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剣戟の幻想物語 3 栄光の舞台  作者: やきたらこ
一章~憧れの舞台への渇望~
3/30

2.

 外は闇が支配している。この部屋はランタンによってオレンジの明かりが灯されていた。

「今日は鍋にしてみました〜。口に合うかな?」

 シエルがアッツアツの鍋を抱え、パチパチと音を立てて煌々と燃える暖炉の方へ来る。

 鍋を暖炉にひっさげると、キッチンに向かう。今度は食器を三人分持ってきた。

 俺はシエルに食器を渡され、三人分の料理を食器に移す。


 スプーンや食器は木製だった。元の持ち主はいい趣味をしている。

 木の香りは、さすがに残っていないが気分が温まる。

 最初に鍋料理に口をつけたのはアイゼンだった(しかし手伝い等は何もやってない)。

「うん。美味い!! さっすがシエルさんっすね。ホント料理がお上手で」

 アイゼンはまだ口に物を含みつつも無条件に褒め称える。

「それじゃ、俺もいただきます」

 スプーンで白いスープをすくい口に運び入れる。

 シエルは俺の一動作を固唾を呑んで見つめていた。

 口の中にほんのりとした甘さと野菜の風味が広がる。肉の出汁も効いているのかもしれない。

「美味しい」

 そのまんまだが、それしか感想が無い。正直、『美味しい』以上も以下の感想は俺の語彙量から出てこなかった。

「良かったぁ」

 彼女は胸をなでおろし、自分の取り分にもスプーンを入れた。




 俺たちの悪い癖である。

 食事には、食べ始め、食べてる途中、食後がある。

 俺たちは食べてる途中の会話が無い。

 各々が自分の料理に夢中になってしまう為、会話が限りなく零に近くなってしまうのだ。

 現に今、お皿とスプーンが当たる音しか無い。

「あ、おかわり? 俺が盛るよ」

 さんきゅ、とアイゼン言って俺に渡す。

 受け取った俺はおかわり(三杯目)を盛った。




「いやぁ〜美味しかったな」

 空になった鍋を片付けつつ俺は呟いた。

「こんなご馳走をお作りいただいたシエルさんに感謝だな」

 アイゼンも応じる。

 皿を洗いつつそれを聞いたシエルは、はにかんだように笑った。

「そんなに美味しかったの?あんまし自信無かったんだけどね」




 片付けを終わらせた俺たちはソファに座ってくつろいでいた。

 俺はランタンに油が入っている事を確認し、火を点けて(こんな事に魔法力マナを使うのは勿体無いのでマッチで着火する)中央のテーブルに置いた。

「俺ぁそろそろ眠くなってきたな」

 アイゼンは両腕を頭の後ろに回し、ソファに寝転がった。

 俺はシエルを見て言った。

「ベッドは君が使いなよ。疲れてるんだし」

 シエルは眠そうに目を擦りながらコクリと頷いた。どうやら相当疲れが溜まってるらしい。

 彼女はソファから立ち上がるとベッドルームへとフラフラとした調子で歩いて行った。

(アイゼンじゃないけど。ホント、カワイイな)

 俺はそこまで眠いというワケでは無いので、ランタンの火を二つ共消し、ソファから立ち上がってドアノブ辺りに向かう。

 完全な闇では無かった。

 埃っぽい部屋に月光が窓から差し込んで、闇の中に薄く蒼いベールが漂っているようだった。


 俺はノブを回して外に出た。

 外も同じ様に花粉やらなにやらに月光の薄蒼い光が当たり、空間そのものが光っているようだった。

(綺麗だな)

 俺はその視線を南方の天に向けた。

 そこには、薄い紫の闇を切り裂くように屹立する真っ黒な物影シルエット

(あれから二ヶ月か。あっという間だったな)

 とある異教徒との決戦から二ヶ月余りの時が過ぎようとしていた。死者の弔いは終わり、人々は生活の営みを再会させる。しかしその傷跡はそうそう消えるモノでは無い。今俺が見上げているそれも傷の一つだ。

 数多あまたの命を吸ったその大樹は、術者を失ってからもその巨躯を朽ちらせない。

 雷撃の砲撃は無い。そして今は、その身を少しずつ崩していっているという状態だった。王国軍の術者の話だと、あと数年は残るらしい。

(あれの影になってる集落とかは日の光を浴びないんだろうな)

 ポツリと思ったが、言葉にするのはためらわれた。自分でも何故だか分からなかった。

「まぁ、いいか」

 俺は踵を返し、廃屋のノブを回した。

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