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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
6 七月の章
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そう簡単には


7月に入った。


先月はなんだか忙しかった気がする。


球技大会で始まり、中間テスト、児玉さんを部屋に呼んで。

後半は3年生のLHRの準備とボランティア部用の資料探し、国語科の夏休みの読書課題のプリント作り、7月の特集の準備(テーマは『旅』)、それに日々の仕事・・・。


うん。

たしかに忙しかった。


図書室の利用者が増えたことも、忙しくなった原因の一つだ。

もちろん、これは嬉しいことでもある。


5月の後半から増え始めた貸し出し冊数が、さらに伸びた。

リピーターが増えたし、友達を連れて来たりすると、その子も借りてくれることもある。

または、気に入った本を友達に熱心に薦めてくれたり。


利用者は、特に昼休みが増えていて、本を借りない生徒も含めて毎日20人以上はいる。

忙しくなったので、図書委員がおしゃべりをしている姿を見なくなった。

返却された本を昼休み中に書架に戻しきれないことも、ときどきある。


中間テストが終わったあとも、新聞を読みに来続けている生徒が7、8人いる。

おもに3年生で、受験や就職のための面接や小論文に役立つからと言っていた。

たまに、朝や授業間の短い休み時間に寄って行くこともある。

彼らにとって図書室が身近な場所になってきている、ということが嬉しい。


放課後の利用者も増えている。


自由席にはほぼ毎日、何組かの生徒が座っている。図書委員以外の生徒も待ち合わせに利用している。

学習コーナーの利用者は、6月下旬には5人前後になった。

本を借りに来る生徒を含めると、毎日10人以上になっている。



去年の一日の利用者数は、昼休みが7〜10人、放課後が5〜8人だから、もうすでに超えている。

でも、3倍は・・・まだまだだ。近付いてはいるけれど。

放課後の机の利用者だけを見れば、去年は最大で3人だったから、今の自由席の利用も合わせれば、ほぼ3倍ではある。


そういえば、「利用者数3倍」っていうのは、年間の合計のことなのか?

だとしたら、最初の2か月がそれほどじゃなかった分、難しいかも知れないな。

これからどれほど増えるのか・・・日々の3倍じゃ追いつかない。


やっぱりそう簡単なことじゃないよな・・・。




“そう簡単なことじゃない” のは、ダイエットもだ・・・。


「おはようございます・・・。」


梅雨空と同じような少し憂うつな気分で保健室の戸を開ける。

最近、体重が減っていないのだ。


「ああ、おはよう。」


堀内先生は毎日変わらない。

雨の日でも晴れの日でも、白衣を着た姿は背筋がピンとしていて、低めの声は歯切れがいい。

率直な話し方にも安心する。


「どうしたの? 元気がないようだけど。」


保健室に来るとつい気が緩んでしまうのは、堀内先生の雰囲気のせいだ。

憂うつな気分を顔に貼り付けたまま保健室に入ってしまった。


「ここのところ、体重が減らなくて・・・。」


「あら、そうなの?」


「そうなんです。今月は結局、84.5から85キロちょっとの間を行ったり来たりで。」


減るのかな・・・と思うとまた戻って、を繰り返している。


「まあ、そういうときもあるわよ。何か新しいことを試してるの?」


「いいえ。実は、半月くらい前にジョギングを始めようと思ったんですけど、梅雨入りしてしまって。」


「ああ、思い付いた時期が悪かったわね。」


「はい・・・。」


一応、休日の晴れ間に一度だけ走った。

ところが、この時期特有のべとべとするような暑さに参ってしまって、予定の道のりを走りきることができなかったのだ。

で、それ以来ずっと、雨を言い訳にして走りに出ていない。

初めにつまずくとやる気がなくなってしまうのが俺の悪いところだと、自分でも分かっているけれど。


まあ、ここでぐずぐず言ってても仕方がない。

早く済ませて図書室に戻らなくちゃ。


「体重計、お借りします。」


「はい、どうぞ。」


あーあ。

なんだか乗る気が起きない。

ここに来る目的が、堀内先生に愚痴を聞いてもらうことみたいな気が・・・あれ?



減ってる・・・?



体重計の調子のせいかも。

梅雨で湿気が多いから、機械類の具合がイマイチになったり。



・・・83.9。やっぱり減ってる。



「堀内先生。」


「なあに?」


「減ってました。」


「あら! どれどれ・・・・、83.9? 新記録?」


「はい。」


なんでだ?


「ふふっ、理由が思い当たらない?」


「はい・・・。最近、仕事が忙しかったのは確かなんですけど・・・。」


「いいじゃないの。仕事が充実していて、ダイエットにもなるなんて。」


「・・・そうですね。」


うん。

そのとおりだ。


「あ、ねえ、雪見さん。リハーサルはいつやるの?」


「え、リハーサル?」


「ほら、3年生におはなしをするんでしょう? それを事前に見せてくれるって、児玉先生が言ってたわよ?」


ああ、あれか。


「堀内先生、誤解ですよ。リハーサルじゃなくて、悪いところを指摘してほしいんですから。」


「でもさあ、どんなものか分からないんだから、指摘しろって言われてもね。」


「大丈夫です。聞きづらかったり、違和感を感じたりしたところを教えてもらえれば。」


「ふうん、そんなもの? まあ、あたしはいつでもいいけど。」


「そうですか? じゃあ、今週中に一回お願いしようかな・・・。」


とりあえず話は覚えたから、一度聞いてもらった方がよさそうだ。

聞き手の反応を見たいし、変なところを直す時間が必要だし。


それに・・・。


大学を出てから、読み聞かせもストーリーテリングも初めてだ。

生徒に向かって話すことなら何度もやっているけれど、物語そのものを伝えるのは別格な気がして緊張する。

もちろん、プログラムを考えて本を選ぶのは面白いけど・・・。


「児玉先生の都合を確認してみます。よろしくお願いします。」


とにかくやらなくちゃ。


そして、やるからには、聞いた生徒たちに満足してもらいたい。







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