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Epilogue

 優勝し、夢を叶えたのはアルヤ・マークフェイだった。

 倒れたアイゼンもアルヤの健闘を称えて笑った。

 アルヤとは、また会う約束をし、会場で別れた。



 狭い路地。帰り道だった。日はとっぷりと沈み、薄暗い夕闇が紫のベールで辺りを包みこみ始めていた。

「良い試合だったよ!」

 隣を歩くシエル・ラーグナーが感想をアイゼンに伝えた。

「俺も、出たんだけどな」

 苦笑交じりに冗談を飛ばす。勿論今日の主役はアイゼン・グリッダである。

「だって、リアンはすぐ負けちゃったし……」

「いいや! シエルがあんな顔しなきゃ勝ってました〜」

 予選。俺は、他の選手に追い詰められた時、客席のシエルの不安気な表情を見て途中退場リタイアしたのだ。


「俺も惜しいところまでいったんだけどな〜」

 アイゼンは笑いながら言う。彼は先ほどの決勝戦で最後まで残ったが、アルヤに敗れたのだった。

「でも、ホントいい試合だったよな。俺だって、二人の動きに思わず見とれてたくらいだし……」




 馬鹿話は続いていた。ずっと続いていられると、この三人はいつまでも一緒でいられると、そう思っていた。

 しかし、それは突然に失われた。


「ほぅ、実に良い。我輩好みである。とても美しいぞ」

 その低い声を後方から聞き、首筋に鋭利で冷たい刃物を突きつけられるかのような錯覚を感じた。

 俺は、咄嗟に振り返った。


 裏地が赤い漆黒のマントを羽織い、その下には整えられた漆黒の執事服のようなスーツ。それらを纏っているのは奇妙な男。血色が悪く、むしろ青白い肌、切れ長の細い双眸、濁った金色の髪のオールバック、目尻には紫のタトゥーが入っており、流れるような独特な模様が小さく刻み込まれている。

 その奇妙な男は後ろを歩いていたシエルの首筋を甘く噛んでいる。シエルの首筋とその男の隙間から見える部分では、男の歯|(牙)がシエルの柔らかい肌に突き刺さり、二筋の血がつうっと流れている。


 俺はその光景を見ても声を発せなかった。舌が萎縮し、喉が干上がる。背中の剣の柄に自然と手が伸びていたが、俺は情けなく喘いでいた。

 奇妙な男が発するモノはまさしく“恐怖”そのものだった。

 ちらりと隣を見やると、アイゼンも警戒した様子で、腰の長刀の柄に手をのばしている。


「どうした? 貴様ら、我輩にたてつくのか?」

 男は薄く笑う。それだけで戦意は削がれ、剣の柄から手が離れそうになる。俺は睨み返す。



 俺の視線がシエルに向いた。

 呆然と立ち尽くしていた彼女だったが、突然力無く崩れ落ちた。

 それを男は片手で軽く支える。

「………しッ……シエルに……触れるな!!」

 まぶたは開いているが、その瞳は焦点が合っていない。それに、首は傾いたままだし、表情というモノが抜け落ちたかの如く顔の筋肉はピクリとも動かない。まるで魂がすっぽり抜け落ちてしまったかのようだった。

 そんな彼女を片手で支える男は俺に視線を移し、笑った。


 たったそれだけの行為で、俺は完全に“恐怖”に呑み込まれてしまった。

「我輩に対する無礼は、許してやろう。このむすめはもらっていくぞ。さらばだ」


 奇妙な男はニタリと笑った後、漆黒の翼を大きく広げて飛翔した。

 紺色の髪の少女を連れたまま――――





 得も言われぬ虚脱感が俺の中にわだかまる。

 体に力が入らない。思わず地面にへたり込んでしまう。

「クソッタレ!!」

 アイゼンは隣で瞑目し、歯を食いしばった。



 シエルが、俺の愛する人が奪われた。その事実は、遅れて俺の中にじわじわと浸透してきた。

「畜生がッッッ!!!!!!!!」

 俺は拳を地面に強く叩きつけた。

 激しい痛みが走るが、その痛みを上回るほど頭の中がぐちゃぐちゃだった。






 相棒は止めどない量の涙をボロボロとこぼして何度も地面に拳をぶつけていた。しかし、唐突に止めて顔を上げた。その表情は憤怒に満ちている。

「……取り戻す………絶対にだ……」

 へたり込んだ相棒が、痛みを堪える表情で呟いた。その声は痛いほど震えていた。

 アイゼンはそんな相棒を見、深く瞑目した。

(悔しいのは、お前だけじゃないからな…………)

 アイゼンは目を開き、奇妙な男が飛んでいった方向をじっと見つめた。

 気になる終わり方でしたでしょうか。勿論彼らの戦いはまだまだ続きます。

 第四部に乞うご期待!!

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