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第10話 亡き勇者の遅拍子1

“死”の否定たるアンデッドと異なり

イモータルは“死すべき運命”の否定だと言う

本邦ならどちらも神の領域だろうがさて…

シュシュシュシュシュンッ……


弓兵が一斉に矢を飛ばす。狙いは先頭を行くバルブレアだ。


「盾だ!」


バルブレアが叫ぶとスケルトン達が密集し盾を重ねてガードする。身動きは出来ないが上下左右に隙はない。


「うお!!」


雨のように降り注ぐ矢。矢。矢。

だが、バルブレアはこれに耐え切り、挑発するようにオーラを輝かせた。





「ほう・・・」


敵陣の後方から感嘆する声が漏れた。

ルーンが刻まれた黒い豪華な衣装。陣形の中心に敵軍の指揮官なのであろう。

指揮官は、右手を(おとがい)に添え、考え込むように戦局を見つめている。


やがて指揮官は右手を高く掲げ、パチンと指を鳴らした。

音が戦場に響くと、弓兵は無言で後退し、すれ違うように魔法使い(メイジ)が前に出る。


「では、魔法はどうかな?」


指揮官はフードを払って楽しそうに声を出した。

現れた顔は青白いが若い男のようだ。年の頃は17~18歳。とても端正な容姿をしている。

といって非人間的な美貌という訳でも牙が生えている訳でもない。

ただ、その指揮官は、人間とは思えない禍々しいオーラをまとっていた。





ᛪᛔᚰᚩᛗᛞ ᛤᚱᚠᚸᛏ ᚶᚳᚯᛀ᛭ ᛮᛰᚲᚲᚲ


風の唸りとも呪詛ともとれる不快な音が辺りに響いたかと思うと、バルブレアの足元に無数の魔方陣が浮かび上がった。


「うおお?!」


魔法陣の光に照らされてか動揺からか、バルブレアの表情が青くなる。

対照的にスキャパは顔色一つ変えず、召喚呪文を実行した。


「……召喚、スケルトン」


敵陣内に次々とスケルトンが湧き出て剣を抜き放つ。そして詠唱中の魔法使い(メイジ)に襲いかかった。

詠唱を阻害されたことで、バルブレアの足元の魔方陣がかき消えていく。


カッ!!


それでも幾つかの魔方陣が発動し、バルブレアの足元で稲妻が煌めいた。

小さな稲妻が周囲にまき散らされる。


「ぐむむ?!」


稲妻の衝撃にさらされるバルブレア。

痺れて身体が思うように動かないようだ。


「レ・ジ・ス・ト」


なんとかバルブレアはオーラを耐電に切り替える。

途端にす~っと痺れも衝撃も薄らいだ。

だが、敵陣に突入させたスケルトン達がたちまち駆逐されてしまう。


バリン、バリン・・・


スキャパが追加で召喚するものの、攻撃を受けると簡単にスケルトンが砕けてしまう。


「……おい」


「すまんネクロマンサー殿。次は我慢する」


「……当然」


すぐさまオーラを反抗(ディファイアンス)に戻すバルブレア。

スキャパは淡々とスケルトンを敵陣に湧かせ出した。


「足元から電撃されたらたまらんな。範囲魔法を防ぐってのは厳しいなあ」


「……方法、なくはない。

 ……だが阻害するのが手っ取り早い」


スキャパは魔法使い(メイジ)を狙って自分のスケルトンを動かしている。魔法使い(メイジ)は近接攻撃に弱いようで、次々と切り伏せられていく。

だが、近接戦用の兵士もいるので、スケルトンも半数以上討たれていた。


「ス・マイト!!」


バルブレアは敵陣が混乱する隙を突いて、盾持ちの兵士に襲いかかっていた。

敵兵の大盾とバルブレア自慢の盾がぶつかり、あたりに轟音が轟く。立ちのぼるオーラと相まって、バルブレアは敵の注意を集めることに成功していた。


「で、僕の役割は?」


秋はスケルトンのコントロールに集中するスキャパに尋ねた。スキャパはスケルトンアーチャーも召喚し、矢を射かけるなど、さらに高度な技を展開していた。


「……先ほども言った。

 阻害するのは手っ取り早い。それは敵も同様」


言うが早いか、スキャパの周辺に骨が湧き出てきた。槍や斧を持ったスケルトン兵だ。


「なるほど。じゃ、防衛しないとね」


秋は腰を落として稽古槍をしごいた。





「うん。思った通り手応えがあっていいね。

 では死霊使い(ネクロマンサー)君には死呪士(ブードゥー)を、聖騎士(パラディン)君には死ノ騎士(デスナイト)。そして、問題の槍術士君には彼だな。では、不死の軍団(アタナトイ)の力を味わってもらおう」


指揮官の口元が吊り上がる。

右手をあげると、またパチンと音を響かせた。





秋は不思議な感覚に包まれていた。

今まで、感じなかった違和感。いや正常な感覚と言っていいかも知れない。


スケルトンが突き出す槍を、稽古槍の鎌部分で捉えて巻き落とす。

あらゆる方向から突かれるが、それを次々と弾き、からめ、無力化していくのだ。

まるで相手の力の流れや武器同士の抵抗・摩擦まで視覚化されているようだ。


「いえええーい」


顔に向けて突き出される敵の槍を鎌部分で引き落とし、そのまま稽古槍を突き入れる。

スケルトンは身体の中心を砕かれ、そのまま崩れおちてしまった。

実際、戦場では穂先が折れた槍で戦い、勝ち残った例が幾つもある。刃がなくても十分威力がある武器と言えるだろう。


ガチンッ!!


だが、秋の稽古槍は異常だ。

横合いから振り下ろされた戦斧を柄部分で受けきっている。柄はしなるものの傷一つついていない。


「いええい!」


戦斧を受けたまま槍を回転させ、上からスケルトンの頭部に稽古槍を振り下ろす。

ぐしゃっと上から潰れていく。

槍は樫なのでそれなりに固いが鎌部分は竹製だ。もう頑丈を通り越して不可思議な領域と言っていいだろう。


ザン・・・。


その時、潰れたスケルトンの後ろに大柄な全身鎧(プレートメール)が現れた。

漆黒に輝く鎧、血で染まったようなマント。

そして抜き放った大剣には稲妻が輝いている。


「これは?!」


秋は思わず距離をとった。今まで感じたことのない威圧感だ。


「……まさか!

 ……レンバ、これは危ない!」


スキャパが驚愕の表情を浮かべる。

そのあまりの焦りように秋は危機感のレベルを上げ、槍の穂先を石畳に突き入れた。


『雷泥陰』


バリバリバリバリ―――――――!!!


全身鎧(プレートメール)が大剣を振るうと、巨大な稲妻が秋とスキャパを襲った。

雷撃が走ると、周囲一帯に光が走り、衝撃と黒い煙が起こった。

先程の自爆の比ではない。


「ぐあああ!!」


畳起しで石畳を防御壁とした秋だったが、雷撃はそれを破壊し、秋にも衝撃を伝えていた。


「なんという破壊力だ! レンバ殿に渡り合える敵がいようとは!」


振り返ったバルブレアが驚きの声をあげる。


「………当然。これは勇者だ。

 ………しかも死から蘇り、桁違いに強くなっている」


煤だらけのスキャパはアンデッドとなった勇者を見詰めている。

秋は稽古槍を杖にしながらフラフラと起き上がり、スキャパを庇うように死セル勇者(アンデッド)の前に立った。


「なあ、勇者って皆を助ける救世主じゃなかったのか?」


秋は死セル勇者(アンデッド)に呼びかける。


「死の淵から這い上がって、助けてくれるもんじゃないのか?」


だが(いら)えはない。


「………レンバ。

 ………無駄とは言わない。だが、次が来る」


死セル勇者(アンデッド)は大剣を上段に構え、先ほどよりもさらに大きな雷をまとわせた。


「これ、やばいかな」


「……!」


「レ、レンバ殿ー!!!」





『偽餓泥陰』


死セル勇者(アンデッド)の詠唱が呪詛のように響いた。

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