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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
1 はじまりの章
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 ★★ よかった! : 児玉かすみ


思い切って話しかけてみてよかった!

前任の前川さんは「穏やかないい人よ。」って言ってたけど、もしかしたらわたしは嫌われているのかも知れないって心配だったから。



雪見さんがうちの学校に来るってわかったときには本当にびっくりした。


お見合いのプロフィールには『地方公務員』としか書いてなかったけど、当日、高校の司書だって聞いて、さらにあの態度を見て、まずいかも、と思っていた。

あとで教育委員会の名簿を調べたら名前があったから、「どうか、一緒の勤務になりませんように!」と願った。

だって、気まずいもの。


ところが、お見合いのあとに始めた一人暮らしで、駅で雪見さんを見かけて驚いた。

一瞬、もう一度引っ越そうかと思ったほど。


でも、背が高いせいですぐに目に付く雪見さんにとっては、逆にわたしは小さくて視界に入らないようだった。

だから、避けるのも簡単だった。

もしかしたら、わたしが髪を切っていたから、見てもわからなかったのかもね。


駅前のスーパーや少し離れた大きな書店、レンタルDVDのお店…何度も見かけた。

そういうときの雪見さんはお見合いの席での彼とは違っていて、落ち着いた雰囲気だった。

ベビーカーのお母さんやお年寄りに、優しい笑顔で手を貸しているところを何度も見た。

それを見て、雪見さんがあのお見合いがどれほど嫌だったのか、よくわかった。



あのお見合い……。



学生時代から付き合っていた彼と、仕事や結婚のことで意見が合わなくなって別れたばかりのこと。

お母さんが断りづらいって言うし、27歳という年齢だったら、話のタネに1回くらいいいか、と思って会うことに決めた。

写真はそこそこのイケメンだったけど、緊張した表情からは、どんな性格なのか読みとれなかった。そうしたら、あんな態度で……。



はっきり言って、呆れてしまった。


子どもっぽいひと。

嫌なら「断ってください。」って言ってくれればいいのに。

でなければ、その場で断ってくれても。

なのに。



帰って、お母さんに断ってくれるように言ったあと、思い出したら今度は気の毒に思えて来た。

向こうも初めてのお見合いだっていうことだったのに、相手が何の取り柄もないわたしではね。

結局のところ、わたしだって “話のタネ” 程度の気持ちだったわけだし、一方的に雪見さんが悪いなんてことはない。


でもやっぱり、ばったり会うのは気まずい。



それなのに、引っ越したら同じ駅に住んでいた。

今年からは同じ職場になった。


なんていう縁だろう?



近所で見かけた姿と前川さんの言葉で、雪見さんが悪い人ではないことは分かった。

だけど……、やっぱり話しかけるのは勇気が必要だった。

でも、これから同じ職場で仕事をしていくのに、個人的な感情で避け続けるわけにもいかない。


今朝、駅で一緒になれてちょうどよかった。

時間が経てば経つほど、言い出しにくくなっただろうから。

あのお見合いをきっかけにして、わたしの価値観が変わっていたこともよかったかな?




それにしても、あんなに謝ってくれるなんて。

しかも、あんなにしょんぼりした顔をして!

“気まずい” とか “失敗した!” ではなく、わたしに対して悪かったと思っていることがよく分かった。

あんなふうに謝られたら、もし今まで怒っていたとしても、きっと許してしまう。


やっぱりいい人だ。

わたしのことが嫌いなわけではないようだし。

結婚相手としてじゃなければ大丈夫ってことだよね、きっと。

わたしが年上だってことも、新しい関係にはちょうどよさそうな気がする。



少しふっくらした大きな体で穏やかそうな性格の雪見さんを見ていると、なんとなくクマかパンダを連想してしまう。

……ああ、クマやパンダほど太ってはいないかな?

クセのある髪を軽く分けて額に下ろしているのも、穏やかな性格に合っているように思う。


安心して話せるのは、あの外見のせい?



……違うな。それだけじゃない。



雪見さんには一度、お見合いで断られてるから、気楽なんだね。

まあ、正式にお断りしたのはこちらだけど、あれは雪見さんが先に態度で示したんだものね。考えるまでもなかったよ。

恋愛なんて気にしないでいい思うと、男の人とも気楽に付き合えるよね。



もう、お見合いのときみたいにふて腐れたり、拗ねたりしないかな?


まあ、これからあんな態度をとられても、たぶん、全然気にならないな。

普段の雪見さんを見ているし。

わたしの方がお姉さんだし。

雪見さんはわたしには負い目があると思っているようだし。


一喝したら、すぐに言うことを聞いてくれそう。……なんて思ったら悪いかな?







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