1.
帝国領南西部、共和国国境付近に広がる広大な森林地帯を進む俺たちは数多の草木に足を取られ、幾ばくかの時間を使っていた。
「もう!! つたが鬱陶しい!!」
シエルが思わずぼやき、木から垂れたつるを激しく斬り払った。
「ねぇ。そろそろ休憩しない?」
どうやら相当に気が滅入っているらしい。
俺はアイゼンとも目を合わせ、同意の意思を確認し、
「分かった。そこに廃屋があるんだが見えるか? そこで一休みしよう。休憩中に魔獣に襲われたりなんてまっぴらだからな」
本当に歩き疲れているのだろう。シエルは涙目で頷いた。
何をトチ狂ったのか、こんなヘンピな所に人が住んでいたなんて。
俺は謎の感慨深さに捉われつつ中に足を踏み入れた。
家具や床はホコリを被っていたがそれだけのようだった。夜襲に荒らされた痕跡も無い。
俺は破れかけたカーテンを開く。ホコリが舞うので窓も開けた。そしてキッチンに向かうシエルに目をやる。
「これは、鍋? 他にも色々使える物があるみたい。汚れてるけど洗えば使えるかも」
シエルは目を輝かせ道具類を物色している。
(こんな事で疲れが取れるのかな)
疑問を胸にしまい、俺は暖炉の方に向かった。
「どうだ、点きそうか?」
問いを受けたアイゼンはコクリと頷いた。
「薪が腐ってるくらいだ。薪を新調してくれば点くだろう」
「そうか。じゃあ、伐ってくるよ」
俺は玄関のドアノブに手をかけて言った。
アイゼンも立ち上がる。
「俺は今日の晩ご飯を獲ってくるぜ」
鼻歌を歌いながら準備をするシエルを尻目に、野郎二人はドアをくぐった。
「どこ行ってたの?」
両手を腰に当て、叱るポーズを取ったシエルににじり寄られる。
「えと、その、木を伐ってたんです。ハイ」
「なんで一言も言ってくれなかったの?」
更ににじり寄られて目を細めてくる。
俺は視線を外してしまいつつも、あまり効果の無い言い訳を答えた。
「シエルさん、凄く、楽しそうでしたから」
言われたシエルは元の立ち位置に戻る。
「……心配したんだから」
顔を赤くし、俯いたシエル。俺は彼女の頭を静かに撫でた。
「ゴメンな」
「たっだいまぁ!!」
割って入ったのはアイゼン・グリッダ。その手には肉付きのいい豚のような家畜に似ている魔獣。
「ほらシエル、今晩のメインディッシュだぞ」
「うん」
シエルはアイゼンから獲物受け取り、キッチンへ駆けていった。
アイゼンが俺のすぐ隣に立ち、静かに耳打ちしてきた。
「(カワイイな。お似合いだぞお前たち)」
「ッ!?」
俺は咄嗟に身を引く。頬が熱い。何か言おうにも喉から声が出なかった。
「まったく、顔赤くしちゃって。ほら、完成を待とうぜ」
アイゼンは告げると手頃な椅子にドサッと座った。
俺は微妙な視線を送りつつ着席した。