8.
大会当日、俺やアイゼン、アルヤが闘技場に入った。シエルは観客席である。
闘技場はとても巨大だった。
観客席は見上げる程あるし、中央の闘技区は楕円に砂が固められた物が敷き詰められた形になっている。差し渡し走っても数分程かかるくらい長い形状だ。
試合会場をチラリと見た俺たちは抽選場に入る。
ブロック予選を四回。参加者は三四八人なので単純に四等分。一ブロック八七人の計算だ。
抽選の結果俺がBブロック、アルヤがCブロック、アイゼンがDブロックと順調に別れた。
「決勝で会おう」
「手加減しねぇかんな」
「………………………………」
三者三様に誓いを交わし、俺たちはそれぞれの控室へ向かった。
控室に着いた俺が見たのは、それぞれの得物を手入れする猛者たち、精神を集中させる者たちだった。
中でも目を引いたのは、黒マントの男だった。顔は目元以外をマスクで隠し、体全体もマントで隠している。
他の参加者には無い殺気じみたモノを感じるが、あまり深く関わらない事にした。相まみえるのは予選の時だけだ。
俺が適当なベンチに座った頃、係員の声が響いた。
「それでは、Aブロック予選が始まります。こちらの部屋では専属の魔法術士がモニタリングさせていただきます」
隣に立っていた紫ローブのメガネ優男が言った。
「私がモニタリングさせていただきます」
術式詠唱も無く、“窓”が開いた。ムサい男たちが歓声、もとい雄叫びをあげた。
“窓”に映る光景では数多の闘士たちが各々の得物を煌めかせ、観客たちが熱狂していた。
知り合いが出ているワケではないので、ぼんやりと眺めていた。
試合は混戦を極めた。
(なるほど、上位五名が進出か………………馬鹿正直に突っ込むのは得策ではないな)
頭の中で色々と作戦を立てているうちにAブロック予選が終わった。
買ったのは、見るからに強そうな巨躯を誇る筋骨隆々な男たちだった。しかし、その中に女性が一人。身の丈を越える巨大な槌を軽々振り回していた褐色の少女だ。彼女は客席へ手を振り、笑顔を浮かべている。
決勝に進んだら彼女が脅威になるだろう、と俺は勝手に予想を立てたところで、係員に呼ばれた。
「次は皆さんの番です。渡された番号の場所に向かって下さい」
俺は手元の紙に視線を落とした。
一七番
スタート位置を示す番号だ。
俺は他の参加者と同じ様に立ち上がった。
試合開始の銅鑼を待つ。
俺の胸の鼓動が速まる。緊張の表れだろうか。
カウントダウンの声が僅かに聞こえた。
やがて銅鑼が巨大な音をたてた。
俺は抜剣し、駆け出した。