う。
ひるむことなく秋はそのまま槍を振り下ろし、長老の頭部に2激目を突き入れた。
ボキッ!
寸分変わらぬ場所を攻撃されたのためか、長老の頭部が砕け角が折れる。
GHAAAA!
長老から悲鳴だか雄叫びだか分からない絶叫が響いた。
秋は油断せず、炎を出す腕を両方とも砕き、頭部に留めの一撃を加える。
ガラガラガラ・・・・
その瞬間、前衛をしていたスケルトンの身体が凍り付き、バラバラに砕ける。
もう一体の長老の腕からは物凄い冷気が放たれていた。
背筋が凍るどころではない。まともに食らえば物理的に凍結される。
「レンバ殿!」
思わずバルブレアが秋に声をかけた。
これまでの秋なら、ひるんでいたところだろう。
だが、今は意外に心が落ち着いていた。
1体長老を倒してことで、少しずつ力が漲ってくるのを感じる。
「・・・大丈夫。狙撃を続けて下さい」
力強い言葉に何を感じたのか、バルブレアは笑みを浮かべ、神官の排除作業に戻った。
◇
「……いよいよ、おでましか。
悪しき手の長老」
スキャパの前に雷をまとった長老が姿を現した。
周囲に長老を2体も引き連れている。
「……こうして並ぶとまるで別モノ。
恐ろしさのレベルが違う」
言うが早いか、長老がスキャパに襲いかかる。
「……ボーンシールド」
長老を阻むように骨が床から突き出る。。
何重にもクロスして壁を構築していく。
「……ランサー」
その壁の後ろから横一列に並んだスケルトンが長槍を突き出す。
槍衾というやつだ。
だが、長老達は爪で骨の壁を砕き、そのまま突進を続ける。
身体中に折れた槍が刺さっているが意に介していないらしい。
「……ランサー」
さらに後続からスケルトンが出てきて、今度は長老の腿に槍を突き刺す。
GHAAAA!
床に縫い止められる長老。その体に呪いの炎が燃える。
「被害増幅」
スキャパが長老に呪いをかけると、その身に炎が燃えさかる。
炎自体にダメージはないが、この状態で攻撃をうけると被害が倍化する恐ろしい呪いだ。
そこにスケルトンが一斉に槍を突き刺した。
GHAAAA!
GHAAAA!
叫び声をあげつつ長老が崩れ落ちた。
GRRRRRR
手下が倒されるのを見て“悪しき手”の長老が前に出てきた。
槍持ちのスケルトンに手を振るうと一撃で粉砕した。
物凄い威力だ。
「……シールドバッシュ」
スキャパは冷や汗を流しつつ、盾持ちのスケルトンを前進させた。
スケルトン達は盾を構えたまま“悪しき手”にぶつかっていく。
GRRRRRR
盾がぶつかった瞬間、“悪しき手”から雷が放たれる。
一瞬でスケルトン達は黒焦げとなり崩れてしまった。あまりにももろい。
「……オーラと呪いで弱体化させていてこれか」
スキャパは蒼白になった。
◇
冷気を放つ拳を振り上げ、長老は秋に襲いかかる。
秋は冷静に相手の動きをみて回避を続けた。
「恐ろしい攻撃だが、感じていたほど速くはない。
間合いはこちらより長いぐらいだが十分に対応できる」
秋は自分に言い聞かせるように言葉を続けた。
その間も、長老の伸ばした拳の先から冷気が槍のように伸びてくる。
「槍を振るえば、この冷気も遮断できる。
大丈夫。大丈夫」
秋は大きく踏み込み間合いを詰める。
突き出される腕を引き落とし、さらに突き込む。
GHAAAA!
秋の槍は長老の喉を直撃した。
のけぞりつつも長老は槍の穂先を掴む。
「引けば鎌」
勢いよく槍を引く秋。鎌部分で長老の指が切断されて宙を舞う。
同時に冷気のオーラが立ち消える。
さらに秋は槍を頭部に突き入れ、長老を沈黙させた。
「とにもかくにも外れあらましってね」
2人目の長老を倒したことで、さらに力の回復を感じる秋。視線の先ではバルブレア笑顔を見せている。
「さあ、死霊使い殿を支援に行こう」
その時、足元で崩れているスケルトンが口を開いた。
「……ニゲ ロ
……レベル ガ チガ ッタ」
秋とバルブレアは顔を見合わせた。