2.
「あづい〜〜〜」
アイゼンがまたボヤく。
「仕方ないだろ!! 砂漠は暑いものなんだよ!!」
「あぁ〜〜〜あづい〜〜」
この殴るような暑さの中じゃ、ほっとくしかない。
シエルはどうかな?と彼女を見やるとフラフラした足取りだった。
「どうした?」
近寄り、歩調を合わせて顔を覗き込む。
ターバンの下のシエルの顔は青ざめていた。
「熱中症だな」
俺は崩れそうになる彼女を支え、アイゼンに素早く指示を飛ばした。
「アイゼン、地属性魔法術で屋根作れるか?」
アイゼンは俺のただならない様子を見て取ったのか、無言で頷いた。
「大いなる大地の恵み、今ここに我が身を守る盾とならん」
かざした両手の辺りに岩石が生成されていき、やがて巨大な石盾を作りだした。
「ふん!!」
両手を上に上げる。それと同調した動きを見せる石盾。やがてそれは小さな屋根のように、俺たちを日差しから守る。
俺は腕の中でぐったりするシエルを横たわらせた。
凄く体が熱かった。
俺はバッグの中から水筒を取り出し、シエルの頭に少量の水をかける。水の線は彼女の頬やこめかみを伝い流れ落ちる。
「飲めるか?」
シエルの頭を少し持ち上げ、水筒に口を付けさせる。彼女は少しづつ水を喉に通していった。
「しばらく休めば大丈夫だな」
シエルの様子も落ち着いた所で、今はすやすやと眠っている。
「熱中症か」
なんとなく呟いた。
アイゼンも俺の横に座り、噛みごたえのあるパンをかじる。
「思い出なんかありそうだな」
「嬉しくない思い出だがな」
俺やイリナもやられてたっけな。
「おかげで手慣れたものさ」
しばし、無言の時間が場を包んだ。
砂金のように黄色い砂が反射する太陽光が俺たちを蒸す。(太陽光はアイゼンが遮ってくれているので)主に下の方からの熱が暑い。
「生き物の気配が一切しねぇな」
パンを食べ終えたアイゼンが言った。
「砂漠は生物を拒絶するような場所だからな」
けど、と俺は続ける。
「いるにはいるんだ。滅多に出会わないだけでな」
「そうなのか?」
アイゼンも興味を示す。
「砂の下を潜る砂竜、残飯漁る牙魚とか、巨大なムカデのような虫とか」
「ろくな奴がいねぇな」
苦笑いしたアイゼン。どこか緩んだ表情があった。
「実際ろくな奴がいねぇさ」
俺は昔襲われた事のある魔獣を思い浮かべ、苦笑した。
視線を広大な砂原からシエルに戻すと、ゆっくりと起き上がろうとしていた。
「もう大丈夫なのか?」
俺は助け起こし、問うた。
「うん、心配かけてごめんね」
体調は万全じゃなさそうだが、とどまり続けるワケにはいかない。
広げていた荷物を片付け、俺たちは歩き出した。