表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣戟の幻想物語 3 栄光の舞台  作者: やきたらこ
一章~憧れの舞台への渇望~
6/30

5.

 薄暗いトンネルの通路。

 明かりは手元のランタンと等間隔に吊るされたランタン。そして入り口からの僅かな日の光。

 それぞれが淡い橙色の光を放ち、周囲を照らす。


 無言だった。

 支配するのは静寂。

 俺とシエル、アイゼンの足音が薄暗い通路を反響し、沈黙を促していた。




 しばらく歩き続けていた。既に前方も後方も闇に包まれ、光は手元と壁のランタンだけ。しかも壁のランタンは左右両方に付いており前後が分からない。

 何回か回転し、目を回してしまえば方向感覚などなくなってしまう。最悪、もと来た道を迷わず戻っている事もあるかもしれない。


 その時、唐突にシエルが口を開いた。

「アイゼン。なんでそんなに興味あるの?」

 言葉が足りない。俺の脳内で補完されていく。

 ねぇ、アイゼン。なんで大会に対してそんなに興味を持っているの?

 これで合ってると思う。

 アイゼンも同じ様に補完に成功したのだろう。静かに答えた。

「俺の、小さい頃からの夢だったんだ」

 歩きつつアイゼンの方を振り返ると、俯いたその表情ははにかんだように笑っていた。

「いつか、出場して優勝したい。ホント憧れだったんだ」

 そっか、とシエルは端的に応じる。あまり深く詮索しないつもりだったのだろうが、アイゼンは自分から話し始めた。


「俺の出生、言ってなかったよな。隠してたワケじゃねぇんだ。ただ、タイミングっつうか、なんというかな」

 アイゼンは後頭部を掻きながら笑った。

 俺とシエルは立ち止まり、真剣な面持おももちで耳を傾ける。そして続く内容に衝撃を受けた。

「俺の故郷は、無い。俺はエルル族の末裔なんだ」


 エルル族とは、かつて帝国に物量で負けた戦闘部族だ。侵攻戦の時、決死の抵抗も圧倒的な物量の前では虚しく、敢え無く殲滅された。

 その小さい村の住人は驚異的な戦闘力を誇り、現在の一般兵士、十人程の戦力を持つらしかった。


「エルルって、あの伝説の!? だって、いなくなったんじゃ?」

 アイゼンはゆっくりとかぶりをふった。

「何人か生き残ったんだ。そいつらも、細々と頑張ってるってワケだ」

 アイゼンは俺とシエルを越し、前に立つとニヤリと笑った。

「俺が小さい頃に開催された時の優勝者はエルル族だったんだ。独特な空気を見ての直感だけどな」

 苦笑し、続ける。

「だから俺、決めたんだ。憧れの優勝者になるって。小さい頃の俺にとってのヒーローになるって」

 アイゼンは強く拳を握っていた。その決意を示すように。

 俺とシエルもその緊張した顔つきは崩さなかった。


「出来るって。大丈夫」

 俺はアイゼンの胸板に拳を軽く押し付けた。

 シエルもアイゼンの肩に手を置く。

「出来るよ。その為にこの道を歩いているんだから」

 アイゼンは左手で目頭をしばしつまんだ。

 そして少しの間を置き、頷いた。

「サンキュ。ありがとな」

 アイゼンは俺たちの手を払った。

「俺の夢だったからな。頑張るぜ」


 アイゼンはトンネルの奥へと進む。

 俺とシエルもそれに従って進んだ。

 彼の夢の手助けの為に、その決意を胸に秘めて彼の後に続いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ