★★ 今でも・・・? : 児玉かすみ
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
こうやって助手席から横顔を見ながら、心の中で何度つぶやいたか分からない。
口に出しても言ったけど・・・雪見さんは、わたしが何のことを謝りたいのか正確には分かっていない。
わたしがちゃんと言えないから。
今日のことだけじゃない。
わたしの自分勝手なところ全部を謝りたい。
けれど、きちんと言えなくて・・・。
お誕生日の夜に、怒って『送らなくていい』とメールを出したのはわたし。
やりすぎたかなと後悔していたのに、意地になって何も言わなかった。
なのに、助けを求めたら、すぐに来てくれた。
わたしに頼られることが嬉しいって言ってくれて。
謝らなくていいって。
それだけじゃなくて、わたしの失敗の後始末にこうやって付き合ってくれている。
愛想を尽かしたくならない?
わたし、強情だし、意地悪だし、抜けてるし・・・いいところなんて何もない。
最初はほんとうにわたしのことを好きだったのかも知れないけど、こんなわたしだって分かって、嫌気がさしてない?
好きなつもりでいるけれど、それは惰性で思い込んでいるだけじゃない?
それとも、もう雪見さん自身も気付いているのに、言い出せないまま親切にしている・・・とか?
「もう着きますけど・・・、念のため、周りを一周しましょうか。」
どこまでも優しい。
それは・・・間違いなく本心?
心配してくれているのは、わたしに何かあったときに後味が悪いからではない?
単に、近所に住む同僚として・・・。
わたし、疑っている。
不安になっている。
こんなに親切で、優しいのに。
心配してくれたのに。
だって、自信がないんだもの。
それに・・・。
「大丈夫みたいですね。一緒に荷物を運びますよ。」
「うん・・・、ありがとう。」
一緒の時間はもうすぐ終わり。
そうだよね。もう午前1時半になる。
・・・何を考えているんだろう?
わたし、何かを探している
何かを求めている。
ねえ、雪見さん・・・?
足音をしのばせて歩くコンクリートの廊下。
玄関の鍵が開く音。
電気を点けて、スリッパをはいて・・・振り返る。
「ここまでで大丈夫ですか?」
床に置かれた紙袋2つ。
まっすぐに立って微笑む雪見さん。
ああ・・・、ここまで・・・。
「はい・・・。」
ねえ・・・、雪見さん。
「今日はほんとうに、ありがとうございました。」
言いたいのは、こんなことじゃない。
「いいえ。・・・それじゃあ、帰ります。また明日・・・じゃないですね、また朝に。」
「うん。」
「あ、お弁当はお休みしてくださいね。」
「ありがとう。」
「じゃあ。」
それだけ?
何か・・・ああ、待って。
「あの、雪見さん。」
「はい?」
わたしに愛想を尽かしてない?
今でも・・・?
「ええと、あの・・・、あの、おやすみなさい・・・。」
言ってくれる? 今日も?
・・・あ。
「おやすみなさい、児玉さん。」
微笑んだ。柔らかく、優しく。
そして、この声。この響き。
――― ああ・・・これだ。これを探していたの。
よかった・・・。
気付いたら、閉まったドアに微笑みかけていた。
読みに来てくださっているみなさま、いつもありがとうございます。
楽しんでいただけているとよいのですが。
「夏休みの章」はここでおしまいです。
次から「9月の章」に入ります。
予想外に長くなりそうで、自分で不安になってきました・・・。