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剣戟の幻想物語 3 栄光の舞台  作者: やきたらこ
三章~砂漠越えた先の戦場~
19/30

9.

 試合は順調に進んだ。

 勿論俺は生き残っている。序盤は逃げたりを繰り返した為、中々人数が減った試合会場に立つ事が出来ている。


「いい腕してるな兄ちゃん」

 ほっそりしたいかにもひ弱そうなヒョロヒョロ男の剣を弾き、顔面を殴って気絶させたところで後ろから声をかけられた。

 振り返ると、異質な得物を担いだ着流しの青年。

 その得物には見覚えがあった。たしか…………カタナ。

「まさか!?」

 俺は目を見開く。


 聞いたことがある。

 遥か東方の地に存在する島国―倭国に住まう武人たち。名をサムライと云う。


「倭国のサムライか…………」

 絞りだすように俺の口から言葉が漏れた。

「はは。ご存知だとは光栄だね」

 ぺんぺん草を加えた黒髪の好青年は、にかっと笑った。

「俺といっちょ、闘ってみないかい?」

 俺は生唾を飲む。

「俺で良かったら」

「いいねぇ、そうこなくっちゃ」

 カタナを両手で構えるサムライ。その構えは奇妙なものだ。

 俺も愛剣を構える。右側を引く感じで半身になった。


 両者見つめ合う。


 気がつけば辺りは俺とサムライの一騎打ちに注視しているようだった。

 互いの呼吸音が聞こえる程静かになる会場。


「ハァッ!!」


「トゥアッ!!」


 俺とサムライの掛け声と共に両者は駆け出した。



 迫る真剣。その太刀筋に躊躇は無い。本気で俺を殺すつもりの剣だ。しかし裏を返せば、俺への信用の表れなのかもしれない。この程度では死なないだろう、という。

 俺は右下から来るカタナに剣を合わせ、弾く。

 とても重かった。

 ガッキィィン、と甲高い音が響き、会場が沸き立つ。

「流石だな、ならコイツは!?」

 派手に体を回転させたサムライ。

 遠心力も交え、威力が上がったカタナをかろうじて剣で防ぐが、俺は大きく体勢を崩される。

 歯を食いしばり、転倒をさけた俺は即座に伏せる。勘に従った為だ。


 直後、白の線が俺の頭があった場所を薙いでいた。

「やるじゃねぇか」

 ニッと笑ったサムライ。

 俺は体勢を上げる際に左拳をサムライの顎に叩きつけた。

 大きくよろめいたサムライ。

(もらった!!)

 認識した時には遅かった。

 俺の右足による蹴りは回避されていた。

「甘いな兄ちゃん」

 後ろに退いたサムライは、帯に差した鞘にカタナを戻した。

「何を?」

 俺は体勢を整える時、疑問が口から漏れた。

「抜刀術って知ってるか?」

 答えたサムライの口には笑み。


 聞いたこと無い。

 初めて聞く名前だ。

「妖術でもなんでもない武術なんだが、」

 鞘を後ろに引き、右肩を俺に見せるかたちで構えるサムライ。

「鞘の中を走らせる事でとんでもない速さを実現させる武術だ」


 俺は咄嗟に剣を構える。


 瞬間、金属音がした。気付いた時には既にカタナを振り抜いた後だった。

(見えなかった…………)

 太刀筋も何も見えなかった。それほどまでに速かった。





 シエルは観客席でリアンと異国の剣士の戦いを見ていた。

(こりゃ負けかな〜)

 ぼんやりと思考を巡らせ、剣士の“カタナを鞘から抜き放つ”武術を見た。

(すっごいなぁ、速すぎて見えなかった)


 その直後、シエルは咄嗟に叫んでいた。




「リアン、危ない!!」

 重なる声援。その中に凛とした声を聞いた。

 俺の体は勝手に動いていた。

 すぐに後ろへ飛び退る。

 数瞬遅れてサムライの首筋と俺が元いた場所へ針が飛んだ。


 サムライは力無く倒れる。

「おい!!」

 サムライは苦渋の表情を浮かべ、肘を地面についていた。

「誰がっ!?」

 見るとすぐそこに黒マントの男が迫っていた。

(近づかれるまで気づかなかった?)

 俺は剣を構えるが、迫る黒マントの猛攻を受け流す事は出来なかった。

 握られた双短刀ダガーにより、俺の剣は弾かれ、肉薄を許してしまう。

 胸に鋭い蹴りを入れられ、数秒呼吸が出来なくなる。


 仰向けに倒れた時、視界の端で捉えたのは一人の少女の不安気な顔だった。

「……………………………………………」

 腹に渾身の力を込める。

「……ぎっ…………………………ギブアップ!!」

 濃い紺色の髪の少女はホッとした表情を浮かべていた。

 俺自身分からなかったが、後で聞いた話によると苦渋の顔をしていたようだった。



 その時、大銅鑼が会場に響いた。

「予選通過者が決まりました!!ご紹介します。一人目、木野川虎太郎。二人目――――」





 自重笑いを浮かべ、少女の隣の席に腰を落ち着けた俺。

「負けちった」

「仕方ないよ、アイツすっごい強かったもん。一人だけ“殺気”剥き出しだったし」

 少女の慰めが心に沁みた。

「次はアルヤだな」

 コクリと少女は頷く。

 大銅鑼の人が忙しそうに連絡を受けているのを確認した。

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