第12話 ハンター=アルファ
【自然都市テトラルシティ テトラル保安連隊本部】
飛空艇によって救助された私たちはテトラルシティ警備軍の保安連隊本部に来た。保安連隊本部は政府軍の活動拠点として使われていた。
テトラルシティ内にいくつもある保安連隊支部は政府軍の小基地となっている。保護された市民はその支部の方に運ばれているらしい。
でも、そこも安全というワケじゃない。財閥連合の軍勢はそういった支部を狙って軍を移動させているから次々と落とされている。市内も危険だけど支部もそう変わらないかも。
[政府は5月上旬に大量発生した“魔物”について、正式に特殊軍を派遣し、討伐に乗り出しました。街の封鎖は現在も続いており、依然として解除の見込みはないとの事を発表しました]
財閥連合によって街が封鎖されたのが5月3日。市内戦争勃発が5月8日(私とアリナスが行動を開始した日)。政府軍が財閥連合の封鎖部隊を包囲するように大規模な隔離作戦を実行したのが5月5日だった。
「政府軍は30万人の兵士を使って山で包囲をしているらしい。財閥連合が他の地域に行かないようにする為だとよ」
テトラルシティは大きな都市。周辺は広大な山に囲まれている。北に行けば氷覇山。つまり、財閥連合の支部要塞がある。
財閥連合が平地である街の外周で封鎖したのに対し、政府軍はその更に後ろ、山地で封鎖を行った。これで地上から他の地域に行くのは不可。また上空からも不可。撃ち落されるだろう。
「市民の死者数は?」
「以前として増加しています。現在、10万人が死亡したと推測されています」
確かテトラルシティの市民の数は30万人。3人に1人が死んだ計算になる。数日でそんなも死んでしまうなんて……。
これまでに投入された財閥連合の戦力は、バトル=アルファが30万体。傭兵が5万人。正規部隊(傭兵部隊とは違う部隊で、軍事訓練を受けているらしい)が1万人。合計で36万にもなる。
一方、テトラル保安連隊と国際政府特殊軍は全軍を合わせて20万人だった。(封鎖部隊も市内に投入すればいいのに)
「フィルド、ちょっといいか?」
「え? あ、はい」
政府特殊軍の上級の将校に呼ばれ、私は彼について行く。ついて行った先は会議室だった。そこには数人の上級将校がいて、白いスクリーンと映写機が置いてあった。彼らは将官レベルの将校かも……。一体何の用だろうか?
「少し見て欲しいものがある」
そう言うと彼は部屋の電気を消し、パソコンを操作して、何かを映し出した。それは13日前のあの日、戦争が勃発したあの日の夜とよく似た映像、私の目に焼き付けられた光景だった。
雲と煙で覆われた暗い空の下、燃える市街地を逃げ回る市民。そんな人々を射殺していくのはバトル=アルファ。無数の銃弾が襲い、人々は背中から血を噴き、倒れていく。
泣き叫びながら逃げる女性や子供。勇気を振り絞って戦おうとする男性。彼らを守るのはテトラル保安連隊の兵士達。そして、送り込まれた政府特殊軍の兵士達だった。
[破壊セヨ!]
「助けッ! ぐぁぁッ!!」
「財閥連合関係者はその場で即攻撃せよ! 殺しても構わん!!」
「かかれ! バトル=アルファ軍は違法な軍隊だ!!」
[攻撃セヨ!]
政府特殊軍の兵士と保安連隊の兵士達が一斉に飛び込んでいく。両手でアサルトライフルを持ち、射撃していく。大量の弾丸が飛び交い、お互いの体を撃ち抜いていく。血が吹き飛び、命が散っていく。
これがテトラルシティの「今」。撮影された日は5月16日になっているケド、今この瞬間もこんな戦いが繰り広げられている。
「で? これがどうしたんですか?」
「この後を見て欲しいんだ」
「…………?」
私は内心、首をかしげながらも映像の方に目を戻す。もうこの光景ならあの夜だけで見慣れている。出来たらもう見たくないのだが……。
映像を見ていると、途中に大きな人型のモノが映った。バトル=アルファや人間よりも背の高い大きな男。アレは確か……そんな、アレは死んだハズの生物兵器!
「グォォォ――!」
「で、出たぞ! “ハンター=アルファ”だ!!」
「やれ、撃てぇッ!」
バトル=アルファの軍勢の後方から現れたソレは間違いなく私達を追ってきたあの生物兵器だ! “ハンター=アルファ”っていうのか?
「ぐぇぁッ!」
「ギャァァァッ!」
「ぐぉッ!」
ハンター=アルファがコッチに向かって走って来る。映像が乱れる。最後に映ったのはハンター=アルファが拳を振り下ろす瞬間。そこで映像は途切れ、何かを殴り壊す音と共に音声も途切れた。
「聞きたいことは1つだ。……君とクォット将軍が氷覇支部に行ったとき、何かあの怪物に関する手掛かりは得られなかったか?」
「て、手掛かりですか? ……申し訳ありません、特にございません」
氷覇支部では逃げるだけで精いっぱいだった。財閥連合社の黒いウワサの真偽を確かめる時間なんて全くなかった。……その黒いウワサは本当になってしまった。
「そうか……。…………。……ハンター=アルファは財閥連合の“サイエンネット計画”といわれている」
その将校は言おうか言わないでおこうか少しだけ迷ってから話を始めた。……“サイエンネット計画”?
「あのっ、“サイエンネット計画”って?」
「……あくまでウワサだぞ? 実はな、生物兵器開発の最終目的は人間を“不老不死かつ無敵の存在”にする事なんだとさ。人間をベースにした生物兵器開発はその実験の1つとも言われている……」
人間をベースにした生物兵器開発。不老不死かつ無敵の存在。実験の中、開発された生物兵器はその計画の……。
私はゾクリとしたものを感じながら、席を立つ。僅かに震える手でイスを戻すと会議室から一礼して出る。出た先の廊下で“サイエンネット計画”について考えていた。
そんな時だった。会議室からさっきの将校らの声が聞こえてきた。
「まぁ、やむ得ないでしょうな」
「これ以上の特殊軍の人間が殉職するのはマズイでしょう」
「今はテトラル地方全域を封鎖し、立ち入り禁止にしているが、その封鎖ラインに集まってくる他地方の一般市民が日に日に増えている」
「……“テトラル除去計画”も仕方ないな」
……テトラル除去計画?
◆サイエンネット計画
◇財閥連合社が裏で密かに進めているとされる計画。
◇ハンター=アルファはその計画の過程で生まれたらしい。




