Prologue
第三部始まりました!!
第二部では別の少年が主人公張ってましたが今作の主人公はあの黒髪の少年です。彼の冒険の軌跡を感じてください。
帝国領内の西側。共和国との国境にほど近い陰唐という街の来来亭の一室。
朱が基調の室内のベッドに俺――リアン・ディールは寝転がっていた。
突如した甘い香りが俺の鼻をくすぐる。
「じゃ〜ん。今日はフールのパイを作ってみたのでした〜」
ドアが勢い良く開かれた。立っていたのは芳ばしい香りを放つパイを持った一人の少女。
濃い紺色の髪を肩の辺りまで垂らし、薄手の青いシャツを着、茶色の短い短パンでは太ももを隠せず大胆に露出している。その十六歳の少女の名はシエル・ラーグナー。いつもはお茶目な彼女だが、咄嗟の時の対応は目を見張る物がある。
(そして俺の想い人である。これ言うの、ちょっと恥ずかしいけどな)
すなわち恋人である。
「ねぇ聞いてるの?」
できたてのパイを右手に持ち左手は腰に据えられ、俺を咎めるポーズをとった。
「あ、あぁ聞いてるって」
俺は答え起き上がり、作ってもらったパイを一切れ受け取って口に運ぶ。
咀嚼するとシャキシャキとした食感が口の中に広がり、果実の甘い味が俺の味覚を刺激した。
「うん。すっごく美味しいよ」
素直な感想を一つ。
聞いたシエルはホッとした様子でパイを机に置き、俺の隣に腰掛けた。
「厨房貸してって言ったら快く貸してくれたんだよ」
「そっか。よかったじゃないか」
会話を続ける間もパイを口に運ぶ手は止まらない。
あっという間にパイは無くなってしまった。
「俺が置いてくるよ」
俺は立ち上がり、食器を持った。
「ありがと」
またもドアは大きく開け放たれた。
「おい、リアン!! 聞け!!」
ドアを勢い良く開き、更に大声で叫んだ男の名はアイゼン・グリッダ。ガタイが良い為、緑の大きめのポロシャツを着こみ、灰色の半ズボンだが外出時は鋼鉄の鎧に身を包む鎧騎士だ。金髪の綺麗な髪は短く乱れている。
「え〜と、なんですか?」
「もうすぐ共和国の首都で武術大会が始まるぞ!!」
と興奮した様子でアイゼンは告げた。対して俺の解答。
「なに!? 武術大会だと!? …………で、なんの?」
ガクッと肩を落としたアイゼンは丁寧に説明してくれた。
「なんでもありの無法ルールの大会だ。唯一の禁止項目は人を殺すこと。おもしろそうだろ? これは行かないワケには行かないよな!!」
鼻息荒く迫るアイゼンをなだめ、シエルの意見を伺う。
「あたしは別に構わないよ。倭国には大会が終わってからでも行けるからね」
「よし来た。次の目的地は共和国領、ロゼルだ!! 明日の早朝から出発するぞ!!」
次の冒険の目的地がロゼルに決まった。アイゼンは妙にウキウキし、とっととベッドにもぐりこんでしまった。
俺とシエルは互いに見合わせて肩をすくめ、寝る支度を進めた。