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Singalio Rou' Sel' seus-Holiznier naz Crysetalanom  作者: 篠崎彩人
第一晶「花一匁」

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Sixth Crystalline: Garden of Narcissuses

 有るか無しかの血祭りの事は置いておくとして今は目の前にいざ存在の役目を果たさんと待機する無数の水仙の収穫祭に興じるとしよう、と私は考えた。一人で収穫を騒ぎ立てするというのもおかしな話だがそもそも一人が獲得し持ち運び得る量なんて高が知れていてそんな水仙の少量確保だけをしていたのではその行為を果たして収穫などと実り豊かなイメージと直結した言葉で表してよいものかはなはだ疑問であるし、それにわざわざ愛称を付けてまで親しんでいる場所でそれなりに気持ち晴れやかに赤子であると同時に私を縛る権力を行使する悪妻でもある花との窮屈な万年倦怠期夫婦生活の憂さを忘れて過ごす事が出来るのだ、ただ作業的に水仙を二、三頂いてそのまま帰ったと言うのでは寂しく不自然と言うもの、ここは時間が許す限りに水仙確保だけではなくこの水仙の花畑で感じ取れる様々の潤いをも目的としてその可憐な姿を愛で、またその恵みを祝い享受する祭事の企画立案、実施運営の事務を一手に引き受け、たとえこれより成す事が不要水仙除去のなんでも無い庭掃除だったとしても自然美を封じ込めた庭園造りの重要な下準備とまで呼んでしまう大仰さでこの数多有る日常行為の一環としての水仙採集を収穫、数多くの農作物に死の影が降りる季節において消えていく生命の輝きが春の新芽の時と遜色無く再度力強さを示し、我々はそんな彼らが体の一部として生き続ける有難みに揺るぎ無い感謝を覚える事になるその罪深くも神聖な行為として記憶の奥底に仕舞い込む事にするべきであろう。こうして、私が初めてこの場所に来てから毎回開催されている水仙の収穫祭はこの時も事を始める運びとなった、さすがに首を折り曲げられていたのでは祝いの空間には相応しくないのでいつもより開催期間が短くなってしまったのは仕方の無い事だ。

 企画立案、それは脳、実施運営、それは体の役目と言えばいいだろうか、後は二者を繋ぐ神経を配置すれば一人の祭りは完成することになる。脳が発想する事は全く幅広く留まる所を知らないがそれが楽しさに関連する事でありさえすればたとえ自分と言う一人の客人しか相手が居ないとなっても祭りの種として機能する。遊ぶ事を嫌いな人間なんて居ないし遊びの経験が無い人間も居ないだろう、だが他人と遊ぶとなるとそれを苦手とする人は多いかも知れない、おそらく私もそうだ、おそらくというのはもはや全うに人と過ごす人だった時の記憶はここでは発狂因子、もしくは自分だけを見ていて欲しい彼女にとっての嫉妬材料だとしてほぼ全て悪妻に取り上げられてしまったらしいからだが、だからこそ、こうして一人で楽しむ事がそれ程下手ではないのだと思う、そしてそれはきっと、もし動く事喋る事が適わないのにも関わらず私達人間の様に意志する力が備わっていたならまさに悲劇としか言い様が無い花と似ているという事だ(人間にも運悪く動く事喋る事の出来ない者は出て来てしまうがだからと言って種全部がそうなってしまったらもはやその種は人とは呼べない、ただの考える草木である)。似た者同士カップリングされてしまったと言うのが情けないながらこの生き地獄の真相に含まれている筈だ、私が何らかの失敗をして花との関係を拗らせ命の支えを失い最後に空でも眺めてから死のうとした時、実は唯の空を映す為のスクリーンでしかなかった青一面にこちらの断末魔を上げる気力さえ奪うであろうその事実がご丁寧に表示されるかも知れない。私が思うのは、私に預けられた花は実はそんな哀れむべきか驚くべきかの存在として覚醒してまっていて、当然どうしても話し相手遊び相手が欲しくなってこんな花と人だけの世界を求めそれをどうにか実現させたのにも関わらずまだ花としての慎ましさが捨てられないのだろうと言う事だが問題点は大きい、それはつまり、何故か赤の他人の子供を世話させられている点だ、私にとってあの花は微塵も可愛くないのだ。だが、少なくともそんな可愛くない赤子の口に色無き乳を含ませるべくしてここに居る父としての私はそんな花を解さぬ味気無い人間ではなくなる、ただ単に花好きの自分と言うのを設定されたのでは薄気味悪いので弁明させて頂くとこの水仙が女性の裸身位強烈で本能的な惹き付ける物を持っているからでやはり花が可愛いとする心なんて似合わな過ぎて笑えてしまうのだが、ともあれ花に近しい属性を持っていたらしい自分が水仙と戯れる事が出来る、心から笑顔を作る為の感情の湧き水を掬い上げる事が出来る。

 私は先の花に対する妄想をそのまま自分に当てはめて考えてしまう事がある、私自身、他人と楽しむ事が下手でそれでも話し相手遊び相手が欲しかった哀れで不器用な人間の一人だったのかも知れない、その状況を抜け出るべくしてこんな異様な静寂の悪夢を生んでしまったのかも知れないという風に。居た場所も悪夢、そこから抜け出てもまた悪夢の続き、だとしたら、と水仙の花畑におけるほんの隅の方に眼をやる、つまり体ごと移動して辛うじて水仙の根元が見える位置まで行く。この光る水仙が私の夢の結晶なのか、このずっと見ていたいと思える神秘の花々が。だが、それは違うと本当には分かっている、何故なら、この花々は真に夢、しっかり現実と言う地平に根ざしているとは言い難い、もう、間違いなく死んでいる終わった花々なのだから。

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