3.
朝の刺すような寒さが身に染みる。
俺はソファから体を起こして二人を見る。どうやらまだ寝てるようだった。
(毛布借りればよかったな)
体を自らの両腕で抱き、キッチンへ向かう。
(昨日の残りの野草とか、きのこ類が使えそう)
包丁を水洗い―昨晩、シエルが水属性の術式で出現させた水――そして、野草類に包丁を入れていく。
朝の冷気はヒヤリとアイゼンを包み込む。
(最近冷えるな)
アイゼンは体を起こすと、トントンという音が聞こえた。
そちらを見やると黒髪の少年が真面目にまな板と向き合っている。
(俺も手伝いますかね)
アイゼンが立ち上がり、キッチンに向かった。
「はよ、リアン」
声をかけられたリアンは振り向くと、すぐに返してきた。
「おう、おはよ。起こしちゃったか?」
いんや。と応え、リアンの隣に並んで包丁を手に取る。
「昨日のお返しといこうじゃないか」
「上等だ」
アイゼンとリアンは黙々と野草類やきのこを切り刻む。
その時、唐突に後ろからアイゼンたちに甘い声がかけられる。
「おはよ〜二人共早いね〜」
振り向くと、寝癖をつけたシエルが寝ぼけ眼で立っていた。
「今日は俺らで作るから、シエルは休んでてくれ」
リアンがシエルに向かって言った。その声はより一層優しさの色が滲んでいた。
リアンの提案にシエルは笑顔でコクリと頷いた。
「うん。そうさせてもらうね」
彼女はおもむろに踵を返し、ソファの方へ向かった。
リアンはアイゼンとチラっと視線を合わせた。
「よし、頑張ろう!!」
その目は燃えていた。
「お前のその変なやる気が空回りしないようにな」
極々平凡なサラダ類しか出来なかった。
食材の関係でお腹に溜まるモノは無かったのだ。
「それじゃいただきましょうか」
リアンが口火を切る。
「シャキシャキしてて美味しい。食べやすい大きさだしね」
シエルがささやかなフォローを入れてくれるがやはり虚しさしか無い。
「そういえばなんで、この大会?」
リアンがフォークを動かしながら問いかけてくる。アイゼンは自分の夢を話す事にした。
「俺の憧れだったんだ。大きな武術大会で優勝するのが。子供の頃からの、さ。」
「ふぅん」
それほど突っ込む事も無くリアンは自分のお皿に視線を戻した。