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児玉さん。俺、頑張ります!  作者: 虹色
5 六月の章
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 ★★ へえ・・・。 : 児玉かすみ


6月19日、木曜日。

雪見さんのお部屋にお邪魔してから4日が過ぎた。


あの翌日からも、前と変わらない日が続いている。

毎日のお弁当、同じ電車での通勤、当たり前の会話。


あの日のことは、気にならないわけじゃない。

けれど、だからと言ってどうすればいい?

わたしは横川先生の代わりにはなれないんだから。

雪見さんにとって、わたしは異性の友人でしかないんだから。


わたしにできることは、せいぜい雪見さんに優しくしてあげることだけ。

失恋した淋しさは、自分で乗り越えて行くしかない。


どうやら雪見さんもそのあたりは心得ているらしい。

月曜日の朝は、なんとなく落ち着かなげだったけれど、一昨日からはそんな様子も見えなくなった。

笑顔は前と変わらないし、お弁当を受け取るときの嬉しそうな態度も元どおり。

今日のお昼に空のお弁当箱を持って来たときも、恥ずかしそうな態度はいつもどおりだった。



・・・ふふ。



あの恥ずかしそうな様子を見ると、毎週、楽しくなってしまう。

もう一か月以上経つのに、全然慣れないのよね。

周りの目を気にして、そわそわして。本当に照れ屋さんだ。


あれを見ると、わたしの方は逆に余裕が生まれてしまうのが不思議。

なんとなく、お姉さん的気分っていうか。



そういえば、来月、3年生の2クラスでLHRの予定が入ったって言ってたっけ。

職員室の机に本を置いておくだけの作戦なんて控えめ過ぎると思っていたけれど、そこからそんな展開になるなんてびっくりだな。

まあ、坂口先生だって図書室担当なんだから、そのくらいの協力は当然なのかも知れないけど。


でも、あの机の上の本は、たしかに最近、見ている先生が増えた。

横川先生がよく借りていたし・・・。


横川先生は華やかで、そこにいるだけで目に付くから、一緒に立ち止まっている先生が多かったもんね。すごい宣伝効果。

校長先生は最初に借りたあと、毎週、図書室に行っているみたい。


新人の奈良先生は、うちの図書室でドラマの原作本を借りるって言ってたなあ。

市立図書館だと予約して何週間も待たないといけないけれど、図書室なら待っても1、2週間だって。

そんな利用の仕方もあるのね。


・・・そうだ。

わたしも何か、授業で利用できるといいな。


この前、図書室を見せてもらったとき、生徒が興味を持ちそうな本がたくさんあったよね。

あのときは色々なことを考えたけれど、あのあとすっかり忘れてた。

もう一人の家庭科の山田先生とも相談してみようかな?

家庭科って幅が広いし、経験豊富な山田先生なら、何かいいアイデアがあるかも知れない。


山田先生が無理そうなら、ほかの学校の先生に聞いてみてもいいよね。

この前の研究授業で一緒になった先生とか。

夏休みの間に、少しじっくり考えてみようかな・・・。


「児玉先生。」


「あ、はい?」


ああ、佐藤さんと植田さん。

ボランティア部の部長さんと副部長さん。

今日は週2回のボラ部の活動日だ。


「今日はもう終わり?」


「はい。」


「そう。お疲れさま。」


被服室を活動場所にしているボランティア部は、終了時に鍵を閉めて返しに来ることになっている。

活動と言っても、練習することがあるわけでもないボラ部は、たまに見に行くと、楽しそうにおしゃべりをしていることが多い。

保育園や老人ホームに行く前は、不安そうに以前の状況を話していたりすることもあるけれど。


鍵と『活動日誌』のファイルを受け取って、いつものとおり、ファイルを開く・・・と。


普段は「○○について打ち合わせ。」としか書かれていない活動内容の欄が、文字で埋まっている。


「・・・『文化祭について打ち合わせ』?」


「はい。佐藤さんから提案があったので、それについて・・・。」


植田さんの言葉に顔を上げると、佐藤さんが控え目に微笑んだ。


「何かいい案を思い付いたの? 先週、心配していたみたいだったけど・・・。」


日誌に目を戻して読み進む。


『佐藤さんから “おはなし会” の提案と説明。』

『対象年齢 ―― 高校生、中学生くらい。』

『テーマを検討すること。』

『“おはなし会” や “読み聞かせ” の本を読むこと。』

『実際に見てみたいけど、どこかで見学はできるのか?』


「おはなし会?」


「はい。絵本とストーリーテリングで、午前と午後に一回ずつやるのはどうだろうって。」


「絵本とストーリーテリング・・・。わたし、見たことがないんだけど、どんな感じになるの?」


「ええと、わたしもまだ本で読んだだけなんですけど、集団に対して一人が読んであげるっていうもので・・・。」


「ああ。保育園の先生みたいな感じ?」


「あ、ええ、そうです。」


なるほどね。

いつもの訪問で絵本を読むときは、隣に座ったりして1対1でやるけれど、それをイベント風にするってことなのね。

たしかに普段の活動内容とつながりがあるし、お客様に興味を持ってもらえそう。


「楽しそうね。できそう?」


「はい! 図書室の雪見さんに訊いたら、わたしたちでもできるって言われました。」


「雪見さんに?」


わたしより先に雪見さんに?

ずいぶん積極的。

それだけこの子たちが乗り気だってことなのか・・・。


「はい。分からないことがあったら相談に乗ってくれるって。」


「ああ、そうなの。よかったね。」


「はい。自分も勉強しておくからって言ってくれて。」


ふうん。

さすが雪見さん。

部活動の世話なんて予想外でしょうに。


きっと、当たり前の顔で引き受けたんだろうな。いつものあの笑顔で。


「そう。成功するといいね。」


「はい。」


この二人も嬉しそう。


そうだよね。

“文化祭で発表” っていう目標ができたんだもの。


あとで、雪見さんにお礼を言わなくちゃ。







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