5.
粉塵が晴れたとき、そこに立っていたのはターバンを失った緑髪の少女――他の人には少年に見えるかもしれない――。黒マントの男は仰向けで倒れている。
俺はアルヤの立ち姿を視界に入れた時、ホッと胸をなでおろした。隣でゆっくり息を吐く音も聞こえた。
(残ったのはアイゼンとアルヤ……エルル出身同士の対決になる。アイゼンの夢は知ってる。けど、ゆずれない思いはアルヤにもあるだろうし……)
瞳を凝らし、俺は体勢を整えて対峙する二人を見つめた。
「どっちが勝つか、分からない。自分の夢への思いが強い方が勝つ」
隣でシエルが呟くのを聞き、俺はコクリと頷いていた。
意識を眼前の青年に集中する。
先ほど血の混じったツバを吐いていたため、恐らくアイゼンの方も満身創痍。しかし、強敵との戦闘で疲弊しているのはアルヤも同様だ。
(最初の優勝者はエルル族、ボクが感じたあの感じは完全にエルルの空気。ボクの夢――エルル族の栄光に、小さい頃の憧れに。ボクはなる!!)
長めの前髪で隠れる程度の、細めた琥珀色の右目が一気に開かれる。
アイゼンの顔からいつもの笑みはとっくに消えていた。
「互いのゆずれぬ思いは、ぶつかり合う」
アイゼンの言葉を聞いたアルヤの意識から、自分と長棒、アイゼンと長刀と大盾以外は意識から遠ざかっていく。二人を包む歓声までもがほとんど聞こえなくなった。
アルヤは強烈な力で地面を蹴った。土埃が舞う。
アイゼンの反応も速かった。
アルヤの、右上段からの打撃は大盾で受け止められる。勢いは殺しきれないのか、僅かによろめくアイゼン。その隙を逃すほどアルヤは弱くない。
すぐにかがみ、右足を軸に回転し、勢いのまま左足でアイゼンの足元を刈る。
恐らく、転ぶか、耐えるかのどちらかだろう。
直後、アルヤの予想は大きく外された。
アイゼンは高く跳躍したのだ。ほとんど頭の位置は上下しないものの、足を大きく曲げて地面から離れている。
剣戟が飛んだ。
即座に上体を逸らした。
長刀の一撃を、なんとか鼻先で回避することに成功する。しかし、無傷ではない。
額のあたりに軽い傷が一筋。血の流れも一滴垂れた。それと同時に左目を覆っていた包帯もはらりと落ちた。
その美しい銀の瞳が外気に触れる。
アルヤは鋭い双眸をさらに研ぎ澄ませ、長棒を構えた。
「やっぱ見込んだ通りの強さだ。これなら本気出してもいいな……」
言うとアイゼンは長刀を引き、大盾を前身に構える構えを見せた。
(最初から本気だろうに……)
アルヤは一瞬で見抜き、長棒を担いだ。
アルヤの一撃はアイゼンの長刀によって弾かれるが、慣性と持ち手の自在さを応用して連撃に繋げる。
金色短髪の青年もやられているだけではない。アルヤの隙を見つけては鋭い剣を入れ込んでいる。
いつから闘り始めていただろうか。アルヤは時間の感覚も鈍るほどアイゼンとの戦闘に集中していた。
これほどまでに“楽しい”という高揚感をいままで感じたことはあっただろうか。
剣を弾き、棒を弾かれ、体でぶつかり合い、気と技とがぶつかり合う。
“楽しい”という感情がアルヤの中に満ちている。アイゼンの心中など知る由もないが、その表情はどこか楽しそうだ。
気の済むまでずっと続けていたい。そう思い始めていたその時だった。
不意にアイゼンの体勢が崩れた。アルヤの長棒がアイゼンの大盾の防御をすり抜け、アイゼンの胴に刺さった。
骨を砕くような鈍い感触が両手に伝わる。
片膝を突くアイゼン。その表情は苦しげだ。数回咳き込む時も、咳と混じった血の飛沫も喉から飛び出す。
弱ってるのはアイゼンだけではない。アルヤの方も立っているのがやっとの状態だ。
「そろそろ……決着の…時間の…………ようだぜ」
にやりと不敵な笑みを浮かべるアイゼン・グリッダ。
琥珀と銀の瞳を僅かに瞑目させ、アルヤは見開いて眼前の相手を見つめた。
その姿は勇ましくも儚く、それでいて力強かった。
金色短髪の青年は大盾を捨て、長刀を両手で持つ。彼は不敵な笑みのまま、長刀を振るう。
アルヤは、長棒を回転させることで勢いを増幅させ、その一撃をアイゼンに向けた。




