表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
7 夏休みの章
59/129

お誘いします。


図書室でおはなし会をやった日、家に帰ってから夏休みの予定を確認していて気付いた。



児玉さんをデートに誘ってもいいんじゃないか?



あまりにも家が近すぎて、いつでも会える気がしていたから気付かなかったけど ―― まあ、実際、毎日一緒に通勤してるし、休日でもお米を持って行ったりしてるから ―― 、特別に二人で出かけるっていうのは当然 “あり” のはずだ。

俺は児玉さんに告白したんだし、児玉さんは・・・たぶん、考えてくれるつもりがあるようだから。


うん。

誘ったらきっと「いいよ。」って言ってくれる・・・んじゃないかな。



どこがいいだろう?

日帰り・・・だよな? 当然だ。


せっかくだから、車がいいな。

電車で行くよりも融通がきくし、何よりも二人だけの空間っていうのが・・・。

けっこうきわどい会話なんかも・・・? いや、あんまり期待しない方がいいかな。相手は児玉さんだし。

でも、どこか夜景のきれいなところに行ったりしたら、もしかしたらってことも・・・?


いや、ないないない。

きっと無理だ。


とにかく、まずはどこに誘うかが先だ。

今度の日曜日? うん。

涼しいところ? まあ、無難なところで山か海?

ドライブ? 海の方の道は混んでるかな? 山も同じか?


・・・できればのんびりしたいな。

二人でゆっくり話したり・・・、黙っているだけでもいいし・・・。

児玉さんが一緒にいてくれるだけで・・・。


海、かな。


大学のころに行った小さい海水浴場。

あそこなら・・・。


今から誘ってみよう。

昼間、会ってはいるけど、夜に電話で話すのって少し意味が違うよな? 親密な雰囲気っていうか。


なんだか、ドキドキする・・・。





『今日はボラ部の生徒がお世話になりました。』


話を切り出す前に、児玉さんにお礼を言われた。

心の中で恋人トークを期待して盛り上がっていた俺としては、かなり不本意な流れでがっかり。

まあ、今日の話だから仕方がないけど。


『みんな、とても参考になったって言ってたよ。それに、雪見さんが「できるよ。」って言ってくれたからやれそうな気がするって喜んでいて。』


「そうですか。お役に立ててよかったです。」


部員たちは事前に勉強していたらしく、具体的な質問が多かった。

俺は、実際の本の持ち方を教えたり、文化祭では会場の飾り付けや小道具を使って演出するとよいことなどを話してきた。


「でも、女の子ばっかり10人もいると、ちょっと怖かったですよ。何て言うか、圧倒されちゃって。」


『ああ、うふふ、わかります。勢いがつくと早口でしゃべったりするしね。』


「そうなんですよ。まあ、熱心に質問してくれるのは嬉しいんですけど。」


中には興味本位の質問もあって、困ってしまった・・・。


『わたしがいない方が生徒が気楽だろうと思って、あんまり顔を出さないんだけど・・・、雪見さん一人ではたいへんだった?』


「あ、いえ、それほどでは。ちょっと驚いただけですから。」


『そう? ならいいけど。』


児玉さんの前では答えにくい質問もありましたから。


ということで。

いざ、本題に!


「あの・・・、今度の日曜日、一緒に出かけませんか?」


言えた!


『え? あ・・・。』


返事に詰まってる・・・?

もしかしたら、出かけるのはNG?


『ええと、あの、それは・・・あの・・・?』


あ、出かける意味を問われてるのか?


「え、ええと、その、二人で・・・海にでも行きませんか?」


いざとなると「デート」って言いにくいな・・・。

これで伝わっただろうか?

お願いします。「はい。」って言ってください!


『あの・・・、海って、泳ぐの・・・?』


「え? あ、ええと、い、いえ、泳がなくても、その、パラソルを借りて、昼寝とか。」


ああ・・・、ダメだな、俺は。

「昼寝」じゃなくて、もうちょっと何か言い方があるだろうに。


『パラソルを借りて昼寝・・・いいね。』


いいんだ?!


『海を見ながらお昼寝なんて、気持ち良さそう。海にはずっと行ってないし・・・、どのあたり?』


「あ、ええと、鯨崎市にある小さい海水浴場がいいかなと。車で1時間半くらいかな。海岸は狭いですけど、ちゃんと海の家もありますよ。」


『じゃあ、お昼の心配はいらないね。』


「はい、大丈夫です。着替えないなら、手ぶらでも行けますよ。」


『あら。じゃあ、お財布も持たないで、全部雪見さんにおごってもらっちゃおうかな?』


「わかりました。どんと来いですよ。何なら100万円くらい持って行きましょうか?」


なんだか楽しい、こんな会話。

電話してよかった!


『わあ、ほんと? それなら遠慮しないで高級リゾートホテルにでも寄って、』


ホテル?!

児玉さんから?!


『一番高いディナーをご馳走になっちゃおうかな? 何十万もするワインもつけて。』


あ、ディナーね。


うん、そうだよな。

ああ、びっくりした。


「一人で何十万円分も飲んじゃうつもりですか?」


『そうねえ・・・。飲み切れなかったらお持ち帰りはできると思う?』


「さあ? でも、児玉さんならボトル一本くらい行けるんじゃないですか?」


で、酔った児玉さんを俺がお持ち帰りしますよ。・・・とは言えないな。


だけど・・・、ってことは、遅くなってもいいってことか?

じゃあ、夕食もどこかで・・・。


「児玉さん、すみません。ホテルのディナーはまた今度ということで、回転寿司ではどうでしょう?」


ちょっとムードには欠けるけど。


『回転寿司?』


「はい。あの辺に2軒くらい、美味しい回転寿司があるんです。チェーン店じゃなくて。」


『そうなの? そういえば、鯨崎って漁港もあるもんね。うん、行きたい♪』


その口調!

まるっきり “彼女” じゃないですか!

嬉しい〜〜〜!

なんか、もう!


「あの、じゃあ、ええと、日曜日は、混まないうちに着きたいので・・・7時ごろ出発でもいいですか?」


『はい、わかりました。』


「あの、それじゃあ、その、」


ダメだ。

舞い上がっちゃって、何を言えばいいのか自分でもよく・・・。


『雪見さん?』


「え、あ、はい。」


『おやすみなさい。・・・ふふ。』



!!



「あ・・・、あの・・・、はい、おや・・すみなさい・・・。」


なんだろう?

どうしよう?

いつもよりゆっくりした話し方がなんだか・・・。


『また明日ね。』


「はい・・・。」


また明日・・・。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ