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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
8 九月の章
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決まらない予定


「来年の春に結婚するっていうのは決まりですからね。」


「・・・はい。」


遊園地の帰りに寄ったサービスエリアのフードコート。

カウンター席の端っこで一息つきながら、これからの予定を確認する。

車の中で「計画的に」と話しているうちに、考えてみたら、春までの半年のあいだに、やらなくてはならないことがあることに気付いたのだ。


春に結婚することは、絶対に動かしたくない。

それ以上待つのは嫌だ。

そこの部分だけは、児玉さんにはっきりと伝えた。


「式場の予約、新居探し、結納? ・・・の前に、児玉さんのご両親に許可をいただかないと。」


「え? うちにはあいさつは済んでるってことでいいんじゃない?」


「いえ、ダメですよ! そうだ、どうしよう? 5倍の約束もあるし・・・。」


最終的に達成できるのが来年の3月だったりしたら、春に結婚は無理か?

いや、もしも達成できなかったら・・・?


「どうしましょう、児玉さん! もしも、5倍が達成できなかったら?!」


この話は終わり?!

そんなの嫌だ!


「ねえ、雪見さん、そんなに気にしなくても・・・。」


「いいえ! 約束したからには頑張らないと。ああ、どうしよう? 親同士の顔合わせとか、結納とかも・・・。」


「もう。そんなに悩むなら、どうしてあんな約束をしたの?」


「だって、児玉さんと結婚するには、あれしかチャンスがなかったんです。児玉さんと結婚できるなら、どんなことでもやります!」


「わ、わかった。わかったけど、雪見さん、声が大きいよ。」


あ・・・。


「あのね、それは落ち着いて考えようよ。今までの実績と、これからの見込みをちゃんと計算して、それから考えよう。ね?」


「・・・はい。」


明日、学校に行ったら、早速これからの予定を入れてみよう。

足りなかったら、俺ももっと積極的に動かないと。


「それよりも、わたしが雪見さんの家に行かなくちゃ。」


「ああ、うちは後回しでいいです。お見合いで会ってますから。」


「え、でも、それは2年前だよ。」


「夏休みに話したときも、反対してませんでしたから大丈夫です。」


「いえ、そういうものじゃないでしょう?」


「平気ですよ。それより、やっぱり児玉さんのご両親が先です。だけど、5倍の約束があるからなあ・・・。」


「またそこに戻っちゃうのね・・・。もういいや。それ以外のことを考えようよ。」


そうだな・・・。

あ、大事な物が!


「指輪です!」


「ああ、そうね。」


「そうです、指輪ですよ。とにかく早く、口約束じゃなくて正式な約束にしないと。そうだ! 来月の児玉さんの誕生日に贈ります!」


「え? 指輪を? 10月1日だけど、間に合う?」


約2週間?


「間に合うんじゃないですか?」


「指輪は選ぶだけじゃなくて、そのあとにサイズを直してもらうんだよ。」


「え?」


「一週間くらいでできるのかなあ? 今まで指輪は買ったことがなかったから・・・。」


「じゃあ、今週の帰りに見に行きましょう。」


「今週は試験前で忙しいよ。」


そんな!


「じゃあ・・・、今度の土日ですか? でも、何軒も見て回ったりするんですよね? その日には決まらないかも・・・。」


「もう、雪見さん! そんなに拗ねた顔しないの。」


だって・・・。

そうやってほっぺたをつついたって、行けないんじゃ・・・。


「うふふふ、わかりました。そうね・・・、水曜日は遅くならないようにする。」


「絶対に、ですよ。」


「はいはい。でも、その日に決められなくても拗ねないでね?」


「はい。児玉さんが気に入ったものに決めてください。」


時間を作ってくれるんだから、いいや。


「あ。ねえ、学校にはいつ報告する?」


「・・・あ、そうですね。」


校長先生には、さすがにギリギリってわけには行かないよな・・・。


「春に結婚するんでしょ? だとすると、わたし、来年はほかの学校に移った方がいいよね?」


「ああ・・・そうですね・・・。」


淋しいけれど、結婚すれば仕事以外は一緒にいられるんだから仕方ないな。


「異動の予定もあるから、年末には校長先生には言わないとね。そのときに、ほかの先生方にも、かな?」


「まあ、そのくらいですよね。」


それまでは・・・秘密だよな、伊藤先生たちみたいに。

生徒たちに知られると、何を言われるかわからないし。


「あとは?」


「ええと・・・、式場、新居、指輪、職場・・・。早く動かないといけないのは・・・式場ですか?」


「そうね・・・。日取りと人数? でも、親の都合が分からないうちにはちょっと・・・。」


「ああ・・・、そうですよね・・・。」


「まあ、来月に入ったら、下見だけでもしようか。予算も何も分からないしね。」


「はい!」


これからは土日も忙しくなりそうだ!

でも、児玉さんと一緒にいられる。

ああ、もう、幸せだ〜♪


「くくくく・・・。」



笑われてる?


「何ですか?」


「ふふ。雪見さんて、心の中が顔に出るひとだなあ、と思って。」


「え、そうですか?」


「うん。特に嬉しいときはね。」


嬉しいとき・・・。


「じゃあ、児玉さんと一緒にいるときは、いつもそういう顔をしてるんですね。」


「わたしだけじゃないよ。」


う、そうなのか?

児玉さんは焼きもちさんだから、気をつけよう。


「うふふ、分かりやすくていいよね。拗ねてるときは特に便利だよ。」


「拗ねてるときですか?」


「そうだよ。だってね、」


肩に手が。

内緒ばなし?


「甘やかしてあげるタイミングがわかるでしょ?」


あ、甘やかして・・・って・・・?


え?

たとえば、どんなふうに?


頭をなでてくれたりとか?

ほっぺたをつん、とか?

ぎゅうっ、とか、チュッ、とか、それとも・・・あ〜!

児玉さんが耳元でそんなこと言うから、想像が具体的すぎて!

しかも、児玉さん、ちょっと寄りかかり気味かと・・・。


「こ、児玉さん、あの・・・。」


「くくく、やっぱりね。」


・・・は?

やっぱり?


「こういう場所だと恥ずかしいんだね。」


「・・・はい。」


人前で仲良くするのは恥ずかしいです。


「ふふふ。」


そうやって俺を笑ってればいいですよ。

・・・また内緒ばなし?


「可愛い♪」



!!



「ふふふ、耳まで真っ赤だよ。」


あ〜、もう!

俺が何もできないと思って!


そうだ!


「児玉さん?」


「なあに?」


「さっき、本気で疑ってたんですか?」


「・・・え?」


「髪留めのこと。」


「・・・ああ、あれか。うーん・・・、どうかな・・・。」


すぐに返事ができないところを見ると・・・。


「ふふっ。もしかしたら、ちょっと困らせようと思っただけかも。」


やっぱり。


「でも、やっぱりちょっと疑った。」


「あ、そう・・・ですか・・・。」


俺、疑われるような男ってこと・・・?


「雪見さんって、いきなり行動に出ることがあるから。」


いきなり行動に・・・?

そんな、危ない。


「で、でも、児玉さん。俺、相手は選んでますよ。」


“だれかれ構わず” ではありません!


「くくく・・・。わかりました。わたしが警戒していればいいのね?」


「まあ・・・、そうですけど・・・。」


できれば、あんまり警戒しないで欲しいです。

せっかく児玉さんの気持ちが分かったのに、隙がなくっちゃ何もできないですから。







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