君が知らない僕
君が中学生に上がる頃には
ばあちゃんの認知症はもっと激しくなるんだ。
君が大好きだったビフテキも作り方を忘れて
ぐちゃぐちゃになっちゃうんだ。
それでも
美味しいから、
ちゃんと残さず食べるんだけどね笑
でも、その頃から
僕は怒ることをやめるんだ。
それが、諦めってことかな。
というより、
ばあちゃんから遠のいてったのかもしれない。
昔、偉い学者が
「人は死ぬのが怖いから
認知症になるんだ」
って言ってたけど、
僕は
ばあちゃんが壊れていくのが怖いから
関わらないようにしていったのかもしれない。
そういえば、
中学生になるまえに家族が一人増えるよ。
チコって名前の犬だ。
君が幼稚園の頃にいた
ばあちゃん家にいた犬と同じ名前だ。
チコが来た日に、
ばあちゃんがチコって名前つけたんだよ。
前のチコと違うってのはまだ解ってたから
名前が思い付かなかったんだろうね笑
見た目的にはぜんぜん似てないんだけど、
真っ白で鼻が低いところは似てたかもね。
一応、
母さんたちは
君の世話をしなくなった変わりに
その犬を世話すれば、
少し良い効果もあるだろう
って思ったみたいだね。
でも、
その計算は大ハズレ笑
ばあちゃんのズボンに噛み付いて
あやうくばあちゃんが、転びそうになるんだ笑
おまけに鼻がぺちゃんこだわ
いびきかくわ
呼んでもこないわ
なかなか困った子やろ?笑
まぁでもなんだかんだばあちゃんも
可愛がってた気がするよ
そんなこんなで、
君が中学2年生、
楽しい修学旅行の間、
ばあちゃんは高熱を出して入院するんだ。
ちゃんとばあちゃんの声を聞いたのは
きっとこの頃が最後だ。
絶賛反抗期中の僕は
ばあちゃんの入院中、
1度もお見舞いに行くことはなかったんだ。
―――ひどい?
・・・まぁそうかもね。
ばあちゃんは施設に入所することになり、
家に一度帰るのは高校二年生の頃くらいだ。
その頃には
ばあちゃんは喋れなくなってる。
正確にはあーとかうーくらいだ。
そこから、
ばあちゃんが死ぬまでの記憶は
そんなに残ってないんだ。
会ったりはしたんだけどね。
きっと、
ちゃんと向き合う勇気が
僕にはなかったんだ。