★★ また・・・。 : 児玉かすみ
ダメだ……、落ち込んでる。
帰ってからずっと、ぐずぐずと考えっぱなし。
雪見さん、ごめんなさい。
せっかく指輪を見に行ったのに、すぐに「帰る」なんて言ってしまって。
だって、不安になってしまったんだもの。
指輪を買ってしまったら、もう取り消せない気がして……。
わたしのためじゃない。雪見さんのため。
わたし、聞いちゃったの、ファミレスの駐車場で。
川島さんと奥野さんが、帰り際に話してた。
さよならのあいさつをしに行って……聞こえちゃったの。
川島さんは、雪見さんのことが好きだったんだよ。
夏の合宿の帰り、わざと雪見さんの車にシュシュを落としたって。
あれは、彼女の賭けだったんだよ。雪見さんがあれを拾って連絡をしてくれたら……って。
川島さんは
「もっと早く気付けばよかったんだけど、あんまり長いこと、近くに居過ぎたからね。」
って笑っていたけれど……。
“長い時間、近くに” 。
それは、今日、見ていて分かったよ。
高校からの仲間だったら……14年くらい?
その中にわたしが入り込めないことは当然。
そんなことは気にしてない。
わたしが気にしているのはそこじゃなくて……雪見さんも気付いていないだけなんじゃないかってこと。
本当は ―― 考えたくないけど ―― 雪見さんも川島さんのことを想ってるんじゃないかって。
勢いでわたしとの関係を前に進めてしまって、戻れなくなってから気付くんじゃないかと考えてしまう。
だって、14年だよ。
とても長い時間だよ。
雪見さん、言ってたよね? わたしを意識し始めたのは4月からだって。
もしかしたら、異動したばっかりで不安だったところに知り合いがいて、ほっとしただけかも知れないじゃない?
家が近かったり、お弁当を作ってもらったりして、浮かれちゃっただけかも知れないじゃない?
わたし……自信がないの。
何かあるたびに、「わたしでいいの?」って思ってしまう。
それに加えて、これからは、雪見さんのことをずっと見て来て、たくさん理解しているひとがいるのにって。
明日……。
校長先生に結婚することを話そうって……。
雪見さんに「待って。」とは言えない。
それを言ったら、わたしの気持ちに迷いがあると思われてしまう。
そうじゃない。
そんなことない。
わたしは、雪見さんと一緒にいたい。
けれど……怖い。
だから、怖い。
ウワサなんて怖くない。
教師が失恋したなんて話、きっと生徒たちには楽しいだろうけど。
来年の春には、たぶん異動になるはずだし。
恐れているのは、いざとなったら諦められるのか、ということ。
身を引く覚悟はある?
雪見さんに、笑顔でお別れできる?
違う。
“できる?” じゃなくて、そうしなくちゃ。
わたしの方がお姉さんなんだし。
雪見さんの幸せを願うなら、できるはずだよね……。