第11話 亡き勇者の遅拍子2
沈黙は金、雄弁は銀という
一説に沈黙を効果的に使えとの教えらしい
恋愛にも通じた金言かも知れない
秋の首筋に冷や汗が流れた。
死セル勇者の威圧感が膨れ上がる。
ひょっとするとこれが魔力というものなのかも知れない。
退避するか?
だめだ。
躱せるかもしれないが、スキャパが死ぬだろう。
それでは石畳を立てて防ぐか?
これもダメだ。
先程以上の電撃で、この辺り一帯がレンチンされてしまうだろう。
ならば……。
秋は滑るように移動し、勇者の足元に稽古槍を突き入れた。
だが勇者の前には大きな盾がある。
詠唱中とはいえ死セル勇者には隙など見当たらない。
ザガッ!
「なんと?!」
「……!!」
秋の稽古槍は、死セル勇者の足のさらに下、石畳に突き入れられた。
「ぃえええいい!!」
槍全体が波打つように震え、突き刺さった周辺の石畳を砕いていく。
裂帛の気合に効果があったかは分かないが、死セル勇者の足場はあっという間に崩れ落ちた。
「ᛠᛥᛣ ᛪᚤᚪ 」
死セル勇者は体重を支え切れず、大きくバランスを崩し窪んだ瓦礫に片膝を突く。
そして秋の槍は止まることなく、膝立ちの死セル勇者に次々と突きを放った。
「……さすが」
驚きつつも、スキャパはほっとした声を出した。
だが、秋の表情はすぐれない。
「悪いがスキャパも手伝ってくれ」
「……?」
敬語を言うこともできない程、余裕がないということなのか。
「詠唱させないだけで精一杯だ」
キンッ! キンッ!
カカカカカカッ!
連続で突き入れる秋の槍を、膝立ちのまま死セル勇者は剣と盾で捌いていく。
シュン!!
それどころか捌きから返す刀で攻撃を飛ばしてくる。
思わず槍を立てて顔面をガードした瞬間、見えない剣激が当たって弾けた。
「槍の間合いとか剣の間合いとか関係ないのか」
ぼやきつつも、秋は攻撃の手を緩めない。
その攻撃にスケルトン達が加わるようになった。
「……聖騎士。
……ちょっとの間、耐え凌げ」
バラバラとバルブレアの周囲のスケルトン達が崩れていく。
戦力を秋に回すということなのだろう。
「こちらは任せろ!
レンバ殿を頼む!!」
声を張り上げるバルブレア。
だが、その眼前では死ノ騎士が、斧だか鉈だか不明の恐ろしい長柄武器・三日月斧を構え、襲いかからんとしていた。
◇
最初にレンバ殿を見た時は本当に驚いた。
身長はあるが身体はとても細い。にも関わらず、軽々とモンスターを退け、石畳を持ち上げる怪力をも見せた。
エルフである自分より細く魔法的だと思った。
興味を持ったので近寄ったら、何故か避けられた。どうも、嫌われてる訳ではないらしい。女が苦手だと彼は説明した。
何かの常套句かと思ったら、本当にそうらしい。身体が震えているのが見てとれた。
可愛いと思った。
“鼻が好み”だとさっきは伝えたが、あれは冗談だ。
彼の顔はとてもカッコイイ。美男子は見ているだけで幸せになる。
実のところ、あのネクロマンサー女も同じなのだろう。態度にちょこちょこ出ているではないか。
大体、あの女も危機が迫っているのに、スケルトンを彼に回していた。
お蔭で強敵に囲まれそうになっているではないか。
目障りなひねくれ女だと思っていたが、意外と意見が合うようだ。
そう、彼を助けたい。
◇
ガアアアン!!
銀の剣が宙に飛ばされる。
はっとするバルブレア。どうやら意識が飛んでいたようだ。
振りかぶった三日月斧が勢いよくバルブレアの盾を撃つ。
ドオオオオーン!
「ぐおおお」
凄まじい衝撃で体軸がゆらぐ。だが、バルブレアは歯を食い縛ってこれに耐えた。
もう何回目か分からない。相当、体力もスタミナも削られている。
まあ、あの大物武器が近くのモンスターも蹴散らしてくれたし、戦いやすいとも考えられる。
バルブレアは気持ちを切り替え、盾を大仰に構えた。
「貴様の攻撃はこんなものか? さあ、私を倒してみろ!」
両手で盾を握り、死ノ騎士をねめつけるバルブレア。その気迫がオーラを一段と輝かせた。
◇
レンバが私の力を頼るとは思わなかった。
……とても誇らしい。
嬉しくなったので、ついついスケルトンをいっぱい回してしまった。
……ちょっと不味いかも知れない。
いつの間にか近くに死呪士が迫っているのが分かる。
ほどなく動く死体・ゾンビが山のように湧いてくるだろう。
しかし、聖騎士があそこまで入れ込むほどレンバはイイ男なのだろうか?
態度は頼りなげだし、女に慣れてないのが見てとれる。全然スマートじゃない。
私ならもっとイイ男に教育できるだろう。
……うん。
それはとても楽しそうだ。
これは褒めることしかできないあの女には絶対無理だ。
きっと男にいいようにされて喜ぶタイプに違いない。
ただ、なんだか幸せそうでとてもムカツク。
……生き残れたら二人には………………。
◇
スキャパは思考の途切れに気付いた。
いつの間にか、足首を掴まれ、現実に引き戻されたようだ。
そこに現れたのはゾンビだ。
気付けばスキャパはゾンビの群れに取り囲まれている。見るまに手足を掴まれ、身動きが出来なくなった。
ゾンビの群れの奥には、奇妙な隈取りメイクの男が見える。こいつが死呪士なのだろう。
「……酷い顔。
……レンバで口直ししたい」
怒りの表情で死呪士がスキャパを睨みつけていた。