第9話 人工知能オーロラ
【自然都市テトラルシティ 中部市内】
雨の降り注ぐ市内。至る所から炎が上がり、人々が逃げていく。その背中に銃が向けられ、人々は命を散らしていく。
逃げるのは非力な、つい数日前まで平和に暮らしていた何の罪もない一般市民。銃を向けるのは無情な機械の兵士バトル=アルファ。
[攻撃セヨ!]
「うわぁぁっ、助けてくれぇ」
[破壊セヨ!]
「いやぁっ、死にたくないよ!!」
バトル=アルファ達は非力な市民たちを狙い次々と殺していく。市民は血を流し、無理やり死なされる。人としての幸福を奪われる。
[攻撃セヨ!]
「やだぁ、撃たないでっ! 撃たないでっ!!」
[破壊セヨ!]
「い、命だけは、助けて下さいッ!」
心なき機械が心ある人間を殺す。生を奪うという事はバトル=アルファにはどうやっても分からせる事が出来ない。なぜなら彼らには生がないから――
[攻撃セヨ!]
「パパ、助けてッ!」
[破壊セヨ!]
「だ、誰か! あの子を、娘を助けてやってくれ! 殺されちまう!!」
私とアリナスは人々を救う為に公園から市内にまでやって来た。でも、そこは公園以上の地獄だった。道路は壊れた車や軍用車でいっぱいになり、その間を人とバトル=アルファが走る。
歩道にはたくさんの死体。市民の死体と傭兵の死体と警備軍兵士の死体が無数に横たわっていた。そして、壊れたバトル=アルファも。
「クソッ、ここまで酷いなんて」
「財閥連合は何がしたいんだろう……」
私とクォット将軍を捕まえる事が目的じゃなかったっけ? でも、その為になんで傭兵部隊を連れて来たんだろう? こうなる事を予測していなかったのか? それとも、何か裏があるのか?
……バトル=アルファより正確性や規律にかける傭兵部隊。数ならバトル=アルファ部隊だけでも十分すぎる。本当は何が目的だ?
「フィルド! ひとまず、警備軍の本部に行こう」
「そ、そうだね。何か分かるかも知れない」
星のなき赤い夜空に立ち上る白い煙の向こう。遠くにそびえる大きな建物。この都市の中心に位置する建物。テトラルシティの軍事・政治を行う建物。そこに行けば何か分かるかも知れない。
私とアリナスは走り出す。まずはこの戦場を突破しなきゃならい。バトル=アルファが徘徊し、炎の上がる市内。銃撃が至る所で行われている市内を突破しなきゃ!
◆◇◆
【氷覇支部】
——ハンター=アルファ[No.3]:交戦中
——ハンター=アルファ[No.8]:交戦中
——バトル=アルファ[DG-49部隊]:交戦中
各交戦中のバトル=アルファ部隊・生物兵器・敵軍のデータを集積する。全てのデータは、G3サーバー及びQ4サーバーに転送・保存する。
特に新しく開発・完成した生物兵器ハンター=アルファの戦闘データは最重要。“事後”における生物兵器開発に使用予定。“ハンター=ベータ”計画に使用するものである。
「全く……。勝手にこんな事して、この後どうするつもりだ?」
声音を確認。コマンドを認証。質問事項を確認。対応する。
[我が社の次期生物兵器開発のデータ収集です。全ては財閥連合の為]
「バカな! コマンド代表、こんな“人工知能オーロラ”、機能停止にしましょう!」
声音を確認。コモットを認証。
「止める? それこそバカな。味方で味方を潰してどうするのだ! こうなったらもう後には引けん。徹底的にやるしかないだろう」
……愚かな人間。このような事態になったら、お互いが最上の策を議論し合い、素早く対策を決めるべき。ワタクシには口出しできないが。
「で、この後はどうする?」
[はい。街を抹消シマス]
「ええい、この人工知能はなにをほざいているんだ!」
[落ち着いて下さい。そして、全てワタクシにお任せを。パトフォー閣下の許可もあります]
「む、むむっ……」
これまで威勢だけはよかったコモット代表代行。パトフォーの名前を出しただけで黙り込む。これは“使える”。SO-17サーバーにこのデータを保存する。
[これまでワタクシの指令に間違いはなかったハズ。どうかご安心を]
「た、確かにそうだが……」
……ワタクシが彼らに“助言”するようになって10年。ワタクシは一度の間違いも起こさなかった。人間が間違いを犯しても。
人間をベースにした生物兵器開発も、ワタクシの助言によるもの。ワタクシは学習する。全てを データ化し保存し、いかなる事柄にも対応する。
[どんな逆風も利用しましょう。逆風は追い風になります]
「では、全てお前に任せるぞ」
「この人工知能、大丈夫でしょうかな」
[全てお任せを]
戦争は意図的に誘発させた。財閥連合社の傭兵は多くが盗賊や傭兵。彼らが都市を占領すれば、どのような行動に出るかは歴史が答えを出している。だからこそ、ワタクシはテトラルシティに彼らを送った。
戦争を誘発させたのは、バトル=アルファ及びハンター=アルファの戦闘データを取る為。この2つがない事には、次の兵器が造り出せない。データはヒントである。
そして、政府軍の実力を測る為にも、戦争を引き起こした。これは低確率で起こるであろう、国際政府との“全面戦争”の為のデータ。戦争になればこのデータが役立つかも知れない。
全ては 財閥連合の為――。
それと、フィルド=ネストの詳細な身体データが欲しい。あのハンター=アルファを撃退した力。若くして女性でありながら政府特殊軍精鋭部隊になれたあの女のデータが欲しい。
あの女は、普通ではない……。
◆人工知能オーロラ
◇財閥連合社が保有する“自我を持つ人工知能”。
◇人工知能でありながら、財閥連合代表代行の地位にある(コモットと同じ地位)。
◇パトフォーとは協力関係にあるが、実際にはパトフォーさえも利用しようと考えている。
◇財閥連合の利益を第一に考える。