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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
1 はじまりの章
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4月3日(水) その2


宴会は20代、30代の先生たちが中心だった。

俺はたぶん真ん中くらい。

話の様子では、保健室の堀内先生が一番お姉さんらしい。中学生の息子さんの話をしていた。


きのう会った英語の横川先生も参加していて、何度か話すことができた。

教師になって3年目、生徒を見ていると、自分が高校生だった頃を思い出して楽しい気分になる、と笑っていた。

お酒を飲んでいる姿もやっぱり綺麗で、気付くとその動きを目で追っている。

彼女の隣には、図書室の改装を手伝ってくれた伊藤先生と数学の中林先生が座っている。

3人は気ごころの知れた様子で冗談を言い合っていて、俺なんかの出る幕はなさそう。


俺の隣には体育の小野先生。育児休業明けで4月から復職したばかりの女の先生だ。

児玉さんと同い年で、仲がいいらしい。


「かすみちゃんのお見合いの相手なんですってね!」


と囁かれてびっくりした。

でも、児玉さんが安心して話せるひとなら、やっぱりいいひとに違いない。

復職前にスポーツジムに通った苦労話を面白可笑しく話してくれた。


児玉さんとは席が離れていたけど、図書室改装の話題を出してくれて、先生たちが興味を示してくれたことも嬉しかった。

生徒に宣伝してくれると言ってくれた先生もいた。

まあ、お酒の席の話だから、どこまで当てにできるかわからないけど。



「雪見さんて背が高いですね。何センチくらいあるんですか?」


お。

横川先生から質問?

ちょっと舞い上がっちゃうな。


「185cmです。」


平均身長より高いことだけは自信を持っている。


「ああ、やっぱり。大きいですもんね。」


感心してくれた?

あんなににっこりしてくれてるし!


「でも、ちょっと太めじゃない? 体重はどれくらい?」


さすが堀内先生。

保健室の先生だけあって、全体に目配りが行き届いてますね……。


「ええ…と、はちじゅう…ろく、くらい、かな?」


一気に自信喪失。


「86! それはちょっと重いわね。そのまま行くとヤバいわよ。」


堀内先生、遠慮がないですね……。


「なんだか、かすみちゃんの3倍くらいの体積に見えるよね。」


小野先生まで?!

しかも、 “体積3倍” って……。


「図書室と一緒に、雪見さんも改造する必要がありそうだよ。」


「はい……。」


一応、自分でもまずいかな、とは思っているんですけど……。






「みんな、あんなに言わなくてもいいのにね?」


乗り換え通路を歩きながら、児玉さんが真面目な顔で言った。


同じ路線で帰るのは二人だけ。

児玉さんの言葉遣いが親しげに変わっていることが嬉しい。


「いいんですよ。遠慮なく言ってもらえる方が気楽ですから。」


「でも。」


笑っている俺の隣で、児玉さんはまだ不満そう。


「はは、ありがとうございます。おととし、あんなに失礼なことをしたのに、そんなに庇ってくれるなんて。」


「そのことは、もういいんです。雪見さんが本当はいいひとだって知ってるから。」


え?


そんなふうに言ってくれるなんて。

普通に話すようになって、まだ二日目なのに……。


酔ってるせいなんだろうか?



俺は酒がまったく飲めない。

けれど、宴会は好きで、誘われればたいてい断らないし、飲めない分は食べている。

大学生のころは無理に飲まされたりしたけど、社会人になってからはそういうことがなくなり、安心して宴会に出られるようになった。


彼女は俺とは正反対で、 “お酒ならなんでも来い!” のひとらしい。

かなり飲んでいたけど、それほど酔っていないように見える。

少し頬が赤いし、いつもよりさらに楽しそうではあるけれど。


「あの、ええと、 “いいひと” って……どうして分かるんでしょう?」


「ふふふ。異動の情報が来たとき、前任の前川さんにどんな人なのか聞いたの。」


“にこ” と “ニヤ” の中間くらいの笑顔で児玉さんが答える。

そんな笑い方をすると、鼻の真ん中に小さい縦じわができて、ちょっと猫みたいだ。


「前川さんに?」


「そう。真面目でバランスのとれた人だって言ってた。」


「真面目で……バランス?」


「うん。仕事に対して真面目に取り組んでいるのはもちろんだけど、それだけしか目に入らなくなるタイプじゃなくて、全体的な気配りができる人だって。」


前川さんが……俺をそんなふうに?


「ええと……、ちょっと褒めすぎだと思います。」


失望されるのが怖い……。


「うふふ。わたしも、同業者だから何割増しかにしているかもって思ってるけど。」


「そうですよね。」


それが当然。


「でも、わたし、見たんだもん。」


「見た?」


この体だし、知ってる人ならすぐに目に付くだろう。


「バスからベビーカーを降ろすのを手伝ってた。」


あ。


「ええ、その……、力しか役に立つことがないので……。」


「お年寄りにドアを開けてあげたり。」


「ああ……、はい。」


「道を教えてあげたり。」


「ええ、まあ。」


なぜか、俺はよく道を尋ねられる。


「ね? いいひとでしょ?」


また猫の笑顔。


胸がじん、とする。

たいしたことじゃないのに、それを認めてくれる人がいる。


「ありがとうございます。」


児玉さんは楽しそうに、バッグを大きく振って歩いて行く。

酔っぱらっているのは間違いないその姿が、なんだかとても優しく見えた。






鳩川駅に着いたのは10時過ぎ。

「さよなら。」と手を振る児玉さんに「送ります。」と言ったら、とても驚かれた。


「ええと、べつに女性として扱ってもらわなくてもいいんだけど。」


なんてことを言うんだろう!


「でも、同じ方向ですよね? それに、歩ける距離ならたいしたことないですから。」


バスの本数も少ないし。

ほんとうは、もう少し話したい気持ちの方が大きい。


「……雪見さん、家はどこ?」


「西森3丁目のバス停のあたりです。」


「3丁目? じゃあ、バス停3つ?」


「はい。」


このバス路線は、駅側から西森1丁目、2丁目、3丁目と続く。


「わたし、2丁目だよ。」


うちと近い!


「あ、でも、歩いてますよね?」


「そう。駅からの距離が近くてバス利用が認められないの。2丁目でも駅側だから、徒歩圏内にギリギリ入っちゃってるんだよね……。」


じゃあ、俺はラッキーだったな。

西森方面は山になってるから、帰りが登りになる。


なんて考えていたら、児玉さんがにこにこして俺を見上げた。


「じゃあ、送ってもらうことにします。」


「あ、はい。」


やった!


歩き出したところで児玉さんが無邪気な顔をして言った。


「雪見さん、バスをやめて歩いたらどうかな? せめて、帰りだけでも。」


「……え?」


仕事帰りにあの距離を歩いて、しかも坂道はキツい!


「だってさ、残念じゃない?」


「残念、ですか?」


「うん。その体型。」


はっきり言ってくれますね……。


「横川先生に見惚れてたでしょ?」


え?

それも見られてた?


「2年前の雪見さんなら絶対にお似合いだと思うんだよね。」


「ええと、でも、2年分歳をとってますけど……。」


「いやいや、そのくらいの歳の差もちょうどいいし。ねえ、痩せてみたらどう?」


「はあ。」


どうしてみんな、こんなに簡単に「痩せてみろ」って言うんだろう?


「なんですか、そのやる気のない返事は!」


「は、はい!」


さすがに先生だけある。

こんな言い方をされると背筋が伸びる。


「堀内先生も言ってたでしょう? ヤバいって。」


「はい。」


「じゃあ、痩せましょう。」


「はい。わかりました。」


まあ、いいや。

酔った勢いで言ってるだけだろうから、明日になれば忘れてるよな?







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