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剣戟の幻想物語 3 栄光の舞台  作者: やきたらこ
三章~砂漠越えた先の戦場~
16/30

6.

 いつも一人でどっかいくアイゼンはほっといて、前にシエルとアルヤ、その後ろに俺の構図で街を歩いていた。

(何度も来たことあるけど、結構変わってるな)

 内心感想を漏らす。そして俺は前を歩く二人を見て溜め息を一つ。

(なんか、シエル楽しそう)

 アルヤは変わらずの無表情だったが、シエルは謎の姉っぽさを発揮して話しかけている。まるで姉弟のように見えた。

(そして俺は荷物持ち…………か)

 そう。前歩く二人の購入した物は全て俺が持っていた。

(紙袋が沢山。大変だな)

 心中でげんなりし、歩く速度を合わせた。



「武具屋だね。アルヤ、見ていこ!!」

 手を引っ張るシエルに無理やり連れて行かれるアルヤ。

 そんな隻眼の少年を見やり、溜め息をまた一つ。

 俺も荷物を落とさないように付いて行った。



「ねね、どんな武器使うの?」

 店内に広げられた沢山の武具を前に目をキラキラさせるシエル。それに対し、アルヤは視線を店主ただ一人に向けていた。

「な、なんだよ」

 戸惑いの色を見せるのは筋肉が程よく付いた男店主。

 そんな店主にアルヤははっきりと言った。

「棒、ある?」

「棒? ってぇ、棍棒か?」

 聞き返す店主。

「そう、ボクの身長くらいの棒」

「そうか、おめぇ棒術使いなのか?」

 そして悪ぃと手刀を切った店主。

「ゴメンな坊主、生憎ウチには置いてねぇんだ。なんせ棒術使いなんて滅多にいないしな」

 そう、とアルヤは素っ気無かった。

 アルヤはそそくさと店を出た。シエル、俺と続く。


 その時、店主の野太い声が後ろから響いた。

「そういえば、路地裏のパガスが珍品売ってるらしいぞ。もしかしたらあるかもしれねぇから、寄ってみたらどうだ?そこの路地だ」

 対してアルヤは、

「珍品なんかじゃない」

 ボソリと言った。しかしその足は勧められた路地へと向いている。

 俺とシエルは思わず顔を合わせて苦笑し、後を追った。




「これ?」

 アルヤの前に建っていたのは『パガスの武器庫』とかいう、名前と外見の怪しさMAXのいかがわしい店だった。

 しかしアルヤは躊躇なくノブを回した。


「珍しいな、客か?」

 投げかけられたのは、とても挨拶とは思えない出迎えの挨拶だった。

「なんだ、子供ガキか」

 なんか、カチンとくる態度だな。俺は若干手に力を込めた。

「帰れ、ここはおこちゃまの来る所じゃねぇよ」

 手をひらひらさせるのは、顎を何針か縫い、右肩から二の腕を全て刺青をいれた黒眼帯の男だった。無精髭はあえて伸ばしているのだろうか。

 しかしアルヤはスタスタと店主に歩み寄る。

「棒術の棒を探している。ボクの身長と同じくらいの長さだ」

「棒?」

 店主は眉を動かす。

「払えるんだったら、勝手に買っていきやがれ」

 店主は何本か棒が立てかけられた場所を示す。

 アルヤは無言で数本の棒に向き合い、手に取ったりしている。

 二人のやり取りを見ていた俺は苦笑いを禁じ得なかった。

「(なんなんだ)」

「(さぁ?)」

 シエルも肩をすくめた。



「決まった。これを買う。幾らだ?」

 店主に持っていったソレは、前言通りアルヤの身長と同じくらいの長さの短めの棒。ボディは燃えるような赤。それぞれ両端には重りのような小さく白い円柱がついている。

「七万セルだ」

 冷やかにその値段を告げた。店主は口元にニヤリと嫌な笑みを浮かべている。

 アルヤは巾着財布を逆さにし、コインを落とした。

「四、五。残念あと二万セル足りねぇな」

 僅かにムッとした表情のアルヤ。初めて表情らしい表情を見れた事にレア感を感じた俺はシエルに囁いた。

「(俺の財布から硬貨取って)」

「(う、うん。分かった)」

 どうやら、意図を掴めたらしい。


「これでいい?」

 シエルは自信満々と一万セル硬貨二枚をカウンターに叩きつけた。

 黒眼帯の店主はあからさまな舌打ちをし、手で払うようなしぐさを取る。

「分かったから、さっさとどっかいけ」

 勿論、長居するワケないのでそそくさと店を出た。


「あ、ありがとう」

 赤の棒を抱え、アルヤは言った。

 シエルと俺は顔を見合わせ、笑った。

「いいって事よ仲間だろ?」

「そうそう、存分に甘えていいんだからね」

(そこは“頼って”じゃないかな?)

 俺は内心思ったが、今のシエル姉さんの前では言葉にしない。

 アルヤは俯きつつコクリと頷いた。



 自然を利用した宿の一室。

 シエルとアルヤが先に入ってしまう。

(少しは手伝うって事を知ろうぜ)

 ここでも溜め息を一つ。赤い棒を持たせられなかっただけマシか。

 俺は肘を器用に動かしてレバー型ノブをひねる。

「ただいま、少し手伝ってくれて、も!!」

 最後まで言えなかった。

 足元を見えない俺は何か紐のような物――恐らくアイゼンのバッグの物――に引っ掛かり、派手に転んだ。


「痛っつつ」

 紙袋の中身を含め、盛大にぶちまけてしまうが、問題はそこではない。誰か俺の下敷きになった。

「だ、大丈夫か?」

 なんだろう、妙な感触だ。ふにふにしている。俺の手があった場所は緑髪隻眼の少年の胸元。

 しかし、男のぺったんこな感じでは無い。控えめな女性のそれのようだ――実際触った事無いが――

「えっと…………アルヤさん?」

 俺に押し倒される形になったアルヤは、しかしその顔は俺の手の辺りを向いていて、当然のように頬を紅潮させ、少年もとい少女の腕が俺の腕を物凄い力で掴んでいて、その口元が微かに震えていたのを俺は見た。

 直後、俺の視界が急転した。

 ベッドの方へ投げ飛ばされる形になる。

 体全体を使って投げられた俺の視界は天井を下に床を上に捉えていた。要するにベッドの上、妙な体勢でひっくり返っていた。

「ハァ………………ハァ……………」

 肩で息をするアルヤを見た俺だが、その表情は下がったターバンに隠れて見えなかった(しかし紅潮させた頬は見えた)。

 シエルは何がなんだか分からない様子だった。

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