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剣戟の幻想物語 3 栄光の舞台  作者: やきたらこ
三章~砂漠越えた先の戦場~
13/30

3.

 頼りない足取りのシエルを支えつつ俺は西方に向けて歩を進めていた。

 一つの砂丘をこえた時、俺たちはある異変に気付いた。


 一人の少年が倒れていたのだ。

「おい!!」

 必死の形相で走り寄るアイゼン。俺はシエルを支えながら近づいた。

 ぐったりしている少年は俺たちのような砂漠越えの服装をしていたが、ターバンの下の左目は包帯で見えなかった。ターバンの隙間から漏れる髪は自然萌える緑色だった。

「リアン! 熱中症か!?」

 見た感じ、そのような様子は無い。単純に気を失っているようだった。

 俺はゆっくりと首を横に振る。

 突如俺たちが立っている辺りに僅かな揺れが走った。



 その時、砂を切り裂き現れた異形の怪物を迎撃出来た者はいなかった。

――シャァァァァァァァァァァァ――

 奇怪な声を発したソイツは多くの節が有り、その節々の間に一対の足が何本も。

 勢い良く頭部を打ち付けてきたソイツの衝撃に顔を覆うしか俺たちは出来なかった。

 危なかった。少しでも位置がズレていたらそれこそ肉塊に変わっていただろう。

 そして俺はソイツの姿を捉えた。

砂百足ウルカウル?」

 体長は人間の数十倍。細身の体を支えるべくある足が不安定な砂地を踏みしめる。

 砂百足ウルカウルは大きくのけぞり、次の攻撃の体勢を作った。

「跳べ!!」

 俺は反射的に叫んだ。

 アイゼンは隻眼の少年を抱え、俺はシエルを支え、それぞれ左右に跳んだ。

 今度は俺たちの立っていた場所を正確な頭部突進攻撃が叩いた。

 俺はシエルを下がらせて抜剣。

(奴の弱点は六つの眼。だが、狙うのは至難の業)

 続く尻尾の薙ぎ払い攻撃を、しがみつくことで回避。


 アイゼンは少年を横たわらせて、抜剣。大盾を構えて重い一撃を受けた。

 当然ながらアイゼンは後方に飛ばされる。しかし、しっかりとした着地に成功し、転倒は防いだ。

「どうする?」

 俺は口の中で呟く。

 砂煙を撒き散らして大暴れする砂百足ウルカウルはどうしようもない。

 俺はゆっくりと頭部の方まで移動する。


 しかし、戦況は動いた。

 砂百足ウルカウルは突如、矛先をアイゼンから別に変えた。

 昆虫らしさの見える大きな顎を持つその頭部を向けた先には――

「シエル!!」

 俺は弱々しい挙動の少女に向かって、自然と叫んでいた。

 頼りない構えの少女に向かって、死神の鎌が迫る。

「クッソッ!!」

 俺は叫んだ。しかしそれで二つの鎌は止まらない。

「こんな…………ところで………………シエル!!」

 ただ叫ぶしか今の俺には出来なかった。

 血が滲むほど歯を噛み締めた。思わず目を伏せ、顔を背ける。目の前の出来事から目を逸らすかのように。


 しかし、いつまで経っても彼女の悲鳴は無かった。

 目を開けると、厳しい日差しが目を刺した。そして続く光景に驚きの色を隠せなかった。

 二つの死神の鎌はシエルの首筋寸前で止まっていた。

「な……にが!?」

 俺はすぐさま砂百足ウルカウルから跳び下り、シエルの元へ。

 シエルを押し倒し、砂丘の影に隠れた。

「それにしても一体?」

 砂丘の影から顔を出し、戦況を確認した。

 アイゼンが大盾と長刀を構え、戸惑っている。

 砂百足ウルカウルは先ほどと同じ様に硬直している。

 先ほどとは違う事、いや気づかなかった事。

 隻眼の少年が琥珀色のその右目を開き、砂百足ウルカウルを見つめていた。彼のその口は小さく動いていた。


 直後、砂百足ウルカウルは踵を返し、去っていった。

「ごほ、がは!」

 隻眼の少年は血を吐き出した。

「大丈夫か!?」

 アイゼンが走り寄る。

 口から少量の血を咳と共に吐き出した少年はやがて砂地に倒れ伏した。

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