Third Crystalline: Creeping Death
私の瞳の白は今曇り空と言うべきであって決して純白の穢れ無き羊毛だとか牛乳だとかに例える長閑さは有り得ない、それが証拠に今私の瞳には小一時間焼き付けた太陽がまだ生きているのだ、外周の白とは金輪際交わる事無くドロドロと黒い危機管理への貪欲なる映像情報捕食者は先程食そうとして余りの力強き輝きに敗北したその太陽への憧れを気高げに保持している、私としては早い所その幻想の光源を常時真正面に見据えて行動する事から来る懊悩の一切から開放されてしまいのだが割り切れない話だ、勝機零の戦いでその零らしき数の四捨五入を神経系統の限界が来るまで続けてしまった愚者への教育的拷問とでも行った所なのだろうか。光のドレスに身を包んだ天空の君、彼女こそが先程私が守ろうとしたらしい影の君の本体である事を悟って自分の身に宿した幻想以外にもっと視るべき物が有るという意気に瞳が打ち震え勝手に小水を撒き散らかすその時まで、私は私で次に成すべき事、水の獲得、その命に関わる重大な使命に思いを馳せる事にした。
水は、花が生きていく上で欠かせない物だ、そして花は私にとって生命を維持する上で無くてはならない存在だ。私はこの結論を得るまでに色々と運命に逆らう為の反抗策を練り、そして試した。だがその中で一つとして試して良かったと思える様な実りが付随していたものは無かった。
或る時には、花にしばらく水をやらなかった、すると花は次第に弱っていった。その姿を見るとなぜか胸が締め付けられる思いがしたが私は花に対する理解など花と談笑している蜂の隣で人肌を犯している蚊程にしか持っていないのにどういう理屈でそんな気分になるのか全く分からなかった。更にその何もしないと言う行動を取り続けていると、花が地面を見始めた、弱り行く茎が段々花の重みに負け始めて来たと言う事だ。いい気味だ、そのまま弱り続けて遂には地面との最初で最後の口づけでも果たすがいいと内心せせら笑っていたが心の奥底では可哀想、助けてあげたいと言う声が機械的に響いていた、この時私は自分の心が制御出来なくなっているこの上なく理不尽で不便な現状を把握したがこの花さえこの世を去ってしまえばそんな心配もどこかへ流れ去っていってしまうだろうと考えていた。
花が見えなくなった。見えるのは地面ばかりで空さえその視界から消え失せた。花同様、私も弱り首が上がらなくなっていたのだ。だが私はそうと素直に認めるまでに時間が掛かり、花との根競べだとしてそのまま丸一日過ごしていて精神を病み、そして嘔吐を繰り返した。この花と私、と言う可愛いタイトルの付いた壊れた世界に入り込んでから何を口にした記憶も無いのに私の口からは土色の確かな吐瀉物が「転げ出た」。それは確かに別の何らかだったのだがその時気の動転していた私にはそれが正確な所なんであるかを識別する事は出来ずただただ今までに食べた経験の有る食品の成れの果てのイメージを投影した物をそこに見ていた。その何らかの物体達は、しばらくして自分から己の正体を名乗り出た、その私の口から転げ出て来た土色達は一様に芽を出し始めて居た、これらは、種だったのだ。種、新たな生命の誕生を予見させる物、そしてその傍でそれを発生させる苦しげな人間、そこに私が這い寄って来る死の影を見出さない訳は無かった。




