2.
「面白そう。相手なってよ」
後ろから声をかけられた。その声は勝ち気そうな雰囲気を匂わせる少女のものだった。
「なに?」
冷やかに応じるアルヤ・マークフェイ。視線を移すと、褐色肌に、身の丈はあろうかという巨大な槌を担いだ少女がいた。歳はアルヤの一つ上くらいだろうか。
「だから、相手になってって言ってんの!」
少し眉をひそめつつ、アルヤの方へ向かって駆けだす褐色少女。巨大な槌は構えられ、そこに絶大なエネルギーが蓄えられていることは一目瞭然だった。
すぐにアルヤは飛び退る。茶色の槌が振り下ろされた。地面が砕け、くぼんだ。
その破壊力に驚くアルヤだが、彼女の次の行動へ移る速度は早い。
着地後、すぐさま体勢を直して褐色少女に迫るアルヤ。
「セラァッ!!!!」
気合いと共に長棒を横に振るった。長い棒が迫り、その細い肉体にミシミシと食い込む………………感触は無かった。
棒は何かに弾かれ、電撃のようなビリビリとした感覚が手に伝わる。
「何!?」
続けざまに左上、左中段、右上方向から打撃を加える。その打撃も何かに弾れた。
「…見えた……」
アルヤはその数回の打撃から、全視界で捉えた情報を分析していく。
(ちらりと見えたのは、小さな茶色い岩の壁。それは三回の攻撃全てに現れた。恐らく“その術式”はアイツから一定の距離の全方位に展開されていて、万物の攻撃を防御する……)
いわゆる“鉄壁のバリアー”だ。かなりの高度な術式だが、それ相応の魔法力消費があるのだろう。そのデメリットを消す為に常時展開されていない。
「これなら!!」
地面の砂を左手で掴み、褐色少女に向けて投げた。
術式は律儀にも発動し、大範囲の砂を全て防ぐべく、半円形の壁が褐色少女を覆う。
マントにターバンの少女の目眩ましを受け、術式が展開される。
「それは“一定間隔の壁”だと判断した。これならどう?」
フィアナ・レンは、平坦な声を岩の壁の内側で聞いていた。
(どんな攻撃が来ようと、あたしの絶対防御は崩されない…………)
そう自負していた。自信があった。過信していた。
なぜならこの防御が破られる事など一度も無かったのだから。
その“負けた事がない事”が敗因だった。
「とある時間のとある場所。なんの変哲もない、唯の空間から飛び出るソレは一体何でしょう?」
歌うように式句の詠唱がおこなわれた。
(一体、何を?)
断続的に砂を投げられているせいで“壁”が発動したままだったのが仇となった。
「答えは簡単、破壊の闇球でしたぁ」
告げられた瞬間、フィアナの眼前に紫の球体が出現した。
絶対の自信があった壁の内側。そこに球体は現れたのだった。
フィアナは重い槌で防御することも、壁の外へ逃げることも出来なかった。
アルヤは既に褐色少女など眼中に捉えていなかった。次の相手へと狙いが移行する。
直後、小さな小さな爆発があった。
茶色のドームの内側でポンッという音が響いた。
そして、茶色のドームは消える。
そこには気を失った褐色少女が倒れていた。
――ズギンッッ!!!!――
左目が痛む。アルヤは棒を持つ反対側の左手で包帯で隠した銀の瞳を抑えた。
(やはり魔法術を展開すると痛む……)
空いた右目で戦場を見渡す。そこには、知り合いであるアイゼンが二人の選手を倒し、木野川虎太郎――倭国のサムライと対峙している。そして、奇妙な格好なのに、その存在感が薄く、開始位置から一歩も動いていない選手。アイゼンの仲間で、知り合いのリアン・ディールを破った黒マントの暗器使い。
(決勝はもう少し続きそうだな………)
ぼんやりと考え、手近な選手の一人へと駆けだした。




