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第16話 戦場の鎮魂歌

一度敗れた相手に再び挑む…お話なら盛り上がるシチュエーションだ

だが実際には苦手意識や恐怖心が沸き、戦う前に負けることが少なくない

何度敗れたとしても、それでも心折れずに挑むのは、真の勇者であろう

バルブレアは物陰から石造りの寺院の様子を伺っている。

こじんまりした宿坊のようなものがあり、その中には何かの儀式を執り行う祭壇が見えた。


「幾つもの赤い供物が並べられているな。まあ、供物が何なのかは考えない方がいいだろう」


祭壇の前にはフードを被った神官らしき姿がたく並び、その中心に大きな角を生やした悪魔が見える。先日、電気を飛ばしてくれた“長老会議議員”だ。鎧なのか高質化した肌なのかよく分からないが、無骨に盛り上がったシルエットが印象的だ。


「いかにも強そうに見えるな。聖なる裁きを食らわしてやりたいところだが、今回は斥候役だ」


よく見れば宿坊の周囲には、無数の武具や人骨が積み重なっている。多くの戦士が挑み、散っていったのだろう。


「無念であろうな。だが、あの勇者や騎士のようにゾンビとなるのは救われない。

 いまに我々が(かたき)を討つ。どうか安らかに眠っていて欲しい」


バルブレアはそっと呟いた。あんまり真剣に祈りを捧げると、オーラが漏れ出てしまうからだ。


さて、その宿坊の奥にはさらに同サイズの宿坊が幾つも見える。それぞれに“長老会議議員”がいるのだろうか。だとすれば非常に厄介である。


「うまく誘い出せるといいのだが」


敵に気付かれないようバルブレアはそっと寺院を離れた。





「……もう一度、やってみせろ」


骨が重なった恐ろしげな槍を振り回し、スキャパは秋を振り返って言った。

その向かいには、同じような骨の槍を持ったスケルトンが立っている。


軽く頷くと秋は稽古槍をしごき腰を落とす。

そこにスケルトンが槍を突き出した。


2つの槍が交錯する瞬間、秋の稽古槍が頭上まで上がり骨の槍を遮る。

稽古槍を斜めにして攻撃を受けたかと思えば、その槍は時計回りに回転して骨の槍を床に叩き落す。

流れるような動きで淀みがない。


「……分かったような気がする」


スキャパが指を鳴らすと、今度は別のスケルトンがスキャパに槍を突き入れた。

スキャパは秋と同じように、頭上で槍を斜めに構えて攻撃を受け、十字に飛び出ている骨で相手の槍を引っ掛け床に落とす。


「動作は大体、合っているんですが、相手の穂先を外さないと先に刺されますよ」


「……ううむ。分かっているのだが難しいな」


スキャパは巻き落とすことにばかり気をとられ、相手の穂先を危険な角度から逸らすことにまで気が回っていない。


「よく分からないのですが、スキャパさんが覚える必要あるんでしょうか?

 スケルトンにやらせればいいのでは?」


「……レンバ達の言葉で言うなら半自動(セミオート)なのだ。

 勝手に動いてくれるのだが、私自身の技術も反映される」


「なんでそんな言葉を知っているんですか」


秋は呆れつつも感心した。死霊使い(ネクロマンサー)なのに、死霊任せではなく、自分の武を磨こうとしている。

大したものだ。


「あれ? スキャパさん、死霊使い(ネクロマンサー)なのにスケルトンしか使いませんよね」


「……うむ。死霊使い(ネクロマンサー)は毒・骨・死体・魔法・呪いその他と様々な呪法を駆使する。

 だが、私は骨に特化する道を選んだのだ」


「いや、それって何の縛りなんですか。バルブレアさんに色々やらせているのに、スキャパさん酷いですね」


「……うむ。レンバに褒められるのは悪くない」


呆れ顔の秋をよそに、スキャパは無表情ながらなんだか嬉しそうだ。


「……さて、続きをしようレンバ。

 今度は私の後ろに来て、教えてくれ」


「身体を触らせるのはやめて下さいね」


スキャパは身体をしならせる。死霊使い(ネクロマンサー)としては珍しく、生気に溢れてムチムチなのだ。

そして秋のように腰を落とし、骨の槍をしごいて構えた。


「……師となったからには、責任をもってやってもらう。

 腰を持って動きを教えよ」


「腰じゃなく腕です。

 相手の槍の切っ先が当たらないよう、こう回して下さい。そうそう」


「……互いの槍が平行になる位置で落とすのだな?

 ……ほら、もっとぐっと握れ」


「ほんと大丈夫かなあ」


言葉では遊びつつも、スキャパは真剣に習得しようとしていた。

秋もそれが分かるので、からかわれつつもスキャパの稽古に突き合った。


「……安心しろ。

 一定、技を覚えたら、呪法を使った運用を行う。

 レンバと違い、私は死霊使い(ネクロマンサー)として戦う」


スキャパは“長老議会議員”の放電を思い出しつつ秋に宣言した。





さて、数百のモンスターを斃し、3人は寺院へと現れた。

バルブレアの情報で聞いてはいたが、何ともおどろおどろしい場所だ。

あちこに黒くなった血の跡があり、武具、人骨が散乱している。


時折、フードを被った神官の姿がちらちらと見える。


「あれは攻撃魔法を使う、邪教の神官だ。

 それほど遠方までは届かないが、身体が凍り付くやっかいなものだ」


「バルブレアさん、斥候の範囲を超えてませんか?」


バルブレアのことだ。おびき寄せて対戦してみたのだろう。


「一体、一体は大したことがないのだが、集まってくると脅威になる。

 私は“斥候”ゆえそこで撤退したが、のんびりしていると“長老”達も出てくるに違いない」


「……“長老”を破るため、これまで“特訓”を積んできた。

 各自、自分の役割を果たせば必ず勝利できる」


「いつの間にか死霊使い(ネクロマンサー)殿がリーダーのように振舞っているが、

 私はレンバ殿がリーダーだと思っているぞ」


「ちょっと待って下さいバルブレアさん!」


秋は慌ててバルブレアを止める。


「……それで私も構わない。

 だがレンバが元に戻るまで、暫定リーダーだと認識しろ」


「それは今回の戦果次第だ」


スキャパは手を高く掲げ、指を鳴らす。青白い光が広がり、スケルトン達が無数に沸いて出てきた。

よく見ると、骨の槍を掲げたランサータイプ。大きな盾を構えたナイトタイプの2種が陣形を組んでいる。


「……話は後だ。作戦を開始する。

 各自持ち場について突入の合図を待て。特に聖騎士(パラディン)は気付かれないようオーラを控えていろ」


「おお!」


「はい!」


さあ長老戦のリターンマッチだ。

秋は、震える心を落ち着け、スキャパの作戦を心の中で復唱した。


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