4.
都に着く頃には夕日が街並みを照らす頃合いだった。
食料や水類は若干残った。
宿屋で受付を済ませ、部屋へと進む。
俺はフラフラのシエルを支え、アイゼンは倒れた隻眼の少年を背負って部屋に入った。
内装は俺には見慣れた光景の、石や砂が基調の感じだった。
俺はシエルを、アイゼンは隻眼の少年をベッドにそれぞれ寝かしつけた。石の台に布団を敷いた簡素なものだ。こちらも見慣れた物である。
「それにしてもこいつは一体なんなんだ?」
アイゼンがもっともな問いを発した。
俺も唸る。
「う〜ん………………砂百足もあっさり撃退したしな」
俺はシエルに濡れたタオルを絞って額に当てた。
歪むその表情も僅かながら緩んだような気がした。
「とりあえず、今日はもう動けそうにないぞ」
俺は再びアイゼンの方を見やる。
「そうだな、大会登録は明日だな」
俺とアイゼンは備え付けのソファ――こちらは運び込まれた“若干”ふわふわの物――に寝ることになった。勿論ベッド――布団とはいえ、寝心地MAX――に眠るのは具合の悪いシエルと素性も知らない隻眼の少年だ。
「やっぱ寝心地悪いな」
深夜、紫の光が窓に差し込む。
俺は痛む首を回し、アイゼン、シエルをそれぞれ見やった。
金色短髪の青年はグースカ眠り、濃い紺色の髪の少女はスヤスヤと寝ている。今の彼女はどこか楽そうな様子だ。昼間の状態から抜け出せたのだろうか。
続いて隻眼の少年を見た。思わず体を硬直してしまう。ようするにビビった。
昼間の旅装のままだが、ベッドの上の布団で上半身を起こし、琥珀の瞳がこちらを見ていたのだ。相変わらずターバンは取ろうとしない。
「起こしちゃった?」
隻眼の少年はゆっくりと首を振る。
「いや、ボクの方が先に起きていた」
その声はまるで女の子のように、細く、儚かった。
ところで、と隻眼の少年は続けた。
「ボクをここまで運んだのは君たち?」
部屋を見回しながら問うその表情は変わらず無表情。
「そうだけど、なにか?」
「いや、ありがとうと言えればそれで」
やがて少年は体を起こし、ベッドから出た。
「何してるんだ?」
「何って、もう行く。世話になった。ありがとう」
少年は止まらなかった。ノブに手をかけた辺りで、反射的に俺は少年の手を覆うような形でノブを止めた。その手や指も女の子のように細かった。
「今日くらいはゆっくりしてけよ」
笑う俺の顔を見ても、少年の表情は動かなかった。
「そうだ、名前。俺、リアン・ディール。君は?」
僅かな沈黙、やがて少年はボソリと言った。
「ボクは、アルヤ。アルヤ・マークフェイ」
俺は寝ていたソファに座る。
やがて、少年はベッドに腰を落ち着けた。