ばあちゃんとの思い出
ばあちゃんは厳しい人だったね。
今は少なくなってきた
「昭和らしい人」
ってやつだよ。
よく君は怒られてたね。
本当に怖かったもんね。
でも、同時に優しかったんだよ?
小さい頃から絵を書くのが大好きだった君はよく、
ばあちゃんに絵を書いてみせていたね?
すごく誉めはしないけど、
心なしかニコニコしてたよね?
そういえば、
ばあちゃんは肉嫌いだったね。
でも、しょっちゅう肉料理つくってたよね。
それはきっと君がいたからだよ。
君は嫌いな『だんご汁』。
知ってるかい?
あれは大分にしかない料理なんだよ。
小麦粉から打って、
平たい麺にして、
それを野菜と一緒に煮込んで・・・
けっこう手間がかかるんだ。
君は嫌いだろうけど、
ちゃんと食べてほしいな。
「あの味は出せない」
って母さんも言ってたから。
あと、
牛肉に塩コショウして
小麦粉つけて焼いたやつ。
『ビフテキ』って言ってたっけ。
君が大好きな料理だけど
僕はもう食べられないんだ。
ちゃんと味わって食べるんだよ?
おかげで
ずっとぽっちゃり体型なんだけどね笑
ばあちゃんが
ボケ始めたのは君が10歳くらいからだろうか。
だんだんと物忘れが激しくなったね。
しまいには、
君のことを
おじさんの名前で呼ぶんだよね。
ばあちゃんにとっては自分の息子だ。
『もときはどこいった?』
とか言うんだよね。
笑えてくるよね。
そこにいるのにね。
でも、
笑えばいいのに、
どうしていいか解んなくなるんだよね。
そりゃあそうだ。
君は「お婆ちゃんっこ」だったんだから。
だから君は怒るしかなくなる。
そしたらばあちゃんは泣き出すんだ。
あんなに厳しかった、
怖かったばあちゃんが
泣き出すんだ。
どうしていいか解んなくなって、
頭真っ白になるんだよね。
あの強いばあちゃんが
壊れていくようで、
どうしていいか
解んなくなるんだよね?
でもね、
できたら、
ばあちゃんの声を聞きもらさないでほしい。
もうその声は2度と聞こえないんだ。
ばあちゃんのご飯を噛みしめて食べてほしい。
もうその味は2度と食べられないなんだ。
君にとって、
当たり前の味も声も
僕はもうほとんど思い出せないんだ。
―――後悔しているか?
・・・わからない。
今までの経験があって僕がいる。
今までがなかったら今の僕はいないんだ。
ただ、
もし、
もう一度だけ、
君にとっての当たり前を
味わえるなら、
今度は
じっくりと味わってみたいんだ。
たとえ
1秒でも
一口でも
味わえるなら
今度は大事に噛み締めてみたいんだ。