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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
7 夏休みの章
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反省会


「今日はありがとう。それと、ご馳走さま。」


「こちらこそ楽しかったです。ありがとうございました。」


夜の9時。

児玉さんのマンションの前。


夕食の回転寿司の店を出たあと、軽く渋滞に巻き込まれながら帰って来た。

車の中ではさりげない会話を続けながら、頭の中でロマンティックなサヨナラの場面を想像していた。


降りようとした児玉さんの手を掴んだら?

児玉さんが降りる前に抱き寄せたら?

もしかしたら、児玉さんの方から何か・・・?


けれど。


朝と同様に、児玉さんは車が止まるとさっさとドアを開けて降りてしまった。


「ええと、忘れ物は・・・あ、帽子。」


「あ、ええと・・・、はい、どうぞ。」


「ありがとう。」


もしかして、警戒されているのか?

俺が次の行動に出る隙がないように。


児玉さんが助手席側の外に立っている限り、俺の手は届かない。


「じゃあ、雪見さん、おやすみなさい。」


「はい・・・。おやすみなさい。」


シンプルなあいさつ。

何のお名残もなし。


さようなら ――― 。






帰ってシャワーを浴びると、首のうしろが日焼けでひりひりした。

児玉さんに倣って、ちゃんと日焼け止めを塗っておけばよかった。


髪を乾かすのも面倒になって、タオルを広げてベッドにうつぶせに倒れ込む。



結局、何もできなかった・・・。


はあ・・・。

俺って意気地無しだな・・・。



俺、こんなに弱気だったっけ?


もともと強引な性格ではないけれど、これほど何もできないわけでもなかった気がする。

児玉さんに対してだって、お米を届ける約束も、うちに来てもらう計画も、断られないように上手く持って行った。

お見合いを阻止するために、告白だってした。(勢いと言えばそうだけど。)

今日だって、ちゃんとデートに誘った。


なのに・・・。



チャンスはあったよな? 何度も。


よろけた児玉さんを支えてあげたりはできたのに、その次の手が出せなくて。

差し出せば、手を預けてくれたかも知れないのに・・・。



だけどそれが、 “断れなくて仕方なく” じゃないとは言い切れないじゃないか。

俺に遠慮して言えないとしたら?


・・・そんなの悪い。児玉さんに申し訳ない。



でも・・・、待っていたとしたら?



そんなこと、あるだろうか?

児玉さんが俺が行動に移すことを待っている?

あの児玉さんが・・・?



あり得ない気がする。


あんなふうに屈託なく笑う児玉さんが、俺が次の行動に出るのを待っている?

そんなこと、あり得ない!


第一、児玉さんは、俺とのことはまだ考え始めたばっかりだ。

告白してから一週間ちょっとしか経ってないんだから。


あの日、彼女はものすごく驚いていて、次の日も、まだ整理しきれていなかった。

ご両親の前で、俺のことをどう説明したらいいのか困ってしまって、そのことでお父さんと喧嘩になって。


そんな状態から一週間で、俺が行動に出るのを待ってる?

絶対にあり得ない!



・・・ということは、今日は何もしなくて正解か。


少なくとも、帰りまでずっと、児玉さんは笑顔だった。

一緒にいることに安心してくれていたってことだ。

俺の前で昼寝だってしていたし。


警戒していたら、寝顔なんか見せないよな?

・・・児玉さんだったら、あり得るのか?



あるのかも。



児玉さんて、誰に対しても警戒心なんか持ってないんじゃないか?

俺にだって最初から遠慮なく触っていたし、平気で内緒話とか・・・。

俺自身も、その無邪気さにつけ込んだと言えなくもない。



ってことは・・・?



ふぅ。

結局、何も分からないってことか。



でも。



もしも・・・、ほんとうに “もしも” の話だけど。


待っていてくれたとしたら?

俺が・・・行動に移すのを。



たとえば。


たとえば、さっき、児玉さんが車のドアを開ける前に引き留めたとしたら。

うーーーん、そうだな、肩に手を掛けるとか・・・、こっちを向いてもらえるように。

で、思いっきり・・・。


いや、それだと、俺が大急ぎでシートベルトを外さないと無理か? 児玉さん、すぐに降りてしまうからな。

よっぽど素早くやらないと、怪しまれるような気がする。

でなければ、慌てたあまり、ベルトに腕を引っ掛けてしまうとか。

いくら児玉さんが期待してくれていたとしても、俺があたふたしていたら、雰囲気が台無しだ。


じゃあ・・・、降りそうになった児玉さんの腕をつかんで止めるとか。


もう一度、席に座り直して・・・こっちを向いてくれる?

そうしたら、そこでシートベルトを外せばいいな。


で、児玉さんが微笑んで・・・。

その笑顔はいつもと違って、恥ずかしそうに?

・・・うん、そうだな、たぶん。俺が何のために引き留めたのか察して。



――― え? “何のために” って・・・。



まあ、ちょっと、軽く・・・ぎゅっ、とか。車の中とはいえ、外だし。


ハグとキスって、どっちが軽いかな?

一瞬だったら、両方でも大丈夫か?


でも、止まらないかも。

児玉さんが察したうえで微笑んでくれたってことは、要するに「OK」ってことだし。

そのまま部屋にとか・・・・あ。



何を考えてるんだ、俺は!


馬鹿だな、もう!

あくまでも、 “もしも、待っていてくれたとしたら” の話だ。



実際には何もできなかったくせに。

これからだって、ちゃんと手を出せるのか・・・、 “手を出す” のに “ちゃんと” って変か。

いや、でも、まさに手を出すかどうかの話で・・・ああ、ややこしいな!


要するに、今のところ、俺が児玉さんに触れることができないでいるってことがポイントなんだよな。

意図的に手で触る、っていうのができないんだ。

こういうのを奥手っていうのか? なんだか、言葉そのものだな・・・。




あーあ。

そもそも児玉さんの気持ちが分からない状況で、こんなことを考えていても空しいだけだ。


とりあえず、今日一日を楽しく過ごせたってことで満足しよう。


そうだよな?


だって、あんなに可愛らしい服を着てきてくれたし。ネイルまでして。

昼寝用のバスタオルを用意したって話してくれたときも、とても楽しそうだった。

俺の作ったサンドイッチに驚いて、「ありがとう。」ってすり寄ってくれて・・・。これは大金星だよな?


うん、そうだ。

一歩とはいかなくても、少しは進んでる。



急ぐ必要はないんだよな。


向こうのご両親にお見合いは待ってもらえることになっているし、学校という職場では、来年まで新しい出会いはないだろう。

それに、児玉さんは俺を候補者と認めてくれているんだから、ほかの男に言い寄られても、そっちを断って・・・くれるよな?


いや。でも。


そいつが俺なんか足元に及ばないほどの男だったら?

何かのはずみで、そういう出会いだってないわけじゃない。

エリートで、イケメンで、金持ちで・・・、それから性格も良くて、おっかない伯母さんもいなくて、児玉さんをお姫様のように大切にして・・・、そういう男が現れたら?



・・・譲れない。



絶対に譲らない。


児玉さんを大切にするのは俺だって同じだ。

どんなに相手の条件が良くても、俺にいろいろな限界があっても、児玉さんを大切に思う気持ちだけはほかの男には負けない!



そうは言っても・・・。



はぁ・・・。

どうやったら、間違いなく好きになってもらえるんだろう?


世界中で何万人もの人が、同じように思っているのかな・・・。







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