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背景、お手紙書きました

作者: 猫海月

このあらすじとタイトルで見る人がいるとは…


あ、本作作品は森見登美彦さんの恋文の技術に大変影響されております

知らない人は買って読んでみよう、面白いですよ!

こういう書き方を何形式というのかわかりませぬ

 ある朝、父さんから怪奇文が届いた。いつも通りゴミ箱に入れようと思ったのだけれど、便箋に赤文字で『部屋の秘宝はわが手中にアリ』と書かれたら読まざるを得ない。

 仕方ないのでアパート共同の原付に腰かけて読むことにする。地震が来たら一瞬で倒壊しそうなボロアパートだけれど、家賃の安さと常にキーが差しっばの原付がある事だけは評価したい。


『お前が家を出て早3年が経った。どうせすぐに帰って来るだろうというこちらの思惑を見事に無視し続けてもう3年だ、どうだ?帰りたくなったか?

 母さんは今か今かとお前の帰る時を待っている。おかげで我が家は毎日パーティだ。いくらお父さんが薄給だとしても、一人息子が帰る時くらいは暖かく迎え入れてやろうという親心に基いたパーティだ。もう一度言う、お父さんは薄給なのに毎日お帰りなさいパーティをしているんだ。一人立ちし、いつの間にか職に就いているお前ならこの意味が解るだろう?コレ以上仕送りで父のプライドを壊さないでくれ。

 ところで父さんのへそくりが減って行っているのだが、お前は何か知らないか?母さんに場所がばれているのかもしれない。身に覚えのない収入があったらすぐに申し出る事。それは父さんと母さんとの間で巻き起こった戦いの歴史かもしれない。

 すまない、謝るからココで読むのを止める事はしないでくれ。お前は父さんに似て少しせっかちに育ってしまい、父さんはとても哀しい。いいか、生涯の伴侶はせっかちで決めるんじゃないぞ。人生の先輩からのありがたいお言葉だ。だがせっかちに生きた結果、お前に会えたのだからせっかちも悪くないのかもしれない。

 さて、再三として手紙を送っているのにお前からは返事の一つも来ない。本当に読んでくれているのか?実はゴミ箱に捨てたりしているのではないのか?

 余りに腹が立ったので、お前に嫁を送ることにした。母さんに負けた父さんが涙をこらえて山へと向かった時に拾った娘だ。多少見た目に違いはあるが、なぁに男は度胸だ。コレでお前は父さんに返事を書かざるを得なくなる。お前から返事が来ると母さんが安心してお帰りなさいパーティの周期が長くなる。周期が長くなると父さんのおこづかいが増える。

 どうだ、名案だろう?

 ちなみに名前はルフゥと名付けた。だが呼びにくいから語尾のゥは外してルフと呼ぶといい。父さんのセンスに涙すべし。

 我が息子が奥手な可能性を考えて、性知識だけは一通り学ばせておいた。存分にアバンチュール漂う生活を送ってくれ。きちんとノーマルからアブノーマルまで幅広い知識は入れてある。ただし、いくら若いとはいえ避妊はしっかりするんだぞ。

 こうするとお前はエロ親父だと罵るかもしれない。だが安心してくれ、実践はしていない。実践はしていないが、母さんに知られると父さんの立場がナイアガラの如く急降下するので母さんには内緒にしてほしい。代わりにお前の部屋で見つけた桃色書籍はこちらで処分しておく。それにしても、お前はいいセンスをしているね。発見した時、思わず食い入るように見てしまった。そんなところまで父さんに似ていて少し嬉しく思う。だが母さんには知られない方がいいと思うぞ。

 いいな?これは男同士の約束だ。

 父さんとお前は一蓮托生だよ。


親愛なる我が息子へ

偉大なる父より』


 元より何を言いたいのかわからない人だけれど、家を出てからさらに悪化した気がする。中盤辺りは特に意味不明だ。

 嫁が何とか…。何故嫁なのか?ついにボケが進行してきたのだろうか。

 とりあえず我が子のセンチメンタル溢れる部屋を探索し、好奇心で買ったはいいけど余りの内容に処分に困った桃色書籍を発掘するのはやめてほしい。父さんの性癖なんて知りたくなかった。

 しかし困った、このままでは母さんに誤った性癖がばらされる。一度沁み込んだ知識を訂正するのは多大な労力が必要なわけで非常にめんどくさい。ただ、そうなったらこちらは父さんの悪行を包み隠さず話す事になるわけで、つまるところ誰もが深い哀しみを背負うだけで誰一人得をしない。世界が平和であり続けるためにも、どうにかして桃色書籍は処分しなくてはならない。

 如何にして実家に帰る事無く物事を収束させるか考えながらボロアパートの階段を昇り、自分の部屋のドアを開けと明るい光が外に漏れてきた。

 アレ…電気付けたまま出かけたっけ。

 首をかしげながら居間へと向かうと、見慣れない物体があった。

 こちらに三つ指を付いて深々とお辞儀をしているその物体は、健康的な肌色に茶色の髪。そしてその髪から生えているもさもさした三角の耳とお尻から生えているであろうふさふさの尻尾。時折生きているかのようにピクピク動くそれは、作り物じゃない事を如実に表わしている。大変嫌な予感がするのと共に父さんの手紙を思い出す。

 そして何よりも認めたくない事に不思議物体Aの背中が見えている。そこにはあるべき服が無く見えそうで見えない様な胸のふくらみがかろうじて確認できる。

 つまるところ、これは全国の男子の憧れらしい裸エプロンという奴ではないのだろうか。

 私が混乱して硬直している間、物音を敏感に感じ取ったのか犬耳(仮定)がピクっと動いて不思議物体がこちらを向き、不思議物体が女の人という単語に変換される。それに伴って実はよくできたお人形でしたという説が崩れ、脳裏で警報が鳴り始める。

 エメラルドの様な緑色の目と見つめ合う事数秒、彼女は何かを思い出したかのように「あっ…」と小さくつぶやいた。


「あ、あのっ!不束者ですがよろしくお願いいたします。ルフと申します」

「はぁ…」


 私が何とかそれだけ絞り出すと、ルフと名乗った裸エプロンの女の人は指をもじもじとさせ始める。その後ろでは尻尾が焦った様にパタパタと振られていて、何となく目で追ってみる。

 しかし、そなたはどなた?


「そ、その…お風呂になさいますか?ご飯になさいますか?それとも…わ…わ、わたし?」

「ああ…」


 なるほど、合点が行った。父さんの手紙とはこういう事だったのか。私が笑顔になると、彼女も釣られる様にして笑顔になった。けれどもすぐに恥ずかしそうに目を伏せる。

 とりあえず笑顔を保ちながら携帯を取り出すと一歩後退。ぎぃ…とボロ床が抗議するように鳴く。そんな抗議を無視して全速力で部屋から脱出すると、110番に掛けた。

 後ろでは慌てた様に床がぎぃぎぃ鳴る蹴る音が追ってくる。

 もしも世界に神が居るのなら、どうか逃がさせてください。神社掃除でも参拝でもなんでもしますから。

 安アパートの階段を音高らかに駆け下りていると、後ろから何かが降ってきて携帯を奪っていった。その何かは音もなく着地すると、尻尾を振りながら満面の笑みでこちらを見上げている。 どうやら私の本気の逃亡は遊んでいるものと捉えられたらしい。

 …この世に神はいない。



□ □ □ □



『お手紙拝見した。元気そうで何よりである。

 おかげで母さんも安心してパーティを開く周期が長くなった。父さんの懐もやっと春が来そうだよ。

 お前は桃色書籍は何でもないというけれど、父さんにはわかってる。隠さなくてもいいんだ。父さんとお前とは一蓮托生だもんな。

 ルフの事、父さんは大変申し訳なく思っている。郷に入らずんば郷に従えという言葉の通り、お前の生活にも父さん達とは違うルールがあるだろう。そう思ってルフには家事を一切仕込まなかったのだが、まさか未調理の食材を見てすけべぇに走るとはさすがの父さんも予想外であった。そしてお前が未だに手を出していない事にも。

 ルフがお前以上に不器用だったという事を見抜けなかったとは…父さんもまだまだ、だね。お前の辛辣な言葉は父さんに対する愛情の裏返しだとわかっているよ。だからバリバリに敬語を使った手紙を書くのは止めてくれ、家族なんだからもっと砕けた口調でいいんだよ。

 何をみるにもすけべぇに結びつける知識を持ってしまったルフに、一切家事をさせないというお前の判断は正しいと思う。突然の嫁の襲来にも動じず対応する聡明な息子を持って父さんも鼻が高いぞ。ただ、さすがに食材プレイは衛生面で怖いものがあるからきちんとゴムを嵌める事。お前の両親からのありがたいお言葉だ。

 思えば母さんも様々な知識に対して興味津々であり、そして聡明であった。人生には刺激が必要だというけれど、父さんの性嗜好を巧みに調べ上げてピンポイントで攻めるのはやめてほしい。お前に兄弟姉妹が居ないのは、父さんの理性と薄給の賜物だ。だからもっと敬意を示してほしい。

 父さんの勝手な行動にお前がとても憤っていることは理解している。父さんも突然部屋に見知らぬ女性が居たら腰を抜かす。腰を抜かすついでに元凶に復讐を考えるかもしれない。

 一つお前に昔話をしてやろう。

 むかしむかし、あるところに自称旅人の若者が居りました。この情報化が進んでいく社会において若者は職に就くわけもなく、ふらふらと色々な所を回っていたのだ。お前には信じられないだろうが、確かにそういう若者が居たんだ。

 ある日の事、ついに水も食料も尽きて疲れ果てた若者は道の半ばで倒れ込んでしまいました。そのままではのたれ死ぬだけであった若者でしたが、目が覚めたら見知らぬ部屋に居たのです。

 そして不幸にも、見知らぬ部屋で目を覚ました若者は同じベッドに見知らぬ女性が眠っている事を発見したのです。若者は驚愕しました。ここ数日の記憶が無いからです。

 もしかして自分は知らない間に、名も知らぬ令嬢においたをしてしまったのではないか。蝶よ花よと育てられた令嬢に対して、良いではないか良いではないかと迫り、ついには事に及んでしまったのではないだろうか。妊娠、就職、結婚、貧乏、財政難による離婚、孤独死。その時の若者の脳裏にはこれらの単語が目まぐるしく駆け回ったと言います。

 そしてさらに不幸なことに若者はせっかちであり、紳士であった。罪を犯してしまったことは仕方ない、こうなれば自分が彼の令嬢を出来る限り幸せにしてみせようと。

 それらの事実が複雑に絡み合った結果、若者は名も知らぬ令嬢が起きるや否やプロポーズしたとさ。

 その後若者がどうなったかは昔聞かせたね。一介の貴族相手に繰り広げた父さんの貴重な武勇伝だ。あの頃は何もかもが若かった。けれどもそんな若気の至りをお前は目をキラキラさせながら聞いていたね。

 ところでこの話にはオチがある。

 実は若者は何もしていなく、名も知らぬ令嬢は道半ばで倒れていた若者をペット感覚で拾っただけだったのだ。若者が手を出してなく、事実無根であるということは結婚初夜に確認したのだから間違いない。ペット感覚は酔った勢いで漏らしたのを聞いた。父さんは違うと信じたいのだが、お前はどう思う?

 余りにも身分が違い過ぎる母さんに対して父さんは頑張った。一緒にプロレス百選を見てみたり、夜景に連れて行ったり、海にも山にも行った。おかげで虫よけスプレーの大切さやベッドの柔らかさの重要性にも気づいたよ。そして聡明かつ才能溢れる母さんはプロレス技を吸収し続け、無意識に寝技を掛ける事が出来るまでになった。天国と地獄が一度に味わえる寝技だ。早々受けれるものではない。代わりに父さんの関節はぼろぼろだが…。

 定年までまだ時間はあるというのに、関節は70代のソレと等しい数値を出しかねない。思えば何時だって失敗していた。俺はただ思い出を共有したかっただけなのに…。

 お前はこの話から何を学ぶべきか?

 人生には何があるかわからない、という事だよ。これまでにも色々あったが父さんと母さんの仲は良好で、結婚25年を迎えた今でもおはようおやすみいってきますお帰りなさいのちゅーをするほどだ。しかし母さんは何時までも若々しいね。何とか父さんの理性が持つことを祈ってくれ。歳の離れた弟や妹は持ちたくないだろう?

 お前も種族が違うだと化け物だのという我儘を言わず、大人しく結婚しなさい。そして早く父さんたちに初孫を見せておくれ。そうすれば母さんの意識が父さんとお前で2つに割れてたのが父さん、お前、初孫の3つになる。大丈夫、父さんは嫉妬しないよ。安心してくれ。

 そういえばもうすぐクリスマスだね。素敵な性夜になる事を応援しているよ。

 年末は帰ってくるのかい?


聡明な息子へ

今でも心は旅人、父より』


 父さんからの手紙を読み終えた後、私の手が震えて居たのは寒さからではないはずだ。あの親父、何一つとして解決策をよこしてこない。そして我が子に何て手紙を送るんだ。未だに新婚さながらの生活をしているとか非常にどうでもいい。これはただの惚気ではないのか。

 父さんは初孫が見たいという。ならばなぜ私に何の相談もなく人外の…それも嫁を送るのか。そしてなぜ炊事洗濯という結婚生活に置いて最も重視される場所を無視して性知識にのみ特化させたのか。明確な理由があるならぜひとも聞きたい。

 全く期待していなかったけれど、ここまで使えないとため息すらも出ない。

 まだ一日が始まったばかりだというのに、早くも疲れながら部屋を開けると、すやすやとのんきな寝息が聞こえてくる。ああ…このままどこかに逃げ出したい。

 何も知らない連中は気楽でいいな。



□ □ □ □



『急ぎ執筆している。すぐにお返事ください。

 疲れた身体を引きずって家に帰ったら母さんが居なくなっていた。どういう事だ?書き置きなどは見つからず、父さんに対する晩御飯すらない。しかも我が家の財政は母さんが握っている。この意味が解るか?

 思えば昨日、明日はイベント日等という意味深な発言をしながら『我が子に届けるお土産100選』という本を読んでいたが、もしかしてそっちに母さんが行ってないかい?もし行っている様ならすぐに戻る様に言い聞かせてくれ。このままでは父さんのエンゲル係数が急降下爆撃を仕掛けることになってしまう。もう一度言う、母さんが来ているならすぐに帰るように言ってくれ。

 またその時には父さんの食事事情の事は隠して「父さんが寂しがっているから帰ってあげて」との様な事で頼む。頼む、お前に人の心があるならば。


菩薩の如き息子へ

修行僧、父より』


 やはりというかなんというか、父さんから手紙が来ていた。動揺が隠せないらしく、ところどころ字が乱れている。何時も何を考えているのかわからないけれど、今だけは同情したい。

 アパート共用の原付から少し前までは安寧だったマイルームを見上げると、キャッキャッと生娘の様な盛り上がりを見せている。防音が施されていないボロアパートでは、思春期の女子高生の如き会話を包み隠さず伝えていて頭が痛い。

 話題が料理の話や掃除の仕方ならまだいい。しかしテンションが上がったのか、結婚初夜の話や私が生まれるに至る過程で如何に誘惑したまで話されると、いったいご近所さんに何て説明をすればいいんだ。

 がんばれ父さん…私も頑張るから。

 儚く散った流れ星を見つけて、思わず目尻の涙を拭った。



□ □ □ □



『父さんだ。そろそろそちらも安定した頃かと思って手紙を送る。

 まず最初に感謝を述べたい。あの時お前が父さんの元に来ていなかったら、今頃はミイラか仏になっていたものだと思う。

 父さんも来てくれたお前のために男の料理をお前に教えようと思っていた。しかし、お前が父さんの料理の遙か先を行く家庭の味を作れるとは驚いた。一人暮らしだというのに随分凝ったものが作れるんだね。

 母さんもまさかそんな事になるとは思わなかったようで、今ではとても健気に父の世話をしてくれる。お嬢様だけあって静かにしているととても綺麗だ。

 あの晩、男同士で語り合った事は父さんの胸に強く響いた。思えばお前が生まれて20数年、二人っきりで酒盛りをする機会はなかったね。息子と酒盛りをするという父さんの夢も叶い、お前の内なる本音も聞けて感無量だよ。思えばお前は昔からあまり主張をしない子だったね。

 幼き頃から父さんの立場がよろしくない事を知り、この人に「強請ってはいけない」という確固たる意志を息子に持たせてしまったことに対しては今更謝っても謝りきれない。父さんが何度母さんに頭を下げたか、お前は数えているかい?母さんの実家は血も涙もないところで、何処の馬の骨ともわからない父さんが苦しんでも何にも思わない連中ばかりだったよ。まだ同棲をしていない頃。父さんが薄給で日々の暮らしに悩んでいる時、決まって母さんが父さんを食事に誘ってくれたものだ。

 ふと思ったのだが、父さんは餌付けをされていたのではないだろうか?母さんのペット発言と言い、今回の騒動と言い、どうにも一家の大黒柱というより「あの人は私が居ないとダメなんだから」という様な愛玩動物扱いをされているのではないか?

 そう考えると、父さんが昇給した時に嬉しそうに撫でてくれたのも、据え膳が喰えずに散々お預けを貰っていたのにも合点がいく気がする。

 母さんはそんな人じゃないよな?息子よ、頼むから違うと言ってくれ。

 送るならせめて人にしてくれというお前の弁、確かに受け取った。それについては善処しよう。それに並行して互いの性癖の確認もし合った。やはりお前は父さんの息子だったね。

 だが息子よ、我が親愛なる息子よ。お前は何か勘違いをしていないか?

 確かにお前には感謝している。それは前に述べたとおりだ。

 だがそれとルフに関しては話が別だ。

 お前は父さんが数行前に書いた事も忘れるほどボケたのかと心配するかもしれない。だが待ってほしい、父さんは善処すると書いたはずだ。…書いたよな?

 確かに善処した、そして善処した結果、お前の嫁はルフ以外ありえないという決断を出した。この間なんと30分!父の威厳の為に言っておくが、寂しそうにこちらをチラチラ見る母さんの誘惑に負けたのではないぞ。

 父さんが命がけで拾った娘だ。父さんとルフの好意を無駄にしてはダメだ。

 大体何が不満なんだ?お前もいい歳をした若者で恋人も居ない。色々溜まる物があるだろう?もしや右手が恋人とでも言う気か?勘違いしてないと思うが、ゴミ箱は妊娠しないぞ。

 拾った父さんが言うのも何だが、ルフはなかなか美人ではないか。それにどんなプレイも受け入れてくれる。素晴らしい嫁ではないか。ちょっと犬耳と尻尾が生えているからと言って据え膳を喰わぬのは男の恥だぞ。そういう事は結婚初夜ですべき等というほど、父さんたちは時代錯誤ではない。安心して命の営みに励むといい。

 もしやお前、ホモではあるまいな?

 さすがに男は認められない。。人の性的思考はそれぞれだと思うが、男同士では子供が生まれない。その場合はルフを使うといい、父さんは男の良さは知らないけれど、女性の素晴らしさは知っている。

 父さんが父さんなったあの日、息子と酒盛りする事と息子の結婚式で涙する事、そして初孫を抱く事が父さんの夢だ。抱くと言っても性的な意味ではないぞ、あしからず。

 だからお前がホモだとしても子供は作るべきだ。親孝行しなさい。

 さすがにお前は呆れて読むのを止めるかもしれないが、息子よ。父さんに似て少し詰めが甘い息子よ。

 お前は忘れていないか?

 あの日、あの時、あの酒盛りで父さんが何の用意もしなかったとは思わなかったのか?

 まさか本当に息子にいい酒を飲ませるために準備したと、本当にそう思うのか?自慢じゃないが父さんは薄給だ。息子に飲ませるくらいなら自分で飲む。父さんの名誉のために言っておくが、出したのは確かにいい酒だ。用意したのは母さんだが。

 ならば父さんは何を準備していたか。お前はボイスレコーダーという便利な機械がある事を知っているかい?

 ここまで言えば聡明なお前は理解するだろう。お前の運命はわが手中にアリ。母さんやルフに甘酸っぱい初恋の話や、ちょっと人には言い辛い性癖の話等をばらされたくなければ諦めて人類の繁栄に尽力しろ。以前父さんは避妊はしろと言ったが、まさかここまで何も起きないとは思ってなかった。

 そういえば来週はクリスマスだな。素面だと辛いと思うので、一緒にシャンパンを送っておく。有効に活用するといい。だが下の口から飲むのだけはダメだ。父さんはおめでたの話が聞きたいのであって、急性アルコール中毒で入院した話は聞きたくない。下から入れるのはオタマジャクシにする様に。男らしく一発決めて来い。

 父さんもクリスマスという事で母さんを喜ばせるために色々計画中だ。年末に帰った時は互いに吉報を報告し合おう。

 母さんも初孫を見たがっているぞ。


もうすぐパパになる我が子へ

もうすぐジィジになる父より』


 珍しく父さんからシャンパンが届いたと思ったら、このような手紙が送られてきた。コレまでにも怒りの臨界点を突破しそうになったことは何度かあるが、その都度仕方のないことだと自分に言い聞かせて堪えてきた。しかし今度ばかりは堪忍袋の緒が切れた。まさか私の慈悲の心すらも利用するとは。

 どうやら越えてはならないラインを越えた様だ。情けなどいらない、もはやアレは父と思うな、万死に値する。


「ご、ご主人様、ご主人様…ど、どーしましたか?」


 怒りを堪えきれずに震えていると、ルフが心配そうに覗きこんできた。


「うん、ちょっと頼みたいことがあるんだけどいい?」

「え…は、はい!何でも申し付けてください!」

「ありがと」

「ふわぁ…ル、ルフは…んぅっ…な、なんでも…ひんっ…」

「よーしよしよし」


 ルフの頭を撫でると、途端に溶けた様な表情になった。若干口調が怪しいけれど、彼女に至っては平常運転だ。ルフは頭が弱い。これはどちらの意味でも。そして身体能力が人のそれとはかけ離れている。二、三階くらいなら音もなく跳び上がるし、走る速度も人のそれとは段違いだ。これらを一言で言うなら…化け物?

 1月ほどルフと生活を共にしてこれだけの事が分かった。

 逆に言うとこれしかわからない。そんな相手を伴侶にするのは宝くじを買う事と同義だろう。それならまだ宝くじの方が時間を無駄にしない事と夢が見れるだけ有意義だ。そういえば年末だし、買ってみようかな。

 どうやら私の会話はボイスレコーダーによって保管されているらしい。ならばこちらが取る対策は簡単だ。父さんと母さんにはとっておきのクリスマスプレゼントを用意してあげよう。


「さて…まずはそうだね…」


 ルフが解り易い様に図を書きながら、プレゼントの準備を始めた。

 そういえば、父さんはどこで拾ってきたんだろう。ほとぼりが冷めたら聞いてみるか。



□ □ □ □



 前夜祭ともいうクリスマスイヴ。仕事から帰ってきてポストを覗いたら、消印も切手も無い便箋が入っていた。宛名を見ると、父さんかららしい。

 はて、なぜ父さんが手紙を出せるんだろう?

 色々気になる事はあったけど、とりあえずアパート共同の原付に腰かけて読むことにしよう。


『まず最初に謝罪したい。済まなかった。もちろん、今更謝ったところで許されるとは思っていない。父さんはそんな甘い考えの男ではない。

 父さんはお前のことを何もわかっていなかったという事を、この1月で嫌というほど思い知らされた。まさかお前が…まぁ、今更何も言うまい。

 ただこれだけは言いたい。何故誰も父さんに教えてくれなかったのだ?父さんに遠慮し過ぎでは無いか?もっと早くに父さんが間違っている事を知らせてほしかった。そうすればこんな事態にはならなかったのに。

 そういえばお前は父さんの子だと思っていたが、お前は聡明で悪戯好きな母さんの子でもあったね。そんな簡単な事実にすら気づけなかったことが父さんの最初の誤りなのかもしれない。いや、気づけるほど視野が広かったら、父さんはお前の父さんじゃなかったかもしれないね。そう考えると、父さんはお前という強かで聡明な子を持って幸せだよ。

 まさかお前がこんなにも早くルフを手懐けるとは思わなかった。暴れるルフに色々覚えさせるのに父さんは3か月以上掛けたというのに、お前は1月も経たずに成し遂げるとは…。突然の嫁襲来にも動じず対処するお前の適応力の高さには我が子ながらあっぱれである。

 疲れた身体を引きずりながら帰ってきた父さんが、我が部屋の中でボイスレコーダーと桃色書籍を処分しているルフを見た時の行動はあえて書かない。恐らくお前も同じことをしたはずだ。物理的に破壊された携帯をどうすればいいのか、もし知っていたら教えてくれ。

 ところで、何故ルフに家事ではなく、音もなく忍び寄る方法や高いところに登る方法、ましてや鍵開け等の様なまるで忍者か盗賊が使う様な技術を教えたんだい?お前は一体何の仕事をしているのか、お前の怒りが静まったら父さんに教えてくれ。父さんが安心して夜眠る為にも頼む。

 前にも言ったが、父さんは昔旅人をしていた。今思うと何故そんな事を考えていたのかわからないが、父さんは英雄に憧れていたんだ。英雄と言えば勇者、勇者と言えば魔王の討伐だろう。お前は嘘だと笑うかもしれないけど、かつてそんな嘘みたいな若者が居たんだよ。

 けれどもいざ旅に出たはいいが、若者は困った。この情報化が進んでいく世界、魔王何て存在するのか。悩みに悩んだ結果、道行く先々で人助けをする事にしたんだ。

 今思うと理由が欲しかったのかもしれない。魔王が魔王である事に理由は要らないが、英雄が英雄足る為には理由が必要だからね。人助けや世界を救う等という大義名分が無ければ、英雄はただの虐殺者になってしまう。それを若者は恐れていたんだろう。

 ふらりふらりと旅をしながら、魔物に襲われている人を助けたり、毎年出さねばならぬ生贄に苦しんでいる村を救ったりしながら若者は旅を続けた。魔王という。存在しているのかしていないのかも分からないものを探す旅だ。この旅がどれだけ過酷で無益なものか、聡明なお前にはわかると思う。生憎と若者は馬鹿でせっかちだったので気づくのに数年かかったよ。

 しかしその事実に気づいた瞬間、若者は旅を止めた。もはや居るのかもわからない存在を追い続けていた、そんな今までが全て無駄に思えて来てね。進むことも戻る事も出来なくなった若者はその場に留まり続け、ついには水も食料も尽きて倒れてしまった。

 そこで幸か不幸か、若者はずっと探し続けた存在に拾われたんだ。その事実に気づいた事はずっと後のことだけどね。

 念願の魔王に拾われたせっかちな若者は何をしたか、様々な要因が重なり合った挙句、仮想敵にしていた彼女に求婚した。後は言うまでもないね。人生何が起こるかわからない、だ。

 これも後から聞いた話だけれど、その時母さんは大変驚いたらしい。しかし父さんが本気である事を知って嬉しくもなったらしい。魔王もいろいろ大変なのかもしれない。

 何の前触れもなくお前が家を出ていった3年前。父さんは「ちょっとそこまで行ってくる」というお前の言葉を信じ続けていた。お前が居なくなって半年、もしやちょっとそこで倒れているのではないかと心配になり、休職して旅に出たこともあった。おかげで順調に昇給していたはずの給与明細は急降下爆撃を掛けるかのように右肩下がりになった。

 それから何処にいるのかもわからないお前を探して2年ほど、昔の様に父さんは旅をした。彷徨った森で魔物に襲われている人を助けたり、毎年出さねばならぬ生贄に苦しんでいる村を救ったり、まるで英雄の様な旅をした。しかし父さんは不特定多数の英雄より、お前や母さんの為の英雄になりたかったよ。でも、心のどこかでは旅を楽しんでいたのかもしれない。今度の旅はお前というきちんとした目的が居たからね。

 そう考えると、母さんは優しかった。お前がどこにいるのかを知りながらもあえて教えず、フラフラになりながら帰って来る父さんを優しく迎えてくれた。そして今回の旅の成果を嬉しそうな聞いてくれるんだ。

 しかし父さん的にはその優しさはもっと別な所で使ってほしかった。具体的には夫が我が子を探す旅に出る前とか。

 ルフはその旅の過程で見つけた娘だ。今では信じられないと思うが、始めて会った時はさすがの父さんも死を覚悟した。そんな事は後にも先にも、母さんとの夫婦喧嘩の時だけだ。

 幸か不幸か、父さんには無駄に対応力と行動力だけはあった。対応力とは流されながらも、被害を限りなく0に近づける事だと思っている。例えば川に落ちた時、流れに逆らうのでは疲れて溺れてしまう。ならば大人しく流されながらも次なる一手を打つことで陸への帰還を果たすのだ。しかし父さんには聡明さが足りなかったから、被害を0にする事は出来なかった。その結果が薄給であり、今回の事態だ。

 如何にして孫を見るかを企む父さんの野望を的確に跳ね返し、弱みを握ったと思ったらネタを握りつぶすどころか、そのネタでカウンターを決めるとは思わなかった。これは記憶力がよろしくない父さんにも、また少しでも酒が入るとふにゃふにゃになってしまう母さんにもできない事だ。酒盛りは楽しかったね。母さんはすぐふにゃふにゃにって可愛くなるのだけれど、眠ってしまうから父さんは少し寂しかった。その点お前は酒にも強く、記憶力もいい。まさしく二人の良いところを受け取ったかのような子だ。

 素晴らしい子を持って父さんも母さんも鼻が高い。

 それにしても、カウンターとして父さんが決死の思いで隠していた性癖を母さんにぶちまけるとは思わなかった。やはりお前は父さん似だと思っていたからこそ、酒が入ると記憶力があいまいになると踏んでいたのだが…父さんは詰めが甘い。

 母さんは喜んでいたか?最近はお前の嫁騒動でご無沙汰であったし、それはもう喜んでいただろう。お前はそうまでして弟か妹が欲しいのか。カウンターの事実を知った時、父さんは静かに涙を流したぞ。おかげでクリスマスに母さんを喜ばせる計画が全て吹きとんだ。

 全てを仕組んだお前に今更いう必要はないと思うが、父さんは今籠城の真っ最中だ。丸一日掛けて積み上げたバリケードも、後30分も経たずに撤去されてしまうだろう。母さんには優秀な執事や侍女が居るから、衰えた今の父さんがどれだけ抵抗できるかわからない。恐ろしいことに今でも母さんを慕う者たちは多く、彼の者たちから母さんを奪っていった父さんを嫌い、機会さえあればリベンジを目論むものも多い。父さんは生まれる時代を間違えたのかもしれない。全く、この世は実に世知辛いね。

 どの様な結果になるとしても、父さんは無事では済まないだろう。次に会う時はぶーぶーと拗ねる母さんと仏の様に悟りを開いた父さん。もしくは新しい家族の誕生にホクホクな母さんと自責の念に押しつぶされそうな父さんかのどちらかと思われる。どちらにしても、父さんは真っ白な灰になっている事請け合いだ。お前に人の心があるなら、出来る限り普段通りに接してほしい。

 今更足搔いてもどうしようもないので、その限られた時間をお前への手紙とプレゼントの準備に費やすことにする。どうかココで読むことを止めずに最後まで読んでほしい。さもなくば後悔するだろう。

 ところで、コレを呼んでいるという事は家の前に居るという事だね?うん、それだけ確認できればいい。なに、いずれ意味が解る。

 お前がどうしてルフに手を出さないのか、父さんはずっと悩んでいた。多少見た目が違う事と、かなり危険な身体能力を持っている事は認めるが、父さんと母さんの子であるお前なら問題は無いだろう。さらに年頃の若者として色々と溜まる事もあるだろうし、本人と親公認なのだからお前の鋼の様な意思が溶けるのは時間の問題だとも考えていた。

 せっかく奥手とアブノーマルな性癖の可能性を考えて性知識を与えたというのに、届くのはおめでたの続報ではなくお前の抗議の手紙だけであった。一時期はお前がホモなのではないかと疑ったが、済まなかった…訂正しよう。

 まさかお前が息子ではなく、娘であったとは…父さんは知らなかったんだ。一説によると、無知は罪であるという。今更許してくれとは言わない。だが済まなかった。

 一つ言い訳を許してもらえるなら、父さんは紳士であった。紳士であるが故、たとえわが子であっても許可なく局部を確認することはしまいとした。その結果が今日までに至る勘違いだ。

 考えて見ればお前は昔から主張をしない事だったね。キャッチボールやサッカー、野球なんかをしてもあまり楽しそうにせず、父さんは気難しい子だと頭を悩ませた時期もあったよ。暫くして父さんの立場を案じていたのかと思っていたけど、今なら理由がわかるよ。

 それでも文句一つ言わず、息子が出来たらやりたいことリストを掲げる父さんに付き合ってくれたことには感謝したい。

 思い返してみれば、父さんはお前の制服姿を見た記憶が無い。朝は父さんが起きるより早く目覚め、父さんが食事をしている間に家を出る。夜は父さんが帰るより早く家にいて着替えている。あるのはただ母さんの意味深な微笑みと、貴重な休日に付き合ってくれるお前の姿だけだ。

 一人勘違いしている父さんに気を使ってくれたのは大変ありがたかったが、間違いは正してほしかった。そうすれば息子が出来たらやりたいリストではなく、娘が出来たらやりたいリストを作成したのに。

 時にお前、男が居るんじゃなかろうな?

 父さんはお前が息子だと思っていたからこそ孫を渇望していたわけであり、娘であるなら話は別だ。もしも居るなら紹介しなさい、二度と日の目を浴びることのできない身体にしてやる。ましてや性夜なんて断じて許さんぞ。俺の娘に手を出す何処の馬の骨ともわからん野郎は皆くたばればいい。

 このままでは悔しいので、父さんからお前にプレゼントを送っておく。

 さっき適応力とは被害を限りなく0にする事だと言ったが、実はもう一つある。死なばもろとも、という奴だ。今夜は存分に足搔くといい。

 さて、こういう話がある。

 かつて魔王と勇者が対峙した時、魔王は勇者に敬意を表し「世界の半分をやるから仲間にならないか?」と提案したという。

 ある勇者はその提案を跳ね返して魔王を倒し、ある勇者は受け入れて共に暮らした。父さんは…言わなくても解るな。

 さて、お前はどうする?

 ついにバリケードが終わりに近づいた様なので、お前への手紙はここまでだ。

 いったいどれだけ足搔けるか…今夜は長い夜になりそうだ。

 ただ、これだけは忘れないでほしい。

 父さんとお前は一蓮托生だよ。


最愛の娘へ

父より』


 何だろう、コレ。

 父さんからの長い手紙を読み終えた後、言いようのない予感だけが付きまとい始めた。

 最初はただの懺悔の手紙かと思ったが、何だか違う気がする。今日はクリスマスイヴだというのに、あの人は何故我が子を不安に貶める様な手紙を出すんだろう。

 まぁいいか。せっかくのクリスマスなのだし、あまりのショックでボケたのかもわからない父さんの事は忘れて、何か美味しい物でも食べに行くことにしよう。

 今晩は何を食べようか考えながら、いつも以上にひっそりとしているボロアパートの階段を登り部屋まで向かう。

 おかしい…静かすぎる。


「ただいまー、大人しくしてた?」


 ドアを開けながら声を掛けたけど、しんとしていて返事が無い。いつもなら元気だけが取り柄の阿呆が飛び出して来るはずなのに、今日は違う様だ。

 おかしい…何かがおかしい。

 嫌な予感を感じながらも、電気が消えてるし、眠っているんだろうと自分を納得させる。

 真っ暗では何も見えないので手探りで電気を付け居間へと向かうと、部屋の中に不思議なものが見えた。

 ルフが居るであろう居間にはテーブルなどが全て端に寄せられていて、代わりに布団が1組敷いてあった。その布団に上には人が入ってるんじゃないかと思うほど膨らんでいる大きい白い袋。袋の前にはクリスマスカードが添えてあって、ソレがクリスマスに模した人為的なプレゼントだという事が解る。袋から尻尾が出てるし。


「あー…」


 非常に考えたくない可能性が脳裏を過ぎる。続いて先ほど読んだ父さんからの手紙。

 一先ず袋と尻尾は見なかったことにしてクリスマスカードを手にしてみる。袋の中身は私が近寄った事を敏感に感じ取ったのか、緊張したように小さく震える。哀しいことに、コレで中身が大変よくできた人形だったという説は否定された。


『ごしゅじんさまへ うるより』


 メリークリスマスと書かれたカードの裏では下手な字でそう書いてあった。哀しむべきことに、私の中で可能性が可能性ではなくなってしまった。

 出来うる限り音をたてないように一歩下がると、名実ともにボロい床が「ぎぃ…」と鳴って袋の震えが止まった。まるで得物の動きを見極めるかの様な動きに思わず天井を仰ぐ。

 コイツは証拠を隠滅させる時、何を教わってきたのか…。

 これ以上下がる事は出来ないと判断すると、勢いよく床を蹴って外へと飛び出す。後ろでは慌てた様に袋が破ける音がしてくる。

 ドアを閉めて鍵を掛けた後、咄嗟の判断で手すりから乗り出すと1階へと飛び降りる。着地と同時に物陰へと隠れた直後、私の部屋のドアが壊れる音がした。ルフが耳を澄ませて音を探っている気配がする。どうやら階段を使わなかった判断は当たった様だ。

 それにしても…修理費は誰が出してくれるんだろう。


「うー…?」


 いきなりの出費に頭を悩ませていたら、ルフが小さく呻く声がした。続いてトンっと地面に着地するような音。

 もしかして…ばれた?いや、音は出して無いからばれるはずが…。

 いっそう息を潜めていると、フンフンと何かを嗅ぐような気配がする。ものすごく嫌な予感がして、静かにその場を移動し始める。


「ご主人様の匂いは…んー…ココ!」


 嬉しそうに尻尾を振りながら、先ほどまで私が居たところをルフが覗きこむ。けれども私が居ない事が不思議なのか、また悩み始める。

 まさか匂いで追われるとは思わなかった。父さんは一体何を拾ってきたのか。そして証拠を隠滅する際にルフは何を教わったのか。

 サンタ服に首輪を着けたルフの姿に思わず頭を抱えたくなる。

 このまま隠れ続けてもいずれ見つかるのは時間の問題だ。私は化け物と素手で戦うほど馬鹿じゃないし、このまま大人しく捕まるほど諦めがよくもない。

 だとすればする事は一つ。

 ゆっくりと細心の注意を払いながらアパートの裏へと回り、共有原付まで辿り着く。すぐさま飛び乗ってエンジンを掛けた瞬間、表の方から何かがこちらへ向かって来る。


「あー見つけたー!」


 後ろからルフの嬉しそうな声がするのを振り切る様にフルスロットルでアパートから飛び出すと、後ろは見ないで夜道を走り出した。幸か不幸か、クリスマスの道は混んでいない。


「私…なにしてるんだろう」


 遊んでると思われてるのか、付かず離れずの距離を保たれている事を感じながら一人呟く。気づけばチラチラと雪が降ってきている。

 今夜は長くなりそうだ…。

あとがきなら物好きくらいしか読まないですね!


このお話は連載が書けねーと悩んだ作者が「気分転換したい!何も考えないで済む短編書く!」とのたまって作られました

ちなみに5日でできました

新作は3カ月以上かかるのに…解せぬ


当初、作者はどうにかして主人公の気を引きたいえちぃヒロインが出るお話を予定していました

なので最初の設定では主人公は男の子ですし、ヒロインであるルフはきちんとキャラ付けがされてました

全て無駄になったけどな!

しかし、そこで悲劇が起きます

書き出しが浮かばなかったのです

仕方ないので手紙スタートにすることにしました

書き出しに悩んだら手紙、もはや最終手段です


そして書けたのが一区切り目

ここで次の悲劇が置きます

書き出しが浮かばなかったのです

仕方ないので二区切り目も手紙スタートにしました

手紙も書き終え、さぁ本編を始めようといったところで最後の悲劇が起きます

手紙を書いたら作者が満足しました


この旨をお友達に話し、原案を提出したところこのまま「手紙だけでやり取りしたら面白いかも」というお言葉をいただいたので路線を変更

前書きにも書いてある通り、森美登美彦さんが書いた本にそんなの合ったなーとうろ覚えのままつづけた次第であります

恋文の技術の方は完全に手紙のやり取りだけですが、私の方は主人公の動きがあるのでまるで違いますが


後はオチがでねぇオチがでねぇと言いながら何とかしてオチをひねり出し、途中で主人公の性別を変えた方がいいんじゃない?という意味不明の閃きをし、さらに勇者と魔王が好きな作者好みに味付けをした結果こうなったとさ


他作品も読んでくれた人ならわかるかもしれませんが、この話はえちぃネタを自重してません

どうせ短編だし、まぁいいんじゃないかな?という安易な考えです

初のR15だよ!R15なのかはわからないですけどね!


さてさて、今現在4時間これと向き合ってます

正直頭が痛いです

ここ最近の平均執筆時間が1時間を切りそうな人にとって4時間は長いですね

久しぶりに書いた気がします


ではではこんな長いだけで内容のないところまで読んでいただいた方に感謝を

少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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