第0話 光の交響曲
最終話というのはつまらないものだ
クライマックスの前にはどんな最終話も色褪せる
だが最終話がないのはもっとつまらないに違いない
ダンジョン最深部。
武者姿の男が槍を片手に疾走する。
男の行く手には雲つくような巨人が群れをなしていた。
「サイクロプスだ! とてつもない数だぞ」
白銀の鎧に身を固めた聖騎士が鎧武者の後方から声をかける。
声からすると若い女のようだ。
2人の侵入者を赤く燃える単眼がねめつけ、そこかしこから雄叫びが上がる。
「ひるむな。オーラは“コンセントレーション”を展開しろ」
「馬鹿な?! サイクロプスを相手に被弾覚悟か!?」
コンセントレーションは聖騎士が発するオーラの一つだ。
このオーラの中にいれば、敵の攻撃を受けても動作を中断されることがなくなる。
つまりは集団行動の達成に向いている。
聖騎士は眉をしかめつつも、オーラを立ち昇らせる。
「ぃえええええい!!」
先頭のサイクロプスが巨大なこん棒を振り下ろすと、鎧武者は槍を上げて両手で受け止める。
流れるような動きで槍を回転させると、十字状になった穂先が棍棒をからめとり、石畳に叩き落とした。
驚くサイクロプスに鎧武者は連続で槍を突き入れる。
「スキャパ、プルトニー、支援だ」
鎧武者の呼びかけに応えるように、後方から2人の女が現れた。
一人は骨の装飾をまとった死霊使い。
もう一人は女魔法使いのようだ。
「視界よ呪われよ‥‥“ディムビジョン”」
「おーけー、いくよ~~~“ファイヤーウォール”」
サイクロプスの集団に暗雲が立ち込め、視界が奪われていく。
そして、鎧武者の行く手には炎の壁が2条のレールのように燃え立った。
「バルブレア、一気に駆け抜けるぞ」
「オーラ“ビガー”」
混乱するサイクロプスをよそに、2人は炎で彩られた道を超高速で疾走する。
「・・・・シュンッ」
その時、後方から輝く矢が放たれた。
「蓮華殿の合図だ! タイムアップまであと1分・・・
レンバ殿と最期まで戦場を駆けられること、嬉しく思うぞ!」
「縁起でもない。絶対に間に合わせるぞ」
その時、ダンジョン全体が揺れ動き、最奥の部屋から光が迸った。
辺り一面が光に包まれる。
サイクロプスも、鎧武者も聖騎士も、皆が光に包まれていった。