第9話 毒骨少女の霊歌3
人類の滅亡として扱われる最終戦争
原義が薄れて共通認識となるのは世の常だろう
コンビニもスーパーも、どこが“店”を示しているんだ
秋の眼前には、二人の美人の顔があった。
どういう訳か、バルブレアもスキャパも秋に詰め寄って質問攻めにしているのだ。
秋はダンジョンにいるという非現実的な現実より、女二人が息のかかる距離にいることの方に異世界感を感じていた。
ドン!
苛立った様子でバルブレアは壁ドンで秋の逃げ道を塞ぐ。
ちなみにバルブレアが苛立っているのは、スキャパが秋に胸を押し付けようとしているからだ。
ついにはスキャパが割り込めないよう両手壁ドンの姿勢となっていた。
「で、レンバ殿の世界は平穏だったと言うのか?」
「平穏と言えば平穏だよ。70年以上戦争もないし。
まあ、いつICBMが飛ぶか分からない雰囲気だけど」
「70年も戦争がないのか!
そうした中でそれほど槍の技術を磨くというのは想像もできんな」
バルブレアは思わず顎に手をやり、うんうん頷いた。
スキャパはそのスキを見逃さず、秋の腕を掴んで引っ張り込む。
「……ICBM?」
「うーん。説明が難しいな。
大陸間弾道弾と言って“世界を滅ぼす”ような遠距離魔法かな」
「……危機、やっぱりあったんだ」
「あれ・・・?!
いや、普段はえーと、不活性化された魔法で。
でも、危機があるってことは、それだけで異世界につながるってことなのか?」
いや確かにそうかも知れないけど、核戦争の危機って冷戦の頃からあるぞ。
だったら何故、今なんだろう。
「いやいや、それが理由か分からんぞ。実のところ私は違うと確信している。
というか、レンバ殿が“そう”なんだと睨んでいるのだ」
「?」
「そもそも、あれだけの腕を持っていることがおかしいのだ。
実は・・・」
「実は?」
「……?」
「実はレンバ殿は魔王なのだろう」
バルブレアは人差し指を立て推論を披露する。気持ちいいぐらいのドヤ顔だ。
反対にスキャパの視線は冷たい。
「あの、言いたくないんだけど、
ゴブリンにやられてたバルブレアさんが魔王を倒してるんですよね?
なんかおかしくないですか?」
「う!」
推理のおかしさに気付いたからか、ゴブリンに負けたのが響いているのか、バルブレアは二の句が継げなかった。
「……冗談は置いておこう。これまでの質問はあくまで推論のための確認。
……今、真実が判明するとまでは思ってない」
スキャパは冷ややかに語り、秋の頬に左手を添えた。
「……いずれにしてもレンバの戦力は必要。
……一緒になろう」
秋の顔が真っ赤になり、バルブレアの眉が吊り上がる。
「どうも言い方が気になるな死霊使い殿」
「なんでスキャパさんはバルブレアさんを挑発するんですか」
「……面白いから」
バルブレアの眉がまた跳ね上がった。
◇
バルブレアとスキャパが騒いでいる間に、モンスターがまた集まってきていた。
秋は気付いていたが、大したことないだろうと思っていた。
だが、今度のモンスター達はこれまでとどうも様子が異なる。
人型なのは同じだがオークやゴブリンではなく、鎧に身を固めた人間のようだ。前衛は大盾持ちが整然と並び、まるで一つの壁のようになっている。そして、その後ろには矢をつがえた弓兵が何重にも折り重なっていた。
そもそもここは空間が広い。これまでは幅3mほどの通路状だったが、幅も高さも15mほどあって、まるでドームのようになっている。
「なんか不気味に静かだね」
秋は二人に後ろを振り返るよう促した。これまでのモンスターはみなGYAAAだのGURRRだの常に声をあげていたが、今度のモンスターは誰も喋らないのだ。陣形を崩さず、ただ、ひたひたと無言で進んでくる。
「これだけの数がいるのに全く生気が感じられない。
どうやらアンデッドのようだな! まさに聖騎士の出番という訳だ!」
何故かバルブレアは嬉しそうに剣を抜き、聖域のオーラを盛大に放った。
その輝きに敵兵の貌が照らし出される。落ちくぼんだ肉のないその顔。黒い眼窩の奥では、瞳が松明のように赤々と燃えていた。
「……弓兵の後ろにはスケルトンメイジの気配がある。
……もっと大物がいる可能性が大」
「ほう! 敵にとって不足はない。
しかし見えないところまで分かるとは、さすが死霊使い殿は専門家という訳か。
だが私も負けてはいられない。ここはどちらが活躍するか勝負といこうではないか」
「いや、ここは皆で協力し合いましょう」
「……矢は盾で防げるが、魔法の範囲攻撃はかわせない。
……下がっている方が身の為」
「むう! 飛び道具を揃えた部隊とは実にやっかいだな。
だが、死霊使い殿とて飛び道具は苦手であろう」
「なんで無視するんだ」
「……私は敵陣にスケルトンを召喚することが出来る。
……射かけさせる前に陣形を崩す」
「で、魔法はどう防ぐというのだ。さらに強敵もいるのだろう」
「……ではお前が的になって敵をひきつけろ。幾らか護衛を回す。
……だが、オーラは聖域ではだめだ。防御力を高める反抗にしろ」
「いいだろう。まさに我々に相応しい戦いだ」
「おーい」
二人は火花を飛ばしつつも、目線を切って敵陣を睨みつけた。
秋は完全に蚊帳の外だ。
「……召喚、スケルトン」
「反抗のオーラ」
スケルトンの兵士が地面から沸き上がり、バルブレアを囲んで守る。
そして赤いオーラが立ち昇りバルブレアとスケルトンを輝かせる。
「おーい」
撤退しようと考えていた秋を他所に、チーム戦がはじまった。