2.
「西の都の大会?」
聞き返す父はキョトンとした表情を浮かべていた。
「コイツが出たいっていうからさ、俺も出ようかなと」
隣に座るアイゼンを指し、パンをかじった。
すると、我が可愛い妹から冷たい質問が返ってきた。
「ふ〜ん、お兄ちゃんって強いの?」
咄嗟の事で、俺は答えることが出来なかった。しかし、シエルがすぐさま答えた。
「すっごく強いんだよ。この前なんか、あたしが誘拐されそうになった時に助けに来てくれたんだから」
答えを聞いたイリナは、スプーンでスープを口に運びつつ頷いた。
「そっか…………ところでさ、お兄ちゃんとシエルさんって恋人さんなの?」
目をキラキラ輝かせたイリナ。
俺とシエルは言葉に詰まった。
苦笑いを浮かべる俺とシエルは互いに目を合わせる。
答えたのは、なぜか誇らしげなアイゼンだった。
「そりゃもう、相思相愛のラブラブカップルだぜ」
イリナは頬を紅潮させ、更に目を輝かせる。
「素敵。私もそんな人出来ないかな〜」
一人妄想にふけっている妹を置いて、話を戻す。
「それより父さん、移動手段だけど」
言われた父はゆっくりと首を横に振った。
「ウチじゃ金は出せないから、ラクダなんて無理だぞ」
「そう、だよな」
俺は俯いてしまう。分かってた事なのだがやはり実際に言われると苦いものがある。
「ラクダ? 馬じゃないの?」
質問したのはシエルだった。
父が丁寧に答えた。
「大会がある西の都と、この街の間には小さな砂漠が広がっているんだ。だから砂漠越えしなきゃならないんだよ」
答えを聞いたシエルは納得した様子だった。
「大変そう」
苦笑いしたシエル。
「実際そうでもないんだ」
俺が付け足す。
「砂漠なんてただ単に広いだけ。魔獣なんて滅多に出ないし、水と食料を十分持っていけば大丈夫」
「そんなものなのかな」
シエルは木製のコップに口をつけた。
食器を片付ける母が俺に話しかけた。
「シエルちゃんの事、どう思ってるんだい?」
皿洗いしながら質問を投げかける母。
「どうって…………なにがなんでも守りたい」
語尾の方は小さくなってしまった。胸にあるのは妙な締めつけ感。
「そう。大切にしておやりよ」
「うん」
俺はしっかりと頷いた。
母は皿洗いの手を止め、何か思い出したかのような表情で振り返る。
「そうそう、西の都ではここ最近謎の誘拐事件が頻発してるそうだよ。なんでも狙うのは男女問わず容姿端麗な者ばかりだとか」
「分かった。気をつけとくよ」
母は軽い微笑みを俺に向けた後皿洗いに集中し始めていた。