田中省三 70歳 仕事二日目
やる気満々で目覚めた。賄い飯が楽しみだな。
美佐子はいつ解雇の電話が来るかとオドオドしている。
どうしてそんなくだらないことで悩むの。俺はそんなに悪いことはしていない。
おまけに言い訳のレシピを作って復唱させられるし。
「おはようございます。主任さんご迷惑をおかけしました。」
「いや田中さん体調はいかがですか」
「すっかり回復しました。初日から休みを取って申訳ありません。解雇されても仕方ないのですが」
「そういう選択肢もありましたが。妙に憎めないと言う意見もありましてな。とにかく貴方が今日出勤するかどうか、賭けになったのですよ。10人程で。ところが全員が来ない方に賭けたのですよ。
だけど私はあなたを面接しましたし。来る方に賭けたのですよ。
総取りですよ。これからも頑張ってください」
とにかく首はつながったようだな。あーよかった美佐子に怒られずに済む。
「美佐子帰ったぞ」
「首にならなかったのですか」
「問題ない明日も出勤だ。今日はな肉体労働がなかったので筋肉痛にはならないぞ。午前中は宅配の研修だった」
「あなたの特技は自転車に乗れることと、車の運転しかありませんからね」
どうしてそんなに可愛くない言い方するの。
「午後は茶碗洗いだった」
「食器を割ったりしていないでしょうね」
「いや、五枚くらい割ったかな」
「ああいうところの食器は高いのですよ」
「だから明日からは漆器以外は洗わなくていいと言われたのだよ。マニュアルがしっかりしているのだな」
「ま、マニュアルですって。誰のためのマニュアルなのですか」
「始めから就業規則で決まっているのではないのか」
「茶碗洗いの一つも家でしないからそんなことになるんですよ」
「だって、家にはお前がいるではないか」
「健一だって雄二だって共稼ぎで家事を分担しているのですよ。ああそうですね、車と自転車以外にあなたは子供の教育に貢献しました。東大に入れるより立派な業績です」
美佐子、少しおかしいのではないか。