後章
厳しい形相で駆け込んだのは、紫がかった黒髪の少年。
その両手で抱えているのは、頬を赤く染め、茶髪のショート、薄手のチュニックを纏った十歳ほどの少女。その少女の表情は力無く、目を伏せている。
「どうしたの!?」
宿で本を読んでいたローグル・レイもとい、リーナ・アリスン。思わず本を落とし、驚愕の表情で立ち上がった。
「分からねぇ。突然苦しげに倒れやがった」
ベッドに少女を寝かせ、リーナを近くに来させる。
いつもより真剣な眼差しで少女の様子を観察するリーナ。その手は忙しく少女の体を走る。
せわしなく動いていたリーナの手が、唐突に止まった。
「……どうした!?」
心配した声で尋ねるゼノ。
対するリーナは驚愕に表情を歪めた。
「この症状……急速性ヘィアス症だと思う」
少女から手を離したリーナは沈鬱な面持ちで告げた。
「そ、その病気は、一体どんな?」
聞いたことも無い病名を告げられたゼノはわけも分からず問い正す。
答えたリーナの声は沈んでいた。
「何万人に一人っていうレベルの確立で発症する病。発症すると、数日中には死に至る不治の病」
「な、んだと!?」
すぐには認められなかった。認めたくなかったのかもしれない。告げられた内容はゼノの中に浸透するには多少の時間を有した。
「だったら、この子供は助からねぇっつうことになるのか!?」
「そう……なる……ね」
痛みに耐えるような表情で答えるリーナ。
「クッソ!!」
壁に拳を強く打ち付けるゼノ。血も滲むほど拳を握りしめていた。
そんな彼にリーナは一つの事実を伝えた。
「一つだけ方法があると云われている」
「どんな!?」
勢い良くリーナの方へ振り向くゼノ。その表情は焦燥に駆られていた。
リーナは冷静な声色で続ける。
「“吸血鬼”と呼ばれるモノの血を飲めば、治ると云われている……けど。実在するかも分からない噂話だし……」
「……関係ねぇ…………」
その言葉には、全ての理不尽をはねのけるだけの強さを含んでいた。
「この大陸中をくまなく探して、必ず“吸血鬼”とやらをブッ殺し、この子供を助ける」
言葉を一つ一つ紡ぐたびに、ゼノの中で決意が固まっていった。
「リーナはこの子供を見ていろ。俺は少しばかり情報を集めてくる」
扉を開け、出て行く少年の背中を見つめるリーナの瞳は、どこか悲しげだった。




