間章
深淵たる暗闇に一筋の光明が覗く。
あっ、っと俺の喉から思わず声が漏れていた。
トンネルの出口だ。
うんざりした闇から一刻も速く抜けだそうと、自然に歩調が速まる。
「見えたね。出口」
囁いたシエルの声もどこか嬉しそうな色が滲んでいた。
青白い光点を見続けていた為にコケそうになりつつも、無事に眩い陽の光を浴びる事が出来た。
「ほわぁ」
隣に立つシエルが感嘆の声を漏らす。
それもその筈、眼下には大規模な街が広がっていたのだ。人々は巨大な街の中で生の営みの為に活動をし、彼らが織り成す喧騒は一種の音楽のように、賑やかな活気を俺の耳に伝える。
空は雲一つない晴天。ギンギンと照りつける太陽は熱いくらいだ。
俺たちが通ってきたトンネルの出入り口は階段で登った所にあり、正面の階段で降りられるようになっている。馬車などは俺の左手に見える緩やかな――しかしとてつもなく長い――坂で登り降り出来るようだった。
俺たちは正面の階段を下る。
僅かに緊張した面持ちのシエルやアイゼンを見て、少し笑ってしまった。
階段を降りた先に門があり、そこの兵士が陽気な調子で声を掛けてきた。
「よ、お前さんがた旅の人? このご時世に大層なモンだな」
青っぽい布製の兵服を纏った兵士は槍を片手に手を振った。
俺も笑顔で応じ、近寄った。
「警備おつかれさんです。帝国の方から来たんですけど、やっぱり対応が全然違いますね」
兵士は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で答えてくれた。
「そうかそうか。どうだった? 帝国の連中はいつも仏頂面だっただろ?」
「えぇ、まぁ」
俺と兵士は二人揃って笑った。
「それじゃな、坊主。お前らも頑張れよ」
俺とアイゼンは手を振り返してシエルはペコリとお辞儀した。
三人共踵を返し、大通りを歩き出した。
「随分と手慣れてるじゃねぇか」
アイゼンが笑みを浮かべて言う。俺は何気なく答えた。
「ここの兵士は気さくな人たちだからさ」
なるほどなと含み笑いを残してアイゼンは黙る。
一瞬の沈黙を突いてシエルが話題を変えてきた。
「それより宿探そうよ。もう歩きたくないよぅ」
甘い声で迫るが、俺はニヤリと笑った。
「今日の寝床なら心配要らないぞ。とっておきを知っているからさ」